人生を前向きに生きる力がわいてくるユニークな節約小説
この妙に印象に残るタイトルは、登場人物のひとり、73歳の御み厨くりや琴子の「名言」に由来している。いわく、「人は三千円の使いかたで人生が決まる」のだ。
例えば、琴子の孫娘、美帆は中学生のとき、お年玉の三千円は友達と過ごすマックの費用と本一冊に使ってすぐになくなったが、そのことをあまり気にしていない。一方、美帆の姉である真帆は、同じく三千円のお年玉に自分の小遣いを足して、デパートでかわいいピンクのエナメルの財布を買った。そしておよそ10年後、社会人2年目の美帆はおしゃれなエリアとして知られる街で一人暮らしをしているが、貯金はようやく30万円。一方、薄給の夫と幼い娘と暮らす専業主婦の真帆は、結婚6年目にして600万円を貯めている。無駄遣いしているつもりはないのにお金が貯まらない美帆と、いまだに例の財布を大事に使い続け、子育て資金確保のため節約に励む真帆。対照的なふたりの描写に、「確かに、三千円をどう使うかはけっこう大事かも!」とひざを打ちたくなる。
あることをきっかけに貯金に目覚めた美帆から始まる物語は、御厨家の女性たちの「節約」を巡って展開していく。夫に先立たれて一人暮らしの琴子も、美帆と真帆の母である53歳の智子も、それぞれの人生のステージでお金の問題に直面せざるを得ない。結局、人生のいたるところでお金がものを言うことがつくづく身につまされるが、登場人物たちのお金の悩みに一喜一憂するうち、前向きなエネルギーが心の中に満ちていくのがこの小説の醍醐味だ。ラストで、美帆は結婚を前にかなりつらい決断を迫られるが、バランスのとり方が難しい人生とお金の関係について、読者はあらためて考えさせられるだろう。
披露される数々の節約テクに背中を押されながら、やっぱり自分の人生は思うように生きたいと奮い立つ。そんな勇気がわいてくる、不思議な「節約小説」だ。
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