島清恋愛文学賞受賞の酒場で語りたくなる恋愛話
ヒコロヒー初の短編恋愛小説集である『黙って喋って』がもう、辛い。いい意味で辛い。どうしようもない恋愛のどうしようもない鮮度とエグさが18編にみちみちに詰まっていて読んでいてどうしようもない気持ちになる。「国民的地元のツレ」の愛称で親しまれるだけのことはあり、わたしも例に漏れず地元の姉さんだと勝手にものすごく親しみを持っているし大好き。ヒコロヒーの綴る文章との初めての出会いは、歌舞伎町のバーを買い取ったという話だった。とんとん進むテンポの良さに絡むじゅるっとしたリアルな描写と、ヒコロヒーという人間に引き込まれ気づけば『黙って喋って』を手にしていた。この人間が描く恋愛小説とは。
黙って喋っての破壊力
わたしの話だが、うん年前のこと。紆余曲折あり博多弁で頭は金髪ツンツン、紙煙草をぷはと吸う文無しのバンドマンと付き合っていた。拡張した左耳のピアスがトレードマークだった。字面からして、紆余曲折部分もその後も、ああ、どうしようもなさそうな…と思わざるを得ない、ですよね。こんな具合だったから『黙って喋って』にはグサっとしっかりめにやられた。畑のトマトをぷつぷつともぎ取るように記憶を収穫されていったような、不自然なほど鮮やかで艶やかで腐敗して落ちた葉が発酵しむわっとした匂いが立ち込めるようなそんな感じの気分。
本棚から何度も取り出してパラパラと読むんだろうな
いやしかし、全編読み通して落ち込まなかったのは、絶対的な希望とかその後の生きる道が確実にひかれていたからだと思う。登場する女性全員がみんな違って、みんな似ていて、みんな愛おしい。またわたしの話だが、博多弁で頭は金髪ツンツンバンドマンは現在わたしの夫である。もう髪はツンツンどころかスキンヘッドだし、立派に一児の父だし、でも変わらず音楽を大切にライフワークにしている。変わる事も変わらない事も、想像し得なかった未来が必ずあることもちゃんと知っているから目を背けることなく最後まで読めたのかもしれない。
あの音楽を重ねちゃうよね、わかる。わかる。
当時、西野カナや加藤ミリヤを女友達とカラオケで熱唱していた全女性に読んでほしい。あとはRADWIMPSとかMy Hair is badとかクリープハイプを10代、20代の時聴いちゃっていた人たちにはあの生めかしさが蘇るのでおすすめです。青春というには青くないし、恋愛というには愛が足りないような。理想はその後その辺の居酒屋かなんかで『黙って喋って』の誰それがあーだよね、と話し交わせたら最高なのに。

美しい装画が完璧にマッチ
装画を描かれたイラストレーターの竹浪音羽さん、すっごい素敵です。淡い光となびくような筆致が今この瞬間の空気を閉じ込めましたの優しさと、この先なにがあっても大丈夫だよと言っているような柔らかさを含んでいて『黙って喋って』にぴたりとはまっている。個人的に表紙より裏表紙が好きだ。他の作品もぜひ本物を鑑賞したい。
008 - つかごん
主婦兼イラストレーター / 東京都 / LEE100人隊
33歳/夫・息子(2歳)・ミニチュアダックス/手づくり部・料理部・美容部/描いたり、つくったり、伝えたりのお仕事をしています。ゆるっと子育てをしながら暮らしと表現のあいだを探る日々を送っています。自分の感覚を大切に「LOVE!」と思った物事を気張らずに綴ってゆければと思っています。つくり手やデザイナーさんの想いがこもっている物や作品が好きです。身長160cm。
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TB おゆう