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暮らし発見

ともちゃんの魔法のテーブル

  • yuki*

2019.12.02

  • 22

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とも♪ちゃんが、「今の家を引き払って実家に帰ることにした」と言い出したのは、夏の終わりの頃でした。

最初は冗談かと思った。こんな素敵な家を処分するの!?今たまたま弱気なことを言ってるけど、こんないい家を手離すことなんてできないでしょ。結局はずっとこの家で暮らすのよ、ネコと娘とともちゃんの3人3匹で。

・・・甘かった。どうやら本気だった。

たぶんその気持ちは心のどこかにずっとあったんだと思うけど、本格的に動き出したとも♪ちゃんは早かった。
いつだってそうだった、思い立ったら一日で壁を全然違う色に塗り変えてしまうような、魔法使いのような人なのだ。とってもカジュアルに使うのだ、魔法の力を。

いつの間にか不動産屋が入り、あっという間に買い手がつきそうだし、年内に引っ越すという。みんなその話を聞いて、寂しくてうなだれた・・・。あの家がなくなるなんて。でも、実際は本人たちはとてもさっぱりしていて、新しい暮らしへの前向きな気持ちが強いみたい。

 

ならば、もう私や友人達にできることなんて何ひとつない。全力で別れを惜しむだけだ。

 

 

ガレージセールをやろうよ、手伝うから、という話になった。

たくさんのものを急いで処分するという。娘ちゃん達が着ていた洋服や、持っていけない食器や、家具まで。でも、この家にあるもので、ゴミになってこの世から消えていっていいものなんか何ひとつないくらいに思っていた。半ば憤慨していた。他人の私にそんなことを言う権利など本当はないのだが、ともちゃんも娘ちゃんも笑って許してくれる。

別れを惜しんで、いろんな人が来てくれた。

 

 

おなじみの顔も、懐かしの顔も。

ここには写ってない人も来てくれました。久々に会えて、私も嬉しかった。

 

 

娘ちゃんの秘密基地にて、ネコとたわむるひとも。可愛い。

 

 

たくさんの物が、笑顔と一緒に旅立っていった。

私のがま口をよく買ってくださる方も来てくれた。

 

 

いつもがま口を使ってくれてありがとう!小さなお客様。

 

 

小さな可愛いこども椅子と一緒に帰ってゆかれました。

お昼には、軽い物を用意してくれていると聞いたのだけど、

 

 

熱くて塩気が効いた、とろけるような蕪のポトフと、

 

 

オートミールのさくさくスコーン。小さな男の子を連れて来てくれた人たちもいて、みんな子どもの動きを気にしながら立って食べてたけど、楽しそうだったな。

 

 

日が落ちる頃には、人も少なくなった。
コート掛けいっぱいにあった洋服も、あと数着になった。

 

 

残った物は、インスタでフリマでもしようかなと言う。・・果たしてそんな時間があるだろうか。あと2週間だ。

忙しい中、この部屋にどうしても別れを惜しみたいという人も、頑張って遠くからやってきた。私も一旦家に帰り、この家でよく遊ばせてもらった思い出のある息子をいっしょに連れて来た。

最後のテーブルだ。私は車だからお酒は飲めないけど、お料理を囲んで、おだやかな食事会が始まった。

 

 

みんな一生懸命写真を撮る。忘れないために。

 

 

いつか思い出したくなった時に思い出せるように。

 

 

どんと置かれた、大きなパエリア鍋。少し固めのご飯に、エビやらイカやら、いろんな味がしみている。いつも食べ過ぎてしまうのだ。

それから、レンコンのキッシュ。

 

 

上だけじゃなくて、中にもレンコンが層になってぎっしりと詰まっている。とても美味しい。

パイと一緒にかじると、バターのふわんとした甘い、いい匂いがするのだ。

それからこれは、息子の大好物。

 

 

削った粉チーズをたっぷりかけた、トマトソーススパゲッティ。

「いただきます、ありがとうございます」といちいち言っていて、教員の友人に褒められていた。彼女とは長い付き合いで、息子の反抗期にも一緒に遠出して遊んだりしてくれたので、車の中でずっとありったけの悪態をつき続けていた頃の息子も知っている。覚えたての悪い言葉をとにかく使いまくりたかった頃の、だ。

 

 

柿とチーズのサラダ、丸いパン、豆とツナのサラダ。実は私は、ツナもこの白い豆も大の苦手なのだが、ともちゃんは気にせず作り、一切の忖度をせず、私の前にドンと置く。私もニヤニヤして気にしない。みんなこれが大好きなのだ。

唐揚げは、私が近所のお店で予約して買ってきた、塩唐揚げだ。いつもならともちゃんが漬けたやつを揚げてくれるのだけど、たまには人が作ったのを食べるのもいいかと思って、差し入れてみた。意外に喜んでくれたので、よかった。

 

 

テーブルいっぱいのご馳走も少しずつ消えていき、子どもたちが席を立った。めいめいの楽しいことを始める。

今年中学に入った下の娘ちゃんは、吹奏楽部でパーカッションをやっている。ドラム教室でスティックの回し方を習った息子が、一緒に練習しようと言った。

 

 

なかなかうまくいかない。それにしても、二人とも大きくなった。

 

 

一歳上の娘ちゃんと、それなりの体格差だったはずなのだが、いつのまにか娘ちゃんの背はぐんぐん伸び、ずいぶん大人っぽくなったものだ。

 

このテーブルには、いつも魔法のようにご馳走が並んだ。転勤などで遠くに越した友達が帰省してきたり、教員の友人が長い休みに入ったりするたびに、年に数回はお呼ばれした。

その時の気分でともちゃんが用意したテーブルクロスに、いろんなお皿が置かれて、いつでもその組み合わせが絶妙に可愛かった。

 

このテーブルでは、いろんなことが起こった。

初めから美味しい料理が並んでいることもあったし、ふらっと立ち寄っただけで何もないと思っていたら、急に手作りのケーキを出してくれて、驚かされたこともあった。コンサートのDVDを見ながら、アイドルの誕生日を祝ったりもした。

 

 

答えのなかなかでない難しいことに関して、真剣に悩んだり話し合ったようなこともあった。今この記事を書いている私のMacBookを持ち込んで、聞いた話を整理するのにひたすらタイピングしたようなこともあった。

私にも彼女らにも、難しい時期があったのだ。落ち込んでいるような時に乾杯して、何もかも忘れて憂さを晴らそうとしたこともある。テーブルを囲んで、何時間も話し込んだこともあった。

 

 

でも、このテーブルを囲むと、最初は難しい顔をしていたとしても、いつの間にか笑顔になった。それが、このテーブルにともちゃんがかけた魔法だったのかもしれない。

 

 

楽しい夜は更けていき、猫も自由になり、滅多に膝に乗らない子が私のところへやってきた。

 

 

映る顔は、この数年でずいぶん変わった。猫は大きくなり、私はずいぶん丸く太ってしまい、顔もたるんで、背中は広くなった。でも、そんな自分のことはそう嫌でもない。

そういえば最近、ちょっとした意地悪が匿名で届いた。今年のパーティーの写真を見たのだろうか、それともその場にいたのかは知らないが、「ゆきさんの背中めっちゃ広くて笑いました」というものだった。シンプルだが深くて、なんとも言えないすごいメッセージだけど、どうせ笑うならそんな笑い方じゃなくて、もっと幸せないい笑い方をしたほうがいい。

人を損ねてやろう、という純粋な悪意に基づいた動機しかない発言を、対象めがけて投げてくるのってすごいと思う。いい年になるとなかなか恥ずかしくてできないのではないかと思うが、顔さえ隠れていれば、やってしまうものなのだな。もちろん不愉快だけど、それとは別に薄ら寒くなってしまった。

朝から散々そのことをネタにしたのだけども、その一抹の薄ら寒さのせいで私が少し塞いでいたら、ともちゃんが言った。

「大丈夫!そういうことしてくる人って絶対いるし、私も何度もやられたことあるけど、流せばいいの流せば!それにゆきちゃんには、100人のともちゃんがいると思うの!そして、私には100人のゆきちゃんがいる。だから何があっても大丈夫よ」

そうだ、確かに味方は多い。このLEE webを去るにあたって、遠くから労いの言葉とお菓子を送ってくれた友人もいたし、お揃いのバッグをくれた子もいた。いろんな読者から温かいメッセージをいただいた。一通一通の向こうに、血の通った人がいることを感じた。冷たいものより温かいものがいい。そっちを信じるほうがいい。

最後にまた、とびきりの魔法をかけてもらった。どうもありがとう。

 

 

そして、それぞれにくつろいでいる中、お姉ちゃんが秘密基地から楽器を出してきて、組み立て始めた。

一生懸命バイトをして買ったらしい、相棒のバスクラリネットだ。ちゃんと聞かせてもらうのはこれが初めてかもしれない。

クリスマスソングの演奏が始まった。

 

 

 

きらきらしたピアノと、優しくて深いバスクラリネットが、一緒に赤鼻のトナカイを奏で始めた。友人の小さい娘ちゃんも、その場にあったものを叩いてリズムを取り始める。

なぜか弾けもしないギターで息子も遊び始めた。穏やかな時間が流れて、みんなで拍手をした。

いい絵だった。

 

どんないいことも、とどめておくことはできない。

いつの間にか人の心は変わり、猫は私達より先に歳をとって、写真に映る自分の顔は丸くなり、小さかった子たちも蛹から蝶に変わって飛んでいく。そして書いても書いても、どんどん良さが零れ落ちていって、ぜんぜん伝わらない。

 

 

でも同じように、どんな悪いことだっていずれは流れていく。だから皆ここまでやってこれたのだ。そして、もっともっといいこともこれからたくさんあるだろう。想像してみよう。

 

親友が家を手離すというのに、私には何もできなかった。
そのことが悔しかったけど、救いもあった。あの大きな魔法のテーブルは、友人の元へと受け継がれることになったのだ。

今は一人暮らしで小さい家だけど、頑張って近いうちに、大きなテーブルが入る家にパートナーと引っ越すのだという。そして、きっと今度は彼女なりの魔法の使い方を練習するのだろう。
頑張っておうちに呼べるようにするから、また絶対このテーブルを皆で囲んで、飲んだり食べたりしようね!と言ってくれた。

 

ともちゃんはきっと嬉しかったと思う。私も、その言葉が涙が出るほど嬉しかった。友人達それぞれのこれからに、幸せがたくさん来ることを願った。

なにも私だけではない。みんなこのテーブルの魔法に、幾度となく温められてきたのだ。

 

 

魔法の扉はもうすぐ閉じてしまう。

 

でも、この中には皆で過ごした時間が、涙も笑いもあったとびきり良い思い出が、ちゃんと入っている。それはなくならない。しっかり扉を閉めたら、もう安心だ。

yuki*

39歳/夫・息子(11歳)/手づくり部、料理部/横浜在住、大阪出身。港が見えそうで見えない丘の上の古い一軒家で、息子と年上の旦那さんと猫のリサと一緒に、楽しく暮らしています。本とラジオと美しい布が好き。がま口のお店をやっています。一度しかない美しい日々を、あたたかく綴りたいと思います。Instagram:@yukiiphone

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