せっかくなら子どもと一緒に観劇を楽しみたい!
中学生時代にいわゆる小劇場演劇にハマってから、ずーっと観劇が趣味でしたが、さすがに出産を機に劇場に足を運ぶ回数がぐっと減ってしまいました。
観たい作品は子どもの保育が確保できれば観に行けるようになりましたが、子どもも5歳になり、新たに「子どもにも観劇体験をさせたい!」という気持ちがわいてきました。童話など子ども向けの作品を上演する「親子劇場」のような催しは、保育園にチラシが置かれていることもありますが、完全に子どもを対象に作られている作品を「私が楽しめるだろうか?」という疑問も。
そんな矢先、舞台を中心に俳優活動をする友人から「今度客演する作品が0歳児から観劇可能だから、娘さんと一緒に観に来ない?」と声をかけてもらいました。それが to R mansionの『The Wonderful Parade』です。

劇場入り口に貼りだされたチラシ。どんな世界が繰り広げられるのか想像が膨らみます。
to R mansionについて
読み方は「トゥーアールマンション」。「とあるマンション」という意味のパフォーマンスカンパニー。
パントマイムやアクロバット、マジック、演劇などさまざまなパフォーマンスで、大人から子どもまで幅広い観客を楽しませてくれます。
その活動の場は劇場での公演だけでなく、ストリートフェスティバル、学校での文化鑑賞会など多岐に渡っており、日本国内だけでなくアジア、ヨーロッパ、中東など世界各国からもオファーがあるとか。
国籍も、世代も問わず、誰もが楽しめるのがto R mansionの何よりの特徴です。
心配な気持ちは、客席に入った瞬間に消えました

はじめて訪れる「劇場」という空間に、娘もやや緊張気味?
実をいうと、劇場に着くまでは「本当に子どもと一緒に楽しめるのかな?」と不安がありました。
チラシやto R mansionの公式サイトを見ると、華やかでビビッドな世界観がうかがえ、ファッションデザイナーのジャンポール・ゴルチェなど名だたるクリエイターも絶賛しているのがわかります。感性の鋭い大人たちがハマる世界と、観劇初心者である子どもが楽しめる世界が頭の中でリンクせず、「もしかしたら、”子どももOK”と間口を開いてはいるものの、実際は”子どもも(楽しめるかどうかわからないけど、我慢できるなら)OK”ということなのかもしれない…」と疑心暗鬼になったりも。
でも、いざ劇場に着いてみると、ロビーには娘と同い年くらいや、もっと年齢の小さい子どもがいっぱい。
「本当に子ども歓迎なんだ!」と驚きながら、客席に向かうと、ステージには衣装を身にまとい、派手なヘアメイクを施した出演者のおひとりが。
「こちらの席が空いてますよ」「だんだん暑くなってくると思うので、上着は脱いでおくのがおすすめですよ」と、入場してくる観客に語りかけてくれます。やがて、ステージには別の出演者である「ピエロさん」が登場。観客のひとりに投げてもらったマシュマロを口で受け取るというパフォーマンスに早くも客席は大盛り上がり。
考えてみると開演を待つ時間って、ちょっと手持ち無沙汰なんですよね。
大人なら受け取ったチラシの束を眺めたりして過ごせますが、子どもはそうもいきません。開演前の時間に飽きてしまったり、普段経験しない劇場という空間に緊張してしまったりして「もう帰りたい~!」となることもありそう。
客席に入ったときから始まる楽しいパフォーマンスによって、子どもも飽きることなく、しかもリラックスして本編のスタートを待てることに。
これを観て「本当に子どもも観客として来ることを考えてくれている!」と確信できました。
「赤ちゃんが泣いてもOK」の言葉に思わず涙も……
さらに感動したのが、本編が始まる前にこんな呼びかけがあったこと。
「お客様の中には赤ちゃんもいます。赤ちゃんにとって泣くのは仕事。もし上演中に赤ちゃんが泣きだしたら”いい仕事してる!”と見守ってあげてください」
公共の場で子どもが泣いたり騒いだりすると、よく思われないことがまだまだ多い日本です。「0歳からOK」と言われる場でも、赤ちゃんがぐずると「まわりに迷惑に思われる!」と緊張感と申し訳なさで心が折れそうになる親御さんも少なくないはず。すでに「赤ちゃんの親」ではない私までもが、「ここは赤ちゃんが泣いてもOKな場」だと明言してもらえたことがうれしくて涙ぐんでしまいました。
実際、本編を前に暗転した瞬間、泣き出した赤ちゃんがいたのですが、誰ともなく「早速いい仕事してるね!」との声があがり、客席全体が温かい空気に。
「光と闇のトリック」に引きこまれる!
『The Wonderful Parade』はto R mansionとフランスの照明演出家であるパスカル・ラージリ氏とのコラボレーション作品。
ラージリ氏が作り出す「光と闇を操る」魔法の照明・テアトルノアールが体験できるのが今回の公演の見どころのひとつです。
照明演出で「光と闇を操る」と聞いて私がイメージしたのは、色とりどりの照明がかわるがわるステージを照らし出すもの。でも、テアトルノアールの真のおもしろさはステージ上に「闇」が作り出されることだったんです!
闇の中から何かが出てきたり、腕の数が3本、4本と増えたり。暗幕や大道具に隠されているわけではなく、ステージに存在しているものが照明によって隠れて見えるのです。大人でも「えっ!? どうなってるの!?」と目を見張るほどなので、子どもも当然夢中です。

気がつくと、男性の手が4本に増えてる! Photo:Hiroshi Nirei
まさに誰もが楽しめる「垣根のない」エンターテイメント
ストーリーは、恋人を呼び出し、指輪を渡してプロポーズしようとした男が、指輪をなくしてしまい、恋人を怒らせてしまうというもの。果たして指輪はどこに? そしてプロポーズは成功するのか?
至ってシンプルな物語ですが、約70分ほどの上演中、日本語として聞き取れる「セリフ」はほとんどありません。みんな何語ともつかない言語で会話しているのですが、その表情や話し方、身振り手振りでなんとなく話してる内容がわかるというもの。子どもがいる人なら『ひつじのショーン』や『ピングー』のような感じと言えばわかりやすいでしょうか。
でも、『ひつじのショーン』や『ピングー』と同じく、「セリフ」に頼らずにストーリーが進行していくからこそ、子どもにも楽しめるのだと気づきました。おそらく子どもにとって、大人が話すような日本語を聞き取って内容を事細かに理解するのは簡単なことではないはず。「セリフ」を聞き取る必要がなければ、視覚だけに意識を集中することができます
そして「日本語のセリフ」でないということは、日本語を理解できない人も楽しむことが可能になるということ。

「海の中」の幻想的な場面。ここでも照明の美しさが際立ちます。Photo:Hiroshi Nirei
to R mansion全作品の演出、振付、プロデュースを担当する上ノ空はなびさんによると
「私たちはいつも垣根のない作品作りをめざしております。それはいつでも、どんな場所でも、子どもも大人も、世代も国籍も関係なくみんなが笑って驚いて、楽しんで一緒に過ごせるような時間を創り出すことをクリエーションの一番の目的としています」

人間が演じるだけでなく、影絵を使ったシーンも。これも世代、国籍関係なく楽しめる演出のひとつです。Photo:コタニシンスケ
観劇後は出演者によるお見送りも
観劇後、ロビーに出ると、衣装を身に着けたままの出演者の方々が。一緒に写真撮影をすることにも快く応じられていました。
さっきまで舞台上にいた人を間近で見られるのも、おそらく子どもにとっては刺激的な体験。メイクや衣装を近くで見せていただけることで、大人も新たな発見ができるものです。
娘も満喫してくれたようで、帰宅後も「あれがおもしろかったよね」「あのシーンびっくりしたね」と感想を言い合ったり、お気に入りのシーンを再現したりしていました。映画とはまたちがうライブパフォーマンスを観る楽しさを娘にも感じてもらえていたら、演劇好き母としてはなによりです。
今まで「子どもと観劇」というと、「子ども向けの作品を大人が一緒に観る」選択肢しか頭にありませんでしたが、to R mansionと出会って、「大人も子どもも一緒になって楽しめる」世界を知れたのが何よりの収穫でした。「子どもも観劇OK」だからではなく、「大人が十分に満足できて、子どもとも一緒に観劇できる」カンパニーとして、to R mansionをおすすめしたいです。演劇好きな人も、演劇を観たことがない人も(なんなら抵抗感がある人こそ!)、ぜひ一度足を運んでみてください。
日本各地でイベント出演や舞台公演が。今後のスケジュールはto R manison公式サイトをご覧ください!
to R mansion公式サイト
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古川はる香 Haruka Furukawa
ライター
1976年、大阪府生まれ。雑誌・Web等でライフスタイル、カルチャー、インタビュー記事を執筆。現在のライフテーマは保活と子どもの学び、地域のネットワークづくり。家族は夫と6歳の娘。