家事や育児、人によっては仕事にも追われて二足、三足のわらじをはくのが当たり前になっているママ。その結果、タスク処理のため、睡眠時間を削ってはいませんか? そこでママの睡眠にまつわる悩みを最新著書「一流の睡眠」(ダイヤモンド社刊)がベストセラーになっている裴 英洙(はい・えいしゅ)先生に質問。ママの睡眠不足の原因を探ってもらいました。今回は、後編をお届けします!
日中体を動かしているのに、熟睡した感じがしない
ママ38歳(ヨガインストラクター)、娘9歳、3歳
平均6〜7時間睡眠
<1日のスケジュール>
7:00 起床
8:00 朝食、子供の世話
9:00 自宅で事務作業か、レッスンの日は外へ
10:30 ヨガのレッスンや下の娘と児童館へ
12:30 ランチ
13:00 ヨガのレッスン
16:30 家事や事務仕事
18:30 夕食
19:30 家事やTVを見たり、事務仕事、友達とLINEなど
21:00 入浴
22:00 寝かしつけ、SNSやLINEをする
1:00 就寝
<眠る前にしていること>
布団のなかでストレッチ、iPhoneでSNSやHuluなどをチェック
<睡眠の悩み>
虫が出てくる、早く走れずにもがくなど、嫌な夢をよく見ます。見ている時も苦しいし、 起きた時もすっきりしません。娘はめちゃくちゃ寝相が悪く、蹴る、寝言、転がって窓ガラスにぶつかって大きな音をさせるなどが夜中にあって、それで熟睡できていない気がします。
そのせいか、寝起きはいいけど、二度寝したくなります。
眠る前の動画視聴の影響があるかも。就寝時のスマホ断食を
津島 ヨガインストラクターなので体は動かしているはずなんですよね。熟睡感がない理由は環境と精神的なもののどちらでしょうか?
裴 これは寝室の環境要素が大きいと思いますね。お子さんが窓ガラスにぶつかって大きな音がするのでしたら、窓ガラス側にクッションを置くなどの対策はいかがでしょうか? ご年齢が3歳とすると、寝床を離すのも一つの手です。子供がママから離れたがらなかったら、寝ついてから移動するのも検討する価値ありです。8時間睡眠のうち、3時間は添い寝、残りの5時間は移動してしっかり寝るなど、睡眠を分離して考えてみましょう。もちろん、途中で起きるのはしんどいですが、8時間も悶々とするなら5時間熟睡できた方がいい、とある部分を諦めるのです。原則的に、睡眠を分割するのはおすすめではないのですが、ママのストレスと睡眠不足による心身不調を考えると、背に腹は変えられません。
津島 悪夢を見るのも心配です。
裴 夢は専門ではないですが、夢を見る理由には様々な学説があります。現実の悩みが出てくる場合もありますし、夢を見やすい人も全然見ない人もおられます。彼女は夢を見る体質なのかもしれませんね。
眠る前にスマホ等で見ている動画の影響もあるかもしれないですね。寝入りがスムーズでないのは、スマホから出ているブルーライトが影響すると言われています。また興味のあるコンテンツを見るということは、それだけ自分の意識の中に入り込んでいるから目がどんどん冴えてきます。体は疲れていても、脳が映像からの興奮状態を引きずっているのかもしれません。
津島 眠る前にスマホを見るママは多いと思うんですよね。気になる育児情報を調べ始めたら、こっちのトピックも気になってぐるぐる巡っていくっていう。
裴 布団の中で読むスマホの情報だと、興味の範囲で終わってしまって学習にはならない可能性が高いです。せっかくいい情報に出会っても、眠気まなこでの情報収集は記憶には残りにくいでしょう。また、寝室だけではなく、四六時中スマホばかりが気になる「スマホ依存症」というものがあります。これは、現代病にも近いもので、多くの方が知らず知らずのうちに当てはまっているかもしれません。ネット依存を自己診断できるキンバリー・ヤング博士による「ヤングテスト」というものがあります。寝室でもスマホが気になる方は、一度診断してみることをお勧めします。
睡眠は人生を決めるほど大切なもの。試しにスマホを寝室に持っていかない「スマホ断ち」をしてはいかがですか? 未来永劫、スマホを持って寝室に入らないだと大変なので、まず1週間くらい「スマホ断ち」を試してみましょう。意外とすんなりとできて、寝入りがいいことを実感できるかと思います。それで熟睡ができたら、熟睡とスマホ、どっちが大事かということを天秤にかけられたらいかがでしょうか。
津島 スマホ以外に、睡眠習慣を見直す時のポイントはありますか?
裴 コーヒーを飲まない、パジャマを変える、カーテンを変える、枕を変える、空調変える。いろいろあります。ここでの注意点は、睡眠習慣を一気にすべて変える人が多いということです。一つずつ試さないと何が原因かわかりませんので、ご自身の睡眠習慣の改善にはつながりません。例えば、まずカーテンを変えてみて、それで眠れたら原因は光だとわかります。「一流の睡眠」に書いてある32の解決方法を一気に試したら、結局何が原因だったか分からなくなってしまいますからね(笑)。
臨月のせいか、細切れ睡眠で寝不足が辛い
ママ36歳(主婦)、娘2歳(卒乳)
平均7時間半睡眠
<1日のスケジュール>
7:00 起床後、子供と主人を起こす
8:00 朝食
8:30〜9:30 洗濯など家事
10:00 子供を幼稚園へ連れて行く
12:00 ランチ
14:00 娘のお迎え。娘と一緒に昼寝
16:00 ご近所さん達と外遊び
18:00 夕食の準備
19:00 夕食
19:45 娘と入浴
21:00 寝かしつけ
23:30 自分の時間〜就寝
<眠る前にしていること>
本や漫画、雑誌を読んだり、友達と電話したり、主人と雑談しています。ほかに出産に向けての準備など。
<睡眠の悩み>
もうすぐ臨月のせいか、寝つきも悪く、夢ばかり見て夜中にちょくちょく起きます。妊娠していない時も隣に寝ている2歳の娘が寒くないかとかが気になってちょくちょく起きていましたが、今はちょっと声をあげたりするだけで目が覚めます。
時間がある時は、娘と一緒に30分くらい眠るようにしていますが、細切れなので睡眠不足です。
もっと家族に頼って、家事や育児も適度に手抜きを
津島 妊娠が進むと、今後の子育てに備えて細切れ睡眠になっていくと聞いたことがあります。それは仕方ないことなのでしょうか?
裴 2歳の娘さんのこともありますし、臨月は体に負担がかかるのはもちろん、精神的に不安なこともいっぱいありますよね。まずは、一時のものだと割り切ってみてはいかがでしょうか? 人間は、少しの期間なら短時間睡眠でも簡単には心身を悪くしません。長いトンネルかもしれませんが、いつか必ず出口はあります。
ご主人や、もし頼れるのでしたらご実家の援助も必要です。睡眠に悩む主婦の方は甘え下手な方が多い感じがします。一時的にでも、ご主人、ご実家、子供にまで甘えたらいいんですよ。子供がすべてで、子供のサイクルやご主人のサイクルに自分のペースを完全に合わせていては、スーパーマンでも難しいです。「ママは眠たいからちょっと泣いといて」、「ママは眠たいから今日はパパのご飯を手抜きさせて」でもたまにはいいんですよ。少しくらいなら泣かされたまま放置されても子供はママのことを嫌いになりませんし、パパの栄養状態も激変しませんから。完璧主義の方は睡眠を犠牲にして完璧を貫こうとしますが、それは長続きせずにどこかでママの身体やイライラという形でしっぺ返しとなります。子育ても家族生活も長期戦です。自分を犠牲にしては長続きしないのではないでしょうか?
思い切って、寝床を別にしてもいいですね。子供は2〜3日もすれば、慣れて離れていても寝ます。放っておくのではなく、慣らしていくという発想です。
津島 ヨーロッパやアメリカだと、生まれてすぐから親子が別々に寝るって聞きます。
裴 一般的に、日本は質より量の文化だと思います。残業時間の多さや、何もせずに一緒にいる時間の多寡をバロメーターにしすぎのところがあるかもしれません。同じ1時間でも子供がテレビを見ている横にママがいるだけと、30分でいいので一緒に絵本を読んだり積み木をすることは質の視点から見て異なります。何もせずにずっと一緒にいる時間を確保する量の視点も大切ですが、何か建設的な行為を共有する質の視点も大切だと思います。
一緒にいることの大切さは否定しませんが、そこを過度に重要視しすぎなくてもいい時もあるのです。子供と一緒にいなければならないと思うあまり、それが負担になってママがギスギスしていたら、子供は敏感に察知して健やかな成長を妨げます。それでは本末転倒になってしまいますね。
津島 そういうよくないループに陥りがちなママは結構いると思いますね。
裴 みんな「私がなんとかしなきゃ」と思う気持ちが強いようです。働いているママはさらに仕事が加わります。日本人女性はまじめすぎる方が多いようですからmustで考えがちですが、今は便利な世の中ですので、ある程度手を抜いていいかと思います。
誤解を恐れずに言いますと、がんばっている主婦はさぼってもいい。子供が小さい時はたまには手抜き主婦でもいい。全部をがんばるから睡眠が犠牲になってしまうのです。睡眠も子育ても仕事もご主人のことも自分の趣味も、全部がんばろうとすると、何かが犠牲にしなければなりません。一つを犠牲にするのではなく、全部少しずつ犠牲にして「犠牲の平準化」という発想が大切です。
津島 でも突然手抜きすると、ご主人に何か言われるかもしれません。
裴 これも最初に話し合いで、ここまで手を抜くっていうコンセンサスが取れていれば、別に問題ないかと思います。手抜きは事前に言わずに発覚すると怒られるけど、事前に言っておけばそのショックも軽減されて大丈夫でしょう。事前の共有は仕事でも家庭でも大切です。
睡眠不足は自身の体調だったり、家庭不和だったりのいろんな悩みの一つの表現形式です。悩みの根っこを突き詰めたほうがいいです。そこを解決しないと、場当たり的になってしまい、睡眠不足はずっと解消されないかもしれません。
お話をうかがったのは、裴 英洙(はい・えいしゅ)先生
撮影:まるやゆういち
医師・医学博士、MBA(経営学修士)。ハイズ株式会社代表取締役社長。
1972年奈良県生まれ。金沢大学第一外科(現・心肺・総合外科)に入局し、主に胸部外科(肺がん、心臓病など)に従事し、日々手術に明け暮れる。その後、金沢大学大学院に入学し、外科病理学を専攻。医学博士、病理専門医を取得し、病理医として病気の最終診断に関わり、年間1万件以上の重大疾病の診断をこなす。
医師として働きつつ、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネス・スクール)にて医療政策・病院経営を学び、首席で修了。在学中に医療機関再生コンサルティング会社を設立。多数の医療機関の経営支援、ヘルスケア企業の医学アドバイザー業務などを行う。現在も医師として臨床業務をしながら、臨床の最前線からのニーズを医療機関経営に活かす支援を行なう。
一流の睡眠 「MBA×コンサルタント」の医師が教える快眠戦略
裴 英洙/ダイヤモンド社 ¥1400
多忙なビジネスパーソンにとって、8時間睡眠や規則正しい生活は到底実践できるものではありません。彼らのライフスタイルに合わせ、睡眠法をカスタマイズすることが先決です。本書には今の生活にちょっとした工夫をするだけで睡眠の質を高める方法を紹介。医師、コンサルタント、経営者、そして父という四足のわらじを履く著者が、自らの経験と最新の医学的データを分析して、“一流の睡眠学”を紹介していきます。
家事や育児、仕事に追われているママが読んでも参考になるテクニックが満載です。
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津島千佳 Tica Tsushima
ライター
1981年香川県生まれ。主にファッションやライフスタイル、インタビュー分野で活動中。夫婦揃って8月1日生まれ。‘15年生まれの息子は空気を読まず8月2日に誕生。