天才少女の数奇な運命と成長を描く魅惑のバレエ映画/『ポリーナ、私を踊る』 共同監督の2人に直撃!
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折田千鶴子
2017.10.24
心も体も熱くする、青春ダンス映画の佳作が登場!
みなさんは、バレエ映画やダンス映画はお好きですか?
ドキュメンタリー映画を除いてパッと思い浮かぶのは、ナタリー・ポートマン主演の『ブラック・スワン』(10)、『センターステージ』(00/シリーズ化されて2、3と製作されていますね!)、かの名作『リトル・ダンサー』(00)あたりでしょうか。
今をときめくチャニング・テイタムをスターダムに乗せた『ステップ・アップ』(06)も忘れがたいですね!
挙げてみると、身も心も熱くなって興奮させてくれる佳作が多いことに、改めて気づかされます。そんな誉れ高いこれら青春ダンス映画の系譜に加わる佳作が、『ポリーナ、私を踊る』です。
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『ポリーナ、私を踊る』 10月28日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
©2016 Everybody on Deck – TF1 Droits Audiovisuels – UCG Images – France 2 Cinema
2016年/フランス/フランス語、ロシア語/108分/カラー
http://polina-movie.jp/
ロシアの名門ボリショイ・バレエ団を目指す天才少女ポリーナが、波乱の運命に翻弄されながらも成長し、自分の進むべき道を歩み出すまでが描れます。
ポリーナの運命にハラハラし、私たち誰もが経験するような、青春時代の惑いやあがき、自分は何者か、何者になりたいのか、という悩みに共感せずにはいられません。そしてもちろん、素晴らしいダンスに驚嘆! 色んな意味でワクワクと興奮が詰まっています。
映像のプロ×ダンスのプロのコラボレーション
この『ポリーナ、私を踊る』は、フランスで各賞を受賞している新星BD (=バンド・デシネ:芸術性を高く評価される漫画) 作家バスティアン・ヴィヴェスの「ポリーナ」(小学館集英社プロダクションより刊)を映画化した作品です。
共同監督のヴァレリー・ミュラーさんとアンジュラン・プレルジョカージュさんが、来日されました。穏やかで腰の低い、とってもとっても感じのよいお2人ですが、すごい経歴をお持ちの方々なんです!
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右:ヴァレリー・ミュラー
1965年10月5日生まれ。助監督やプロダクションアシスタントからスタート。数本のドキュメンタリー映画に加え、マリオン・コティヤール主演『La Surface de Réparation』(98)、『Cellule』(03)などのショートフィルムも制作。脚本家、プロデューサーとしても数々の作品を手掛ける。本作は初めてA・プレルジョカージュと共同監督した長編映画である。
左:アンジュラン・プレルジョカージュ
1957年1月19日、フランス生まれ。古典舞踊専攻後、コンテンポラリーダンスに転向。アメリカに移住してバレエダンサーとして活躍後、1985年に自身のダンスカンパニーを設立。49作品に及ぶ振り付け作品は、世界中のレパートリーに。世界各国の有名カンパニーからも振付を委託され、CMや映画でも振り付けを担当。フランスでナイト爵をはじめ複数の名誉職位を授与される。本作で初のフィクション映画を手掛ける。 撮影:(C)野口彈
監督たちは、どのように原作の世界を失うことなく、芸術性をさらに高め、躍動感に溢れる映画になし得たのでしょうか。
ヴァレリー(以下VM)「ヴィヴェスの原作に、アンジュランが振り付けた「白雪姫」が登場するの。原作はとても人物のアップが多いのだけれど、逆にそれが私たちに映画的な背景や色んなものを脚色させてくれる自由を与えてくれたわ!」
聞けば聞くほど興味津々! その舞台裏や制作秘話を、来日したお2人に教えてもらいました!
3つの異なる映画的文体で、それぞれのダンスを表現
ポリーナは貧しい家庭環境で育ちながらも、厳格な恩師に鍛えられ、幼い頃からその才能を高く評価され、将来を期待されていました。ところが両親の夢でもあったボリショイ・バレエ団への入団を前に、同じ学校(ジュニア団のような)で付き合い始めたフランス人青年と、南フランスのコンテンポラリー・ダンスカンパニーへ行ってしまいます。
VM「ありがちなクラシックダンサーとして描かれているのではなく、ポリーナがとても現代的な人物という描写が、原作の面白さでした」
アンジュラン(以下AP)「まずは原作では描かれていない、人物の背景など基盤づくりから始めたんだ。本作を見たヴィヴェスが、“僕の描いた人物を僕が再発見したよ”と言ってくれたのが嬉しかった」
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監督:ヴァレリー・ミュラー&アンジュラン・プレルジョカージュ 脚本:ヴァレリー・ミュラー
出演:アナスタシア・シェフツォワ、ニールス・シュナイダー、ジェレミー・ベランガール、アレクセイ・グシュコフ、ジュリエット・ビノシュ
原作:バスティアン・ヴィヴェス「ポリーナ」(原正人訳、小学館集英社プロダクション刊)
ポリーナの葛藤やあがきなど青春映画の味わいと同時に、ダンスやその舞台が出来上がっていくさまをつぶさに目撃できるのですが、それがまさに鳥肌もの!!
AP「漫画は静止画だけど、映画は動画。ダンスを“時間的・空間的”に描くことが肝だった」
VM「そして段階ごとに違うダンスを、どのように見せるかにも掛かっていたの」
AP「リハ室などでのレッスン風景はディテールを見せるため、カメラを肩に担いで接近して撮影した。即興で踊るシーンはドリーを使っての横移動撮影。そしてクライマックスの“ダンス作品”としての舞台では、大きなクレーンを使って頭上から撮ったり、急にカメラを引いて遠くから撮ったり。まるでクレーンカメラが3人目のパートナーのように」
そんな風に魅惑の映像は作り上げられていったのですね!
ポリーナ役、アナスタシア・シェフツォワの個性
ポリーナがボリショイを目指していたモスクワ時代、恋人と新天地へ飛び出したプロヴァンス、挫折を味わって向かったアントワープと、3つの場所と時代が、違うテイストで綴られていきます。
ポリーナを演じたのは、本作で映画デビューを飾ったアナスタシア・シェフツォワさん。世界的に権威の“サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場”で活躍していた実力派ダンサーです。
ポリーナとして、3つの場所でまったく違う顔を見せ、女優としての才能も強く感じさせます。
AP「ダンス的な面から言えば、アナスタシアは古典とコンテンポラリーと両方の素晴らしい素質を兼ね備えていたことが最大の起用の理由」
VM「カメラの前での存在感、視線が強く、ミステリアスな雰囲気があったの。カメラの前に立つポジティブな喜びを放っていたことも重要だった。しかもダンサーとして非常に強い決意――それはもうオブセッションさえ感じさせる強固なものがあり、それもポリーナのイメージと重なったわ」
厳しい訓練は、人生を切り開く必須ツール
ポリーナのように両親や恩師の意に添わず、自分の思う道に進もうとする――すごい勇敢ですよね! これまで多数の若きダンサーたちを観て来た監督に、女性の道の切り開き方、人生の選択について思うところを尋ねてみました。
AP「ポリーナが得た直感(コンテンポラリーを踊りたいという)は、天から降ってくるように突然、湧き出てくるもの。その時に、受け取る準備が出来ていないと、どうしようもない。その天啓を自分のものにできるためには、彼女が映画の前半で積んだように非常に厳しい規律に従い、基礎からのテクニックを学ぶことが何より大切。それは無駄なことではなく、真の素晴らしいクリエーションに到達するためのツールなんだ」
VM「その後で、個人的に経験した色んなことと重なって、真のクリエーションに到達するのね。スポーツ選手も音楽家も、他の職業においてもみな同じよ。自分が情熱をもって何かに取り組んでいく、その中で自分の能力を発見し、人生の中で発展させていく。本作は、そんな一人の若者の軌跡なのです」
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アントワープでのポリーナは、それまでの雰囲気とはガラリ一転! でもそんな紆余曲折が、彼女を大きく成長させていくのですね!
才能が必ず開花するとは限らない
思わず監督の言葉に「なるほど!」と膝を打ちたくなりますよね。さて、色んな挫折や紆余曲折を経た後で、アントワープでポリーナは一人の男性舞踏家と出会います。色んなアイディアを出しながら、その身体表現が芸術に昇華されていく過程は、もう、鳥肌と溜息の連続です!!! その一連のシーンを観るだけでも、「スゴイもの観た感」がハンパないんです!
さて、最後に日本の女性たちへのメッセージをいただきました!
VM「一つの成功例ややり方が、貴方にも適用するわけでは決してない。ポリーナが紆余曲折を経たようにね。だから誰かの生き方を手本にして倣うのではなく、自分のやり方を見つけてください」
AP「僕は若く才能あるダンサーをたくさん見てきたけど、才能のあるダンサーが偉大なアーティストに成長できるとは限らないんだ。自分の中の芸術的直感を具現化することができる人が、偉大なアーティストになっていく。若い時代には多くの人が素質や実質を持っている。でもそれは、人生において非常に破壊されやすい。破壊されることを自ら許さず、きちんと培っていける人が、本物になれるんだね」
実生活でもパートナーであるお2人の信頼が、互いの言葉にうなずき合う姿からも見て取れて、とっても豊かな気持ちにさせてもらいました!
ちなみにプロヴァンスのダンスカンパニーの振付家を演じるのは、ジュリエット・ビノシュ。
見どころたっぷりの『ポリーナ、私を踊る』は、今週末、28日より公開です。
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。