ドムスチェア誕生70年を記念し、青山で開催されている「アルテック ドムスチェア展覧会 “the chair ≠ a chair”」。この会場デザインを手掛けたのが、フィンランドと日本を拠点にしているクリエティブユニットMUSUTA。3人の子供を育てながら、夫婦で活動をしている二人に育児や働き方についてうかがいました。
撮影:恩田ゆきこ
フィンランド人にとって思い入れが強いドムスチェア
津島 MUSUTAのクリエティブワークは多岐に渡ります。活動内容を教えてください。
ティモ スタート当初はグラフィックが多かったですが、アニメーションの仕事で賞を獲ったのをきっかけにアニメや映像の仕事が増えています。最近はインスタレーションも、プロダクトデザインも手掛けています。
内容は違えども、私達の仕事はすべてインタラクティブな要素を取り入れていることが共通です。
津島 お二人にとってドムスチェア※1とは、どのような存在ですか。
ヨプス 祖父が教師だった当時は学校に住んでいて、母は学校で育ちました。その学校の椅子が何回も塗り直されて、ずっと使われていたドムスチェア。私は母を思い出す椅子ですね。
ティモ 両親がドムスアカデミカに住んでいて、当時の思い出をよく話してくれました。だからドムスは僕の中に深く刻まれた言葉です。
ヨプス フィンランド人はドムスチェアに関する何かしらエピソードを持っていますし、私の親世代は必ず知っている椅子です。
昔から会社や場所に縛られない働き方を理想としてきた
津島 お二人は2007年に会社を作り、翌年にご結婚。ミミちゃんが2010年に生まれています。そんな環境の中で世界中を巡り、日本を拠点にしたのはなぜですか?
ヨプス 最初の来日は1999年に留学生として。その後しばらく日本でモデルの仕事をしていました。私は建築の勉強をしていて、日本の建築を見に彼と何度も日本に来ていました。ある時10回も来日していたことに気づいて、そんなに東京に来ているならこっちでも仕事ができないかと思うようになって。そこから意識的に東京での仕事を増やしていきました。
津島 東京はヘルシンキに比べてごみごみしています。すごしやすいですか?
ヨプス 確かに東京は刺激が多く、ヘルシンキは静か。でもどちらかだけで暮らすのは耐えられない(笑)。今は3カ月くらいのサイクルで行き来しています。
津島 日本でも定住しない働き方の人が増えています。ノマドワーキングには憧れがありましたか?
ヨプス 最初からそういう生き方を目指していました。自由が大好きだけど、同時に自分に厳しく生活のリズムを作らなければならないのがこのワークスタイル。それにフレキシビリティも必要。海外にいても仕事次第で急遽帰国しないといけないことも。
周囲からよく「家族で旅行ができていいね」って言われますが(笑)、夜中の3時半に起きて仕事をしていますよ。
津島 自由な働き方はフィンランドがそういうお国柄なのか、それともお二人ならではの考えですか?
ティモ 私たちの考え方です。当時は「日本にも拠点を置く」とフィンランドのクライアントに説明しても「よい休日を」と言われてしまって。理解を得るのが難しかったです。
今ではフィンランドでも私たちの考え方に近づき、そういう仕事の仕方もあると理解してくれているし、私達の仕事のマネジメントに興味を持つ人も多いです。
夫婦ユニットだからこそ、仕事も育児も柔軟に対応できる
津島 夜中の3時半起きで仕事をされるとのこと。現在のタイムテーブルを教えてください。
ヨプス フィンランドとそれ以外の国で違います。フィンランドでは子供が起きる少し前に起きて、保育園に送ってから17時までが仕事。
フィンランド以外の国では、子供が起きる数時間前に二人で起きて一緒に仕事をします。日中は夫婦のどちらかが子供と一緒ですが、時間がある時は家族みんなですごすことも。お昼寝中に仕事をして、子供が起きたら家族ですごし、夜に子供が寝てからクライアントとスカイプで打ち合わせなどをします。子供が寝ない時は交代で仕事をします。
ティモ フィンランドでは夫婦で保育園に送りに行ってから、2時間くらい散歩しながら打ち合わせ。保育園が自宅兼事務所と同じビルで、ずっと同じ環境なんですね。外に出た方がいいアイデアが浮かびます。
津島 「アルテック ドムスチェア展覧会 “the chair ≠ a chair”」の仕事をオファーされた時、妊娠はわかっていましたか?
ヨプス わかっていました。3人目だったので、産後すぐの状態は大体想像がつくから引き受けました。
津島 妊娠〜産後すぐのプロジェクトを受けるに当たって、ご夫婦で決めたことは?
ヨプス 仕事の分担やスケジュールは理解し合っているので、口頭での約束はしていません。産後2週間は仕事に集中できませんので、出産までは私の仕事を優先して進めました。
津島 子育てはどう分担していますか?
ティモ 特に役割を決めずにフレキシブルに育てています。
ヨプス この展覧会で私はドローイングの文字を手掛けていますが、そういう集中力が必要な細かな作業の時は彼が面倒を見ますし、その逆のパターンも。
今、絵本作りをしていて、彼がストーリーを書いている時には私が世話をして、私が絵を描いている時は彼が面倒を見ています。
ただ料理に関しては彼の方が上手です(笑)。
津島 家事も分担されているんですか?
ヨプス 分担していますね。ハウスキーパーをお願いすることもあります。
津島 日本だと奥さんに家事育児の負担が大きいという不満がよく出ます。そのあたりはいかがですか?
ヨプス そういう不満はないです。今年息子が生まれて、赤ちゃんにつきっきりだった生後3カ月の間も、彼が家事や娘2人の面倒を見てくれました。
ティモ 夫婦で仕事をしていますので、助け合いながら仕事をしていますね。
初めての子が生まれる前には「子供が生まれると生活の全てが変わるから、心の準備を」と言われていました。でも意外と変わらず、仕事もスムーズにできた。長女が6カ月の頃にパリであったイッセイミヤケのショーも見に行けたので、子供がいても移動が多い生活はできる、と。
長女の時はそれまでの生活とあまりに変わらなかったので、次女が生まれてから家族全員でニュージーランドに旅行しました。最初は2カ月の予定でしたが、仕事のスケジュール調整がうまくいって結果4カ月くらい休めました。
育てやすい国かどうかより、家族でいることの方が大事
津島 北欧は子育てしやすいと聞きます。世界中を巡って、その点はどう感じますか?
ティモ 子供にとって一番大切なのは、家族全員でいること。それができれば国は関係ないのが大前提です。
日本と比べると、フィンランドの方が家族みんなですごす時間を大切にしているかもしれません。
ヨプス フィンランドの保育園はスキルではなく、知恵を教えてくれます。そこが好きですし、とても信頼できます。
一方で日本は、おむつ交換台や授乳室などの施設が充実していますね。
ティモ ヨーロッパは大人しか入れない場所が多いけれど、日本では家族でレストランに行っても違和感がないのがいいです。
僕は娘とよく出かけますが、それを見た日本の男友達が娘さんと一緒に出かけるようになった例が何度もあります。僕らを見て、初めて子供と二人っきりで出かけた日本のお父さんも。
津島 ティモさんのおかげで日本にもイクメンが増えているんですね。
ティモ フィンランドでは父親が子どもの面倒を見るのは当たり前。僕は父の出張にもついていったこともあります。
津島 子連れで出張は、日本では考えられないですね。最後にこれから家族で楽しみにしていることを教えてください。
ヨプス この展覧会が終われば仕事も一段落。息子も4カ月になりましたし、そろそろ家族でホリデーに出かけようと思っています。
※1 フィンランドで最も古く、最も規模の大きなヘルシンキ大学の学生寮ドムスアカデミカ。その寮のために、イルマリ・タピオヴァーラがデザインした椅子のこと。1946年に誕生し、今年で70年も愛され続けている。
MUSUTA
夫であるティモと、妻のヨプスによるクリエティブユニット。豊かなビジュアル感覚と物語性をもった表現を得意とし、映像とイラストを軸とした広告やプロモーションを手がける。フィンランドと東京を拠点に、世界を舞台に活躍中。プライベートでは6歳と3歳の娘、0歳の息子の子育て中。
*現在、LEEwebリニューアル記念大プレゼントでは、アルテックの80周年記念トートバッグと展覧の限定ポスターをセットで3名様に。
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津島千佳 Tica Tsushima
ライター
1981年香川県生まれ。主にファッションやライフスタイル、インタビュー分野で活動中。夫婦揃って8月1日生まれ。‘15年生まれの息子は空気を読まず8月2日に誕生。