今夏、何か映画をご覧になりましたか? 今年の夏映画をダントツで制したのは、『怪盗グルーのミニオン大脱走』という、今や日本でも人気のキャラクターとなった“ミニオンたち”が出てくるシリーズでした。確かに、すっごい面白くて大人が観てもワクワク、我が家の息子2人もギャハハハハと大笑い&興奮して鑑賞していました。その他、『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(2位)、『銀魂』(3位)など、洋画邦画入り乱れてエンターテインメント大作がひしめき合った夏映画。
さて、それも一段落。
秋には、心に染み込むような良作が続々と公開されます!! LEE本誌10月号では『50年後のボクたちは』というドイツ映画を紹介させていただいたのですが、最後まで『50年後~』とどちらにするか、迷いに迷ったのが、『あさがくるまえに』というフランス・ベルギー映画でした。
心が震え続ける感覚の感動作『あさがくるまえに』
<どんな映画?>
夜明け前、恋人が眠るベッドからこっそり抜け出し、青年シモンは友人たちとサーフィンへ。ところがその帰り道、自動車事故に巻き込まれ、“脳死”判定をされてしまう。駆け付けた両親は、当然ながら悲しみと混乱で事態が呑み込めない。そんな彼らに医者は、臓器移植の意思を尋ねる。一方、重い心臓疾患で臓器提供を待つクレアは、若くない自分が誰かの命と引き換えに命を長らえることを逡巡していたーー。監督は新鋭女性監督カテル・キレベレ。出演は、タハール・ラヒム、エマニュエル・セニエほか。
<ズバリ本音!>
冒頭、人気がまだない静寂の街を、スケボーや自転車で疾走していく場面から、どこか詩情漂うカッコいい映像に思わず目が釘付けに。シモンと恋人が恋に落ちるまでのエピソード、クレアと2人の息子との会話や関係、シモンの両親の苦悩と葛藤、医者や移植コーディネーターらの小さな逸話など、すべてが心にじわじわ沁みてきて、“号泣映画”というウリはしていないのですが、私はもう涙が止まりませんでした!! シモンが色々と経験する青春の瑞々しさに心をときめかせ、そんな息子の“脳死”を受け止めきれない両親に深く共感し、同時に他の人々の小さなエピソードも効いています。「命」というもの、それにより繋がっていくものーー。決して悲しいだけの暗い映画ではなく、何か神秘的な力強さも漂う作品。誰の心にも何かが強く残る傑作だと思います!!
勝手に採点(★5満点) ★★★★★
思い出や“あの”感覚が蘇る瑞々しくビターな『わたしたち』
<どんな映画?>
『オアシス』(02)や『シークレット・サンシャイン』(07)など、ヒリッとしながら深い愛が突き刺さる作品を撮り続ける名匠イ・チャンドン監督が見出した若き新鋭ユン・ガウン監督が、実体験を基に、現代社会に生きる少女たちの姿を活写。小学4年生のソン(写真右)は、クラスで仲良しの友達がいない。終業式の日、転校生のジア(写真左)と意気投合し、楽しい夏休みを過ごす。ところが新学期が始まると、ジアはクラスの中心グループの女子たちと親しくなり、裕福な家のジアと、庶民的な家のソンの間に少しずつ溝が広がっていくーー。
<ズバリ本音!>
モソモソ居心地の悪さを覚えながら、主人公ソンと新しく友達になったジアを見つめ続けてしまいました。頑張れ、ソン!!と大声援をしながら。82年生まれの女性監督の実体験を基にしたというだけあって、リアルでドキドキしちゃいます。小学4年生頃って、大人からみたらまだほんの子供だけれど、自尊心はバリバリだった気がするし、学校やクラスの中に既にカースト制度的な友達関係ってありましたよね。特に女の子の間では。誰と仲良しだから鼻が高い、的な。う~ん、なんだか身悶え(笑)! 女の子ママはドキドキでしょうが、昔、少女だった私たちみな、見逃せない一作です!
勝手に採点(★5満点) ★★★★
彼女たちの奮闘に心が熱くなる『ドリーム』
<どんな映画?>
本年度アカデミー賞3部門(作品賞/脚本賞/助演女優賞:オクタヴィア・スペンサー)にノミネートされた、実話を基にした力強い感動作。舞台は、人種差別が当たり前だった60年代初頭のアメリカで、初の有人宇宙飛行計画を陰で支えたNASAの3人の黒人女性の奮闘を描く。その3人を演じるのは、タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ。監督は『ヴィンセントが教えてくれたこと』などのセオドア・メルフィ。
<ズバリ本音>
保守的な時代、黒人、女性、といういわば三重苦の中で、真っ直ぐ顔を上げて正々堂々と、能力とポジティブで真っ直ぐな人間性で、分厚い壁を突き破ろうとする彼女たちの奮闘に、思わず体の芯から熱くならずにはいられません!! 彼女らの能力の高さにいち早く気づき、でも白人男性であるがゆえに彼女たちの苦労になかなか気づけない、でも気づいたらガツンとやってくれるケビン・コスナー扮する上司のフェアでホットな心意気がカッコ良くてちょっと感動しちゃいます。彼女たちを支える家族や友情、仄かな恋もいい感じですよ!!
勝手に採点(★5満点) ★★★★
男女の目線からたどるミステリアスな恋の行方『ポルト』
<どんな映画?>
ジム・ジャームッシュが製作総指揮の一人を務める。ポルトガル北部の街ポルトを舞台に、26歳のアメリカ人ジェイク(アントン・イェルチン)と、フランス人女性マティ(リュシー・リュカ)の出会い~恋の行方を追う。監督・脚本はゲイブ・クリンガー。主演のアントン・イェルチンは27歳の若さで昨年、事故で亡くなってしまいました。……本当に惜しい才能、存在感の持ち主でしたよね……。
<ズバリ本音>
出会う前と後がシャッフルされ、男側の目線と女性側の目線から綴られるため、途中で戸惑いつつも、「あ、こっちからすると、こんな風だったのかぁ」と、小さな驚きと共に見えてくる展開が、何ともスリリングで心くすぐられます。さすがジャームッシュ製作! サラッとした何気なさ、そこに感じられる心の襞に魅せられるような、甘いだけではない“恋のままならなさ”もはらんだラブストーリーです。おススメ!
勝手に採点(★5満点) ★★★★
恋と官能ムードにどっぷり浸れる『アンダー・ハー・マウス』
<どんな映画?>
“ネオイケメン”モデルとしてジェンダーレスに活躍する、ファッションモデル、エリカ・リンダー初主演の、女性同士のラブストーリー。共演にナタリー・クリル、セバスチャン・ピゴット。監督はエイプリル・マレン。
<ズバリ本音>
いやぁ、もうドキドキしましたよ!! エリカさん扮するイケメン女子ダラスの、華奢な体躯で腕まくりした大工姿にも、思わず痺れてしまいました。相手が男だとか女だとか、そういうのを軽く飛び越えさせてくれます。ヒロインの編集者ジャスミンが、セレブな婚約者(もちろん男性)とダラスの間で引き裂かれる思いが、もう痛いほど伝わって来て! 恋に落ちる瞬間、その狂おしい思い、そして思わず関係を持ってしまうくだりなど、この秋、恋の切なさと官能ムードに浸りたい方、絶対に必見ですヨ!
勝手に採点(★5満点) ★★★★
最後に真の愛が残る……『愛を綴る女』。
<どんな映画?>
波乱に満ちた17年という歳月を経て、一人の女性が遂にたどり着く真実の愛の姿を描き出す。監督は女性監督ニコール・ガルシア。マリオン・コティヤール主演。共演にアレックス・ブレンデミュール、ルイ・ガレル。
<ズバリ本音>
どこか壊れたガブリエル(マリオン・コティヤール)が突拍子もない言動を取る姿にハラハラです! 療養所で出会って“運命”と思い込むハンサムな男性と、不本意ながら結婚した無骨な夫との関係や愛憎がミステリアスに織りなされ、真実が明らかになる終盤、アッと驚いてしました! 最後まで保たれる美しくミステリアスな空気が本作の魅力ですが、「愛を弾く女」や「とまどい」の脚本家ジャック・フィエスキが脚本を手掛けているのが、その大きな要因でもあるかもしれませんね。
勝手に採点(★5満点) ★★★★
以上、挙げた6作品はどれもこれも、まったくもって素晴らしい作品! 「みんな★4つ以上じゃないか!!」って怒られそうですが、それもそのハズ。だって好きな映画ばかりを選んだのですから。どれを選んでも間違いなし、なんです。
これらの作品で、豊かな秋の日々になりますように! ぜひ劇場に急いでくださいっ!!
折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。