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LIFE

映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

三上博史さんの今に直撃!!/「連続ドラマW 社長室の冬-巨大新聞社を獲る男-」で“トランプ大統領”的な暴君に!?

  • 折田千鶴子

2017.04.25

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今また、多くの人に観て欲しい願望が強い

LEE世代の皆さんにとって、三上博史さんはどんな存在でしょうか。

かつての“トレンディ・ドラマ”の全盛期(80年代後半~90年代中盤)を少しでも知っている方なら、そのエースと呼ばれた三上さんは、“とにかくカッコ良い“王子様”というイメージが強いハズ。でも、まだ小さな子供だった人も多いですよね!?

となると90年代中盤以降、エキセントリックな役やクセのある難役に舞台や映画で次々挑み続け、鬼才/奇才ぶりを発揮して来た“アーティスティックな役者”というイメージの方が強いでしょうか。

いずれにしても“なんとなく特別感の高い”俳優・三上博史さんが、LeeWebに登場です!

みかみ・ひろし●東京都出身。故・寺山修司に見いだされ、寺山修司監督作『草迷宮』(79)で主演デビュー。近作に舞台「タンゴ・冬の終わりに」(15)、「連続ドラマW 贖罪の奏鳴曲(ソナタ)」(15)、ドラマ「遺産相続弁護士 柿崎真一」(16)など。 撮影:中澤真央

作品作りを純粋に楽しみ没頭してきた数年を経て、「今また、やっぱり多くの人に観て欲しい願望が強くなった」ことによる今回の登場。その言葉もまた嬉しいですよね!!

三上さんが“観て欲しい”と語るのは、WOWOW製作の「連続ドラマW 社長室の冬-巨大新聞社を獲る男-」。主演の三上さんは、伝統ある巨大な新聞社が身売りをしようとする交渉相手の、外資系企業の日本法人社長・青井を演じています。

大手新聞社が身売りなんて、それだけでかなりショッキング! ところが青井はさらに衝撃の条件を提示し、新聞社に揺さぶりを掛けるのです。「そんな殺生な……」と誰もが引きそうな“まんまトランプ大統領のような過激さ”で!

「連続ドラマW 社長室の冬-巨大新聞社を獲る男-」 4月30日(日)スタート(全5話) 毎週日曜 夜10:00 ※第1話無料放送 http://www.wowow.co.jp/dramaw/shacho/>

しかも青井というこの男、実は当の新聞社の元記者であり、少なからぬ因縁があるのです。

公式メッセージで三上さんは、「演じる青井は、真っ直ぐ誠実にメディアと向き合っていて、それが彼の信念。僕も同じような熱量は持っているけど、信念が青井とは少し違うところにある。でもその熱を論理上ではなく演技に利用できればと思っています」と語っていました。

撮影も中盤に差し掛かった今、現場はどんな風に進んでいるのでしょうか。

 

俳優人生、初めてというほどの難儀

三上さん曰く、青井は「非常にキャッチ―な役」だとか。

「自分の言葉を吐露することなく、大義名分や社会の構造など、とても表面的なことしか言わない人間。内面を見せないように演じる役なので、血肉が入りにくいのかな。普段は役が向こうからタッタカ歩いて来るのですが、今回は珍しく、役にあまり馴染まず現場で格闘していますね。演じていて、どこか心地悪いんですよ」

トランプ大統領を彷彿とさせる暴君と聞けば、きっと三上さんは気持ちよくガーッと怪演しているのだろうと思っていました、と言うと、「うん、当初は僕もそう思っていた」と思わず苦笑い。

「これまでの役者人生とまったく同じように、(頭と体にセリフを)入れたのに、先日もいきなり全くセリフが出て来なくなった。そんな経験は久しぶり、いや初めてかもしれないですね」

「ただし、心地よく演じられるのが全ていいわけではなく、心地悪いと思って演じた作品が、逆にすごくいい作品に仕上がることもあるので、そこがまた難しいところでもあるのですが……」

待ちわびる方としてみたら、三上さんがそんな“初めて級”の難儀をしながら演じた青井が、どんな暴君になっているのか、余計に楽しみなってきませんか!?

 

今の世の中、どこかに向かって泳がないと不幸になる

それにしても「社長室の冬」というこのドラマ、私たちが暮らす現代において、非常にタイムリーな問題を孕んでいますよね。今や新聞やテレビに先んじで、何かが起きれば逐次ネットでニュースがアップされ、時にはそれより早くSNSで拡散し、でも同時にそこにはフェイクニュークも混入し……。

色んな情報が氾濫する現代、このドラマは“メディアの在り方”を、ガッツリとテーマに据えています。

元新聞記者の人気作家・堂場瞬一の“メディア三部作”の完結編「社長室の冬」のドラマ化。日本を代表する大手新聞社・日本新報が、発行部数の激減や広告収入の低迷から、外資企業への身売りを画策する。だが、その外資系企業を率いる日本人社長とは、元・日本新報記者の青井だった――。共演に福士誠治、北乃きい、シャーロット・ケイト・フォックス、南沢奈央、笹野高史、田中泯、岸部一徳ほか

「メディアには、送り手側としての信念やビジョン、良心がないとダメだと思う」と語る三上さんが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべました。

「きっとアナタも“私の書く記事なんて、それほど影響力は……”なんて思っているでしょ(笑)? 良く言えば謙虚、悪く言えば傲慢! 読んでいる人は確実にいるのです。だからメディアの人たちにも、これからの時代における行き場を見つけて欲しい、とも思っています」

ドキリとする言葉を放つ三上さんですが、どんな仕事をされている方の心にも、スポッと入って来るような真摯な発言が続きます。

「日々流れるように仕事をしているだけでは、今のこの世の中、どこへもたどり着けないし、生きられない時代だと思うんですよ。だから自分で何をよすが(拠り所)にするかを決め、流されるのではなく、どこかに向かって泳いで行かないと、きっと不幸になるもちろん後で“これは違ったかな”と修正したり、変わってもいいと思うんです」

愛情のこもった、不思議と温かなエールを送られたような気分になりますよね!

「僕には子供がいませんが、こうして生きている以上、次の世代や子供たちのために、何かを残していかなければ。せめて耕していかなければ、という気持ちは少なからずあるので……ね(笑)」



引き受けた瞬間、役が自分のヒーローになる

さて、暴君である青井に対して、演じる三上さんは何を感じるのでしょうか。

「彼の行動の是非については、自分自身をはなから置いてきて演じているので、今はもう言えない。既に僕の物差しはなく、青井の尺度でしか計れないので、青井が何かに向かって邁進し、何かを説得しようとするなら、僕も本気でそう思って行動しているんです」

なるほど……と思わず唸ってしまいました。役に魂が宿るとは、そういうことであり、だからこそ上手い役者の演技というのは、観る者の感情をいやというほど揺さぶることができるものなのですね。納得!

「企画のお話をいただいたり、初めて台本を読む際はもちろん何か感じ、意見もあります。でも「この役をやらせていただきます」と引き受けた瞬間から、その役が僕のヒーローになり、僕は完全に役の下僕になるわけです。たとえ役がどんな悪人だろうが嫌な奴だろうが、その役の思いを遂げさせる以外のものは、僕の中に何もなくなるんです」

三上さんの役への入り方、色んな台本を読んだときの知られざる秘話と、さらに興味津々の話が続きます。

 

 

かつて住んだ四畳半の壁の重大な役割!?

役へのアプローチは十人十色ですが、三上さんの場合“普段は役がタッタカ歩いて来る”と語るように、共感や好感などで自分から役に近づいていくようなことはなさそうです。

「そう、役が自然と自分に向かってくるための準備をしておく。自分を追い出し(役が入るスペースを)空けておく、という感じですね。そうしてハッとするんですよ」

その“ハッとする”エピソードも最高です!!

「以前、連続ドラマで“落ちぶれたロックスター”役を4ヶ月くらいやっていたんです。常にふんぞり返って“やってられね~よ”的な言動を取るキャラクターでしたが、ある朝、普通に「お早う~」と部屋に入ろうとしたら、ドアを足でバーンと蹴り開けて入っていて。その瞬間、“あれ、今の誰がやった?”“俺がやったよね?”みたいな状態になりました(笑)」

「映画はさほど長いスパンでやらないし、舞台はペースが掴みやすく切り替えがしやすい。でも連続ドラマは撮影が3、4ヶ月続き、しかも連日撮影が続くかと思えば、いきなり数日空いたりする。そうするとペースが掴めず、混乱しやすい。特に連続ドラマWは、毎回映画を撮る感覚で連続ドラマを作るので、本当に大変! あ、文句じゃありませんよ(笑)」

大きな身振りを交えながら、三上さんは何度も、周囲を爆笑の渦に巻き込んでいました。

 

台本を読んだ後、ひとしきり色んなことを考慮し、役を引き受けるかを決めるそうですが、それがまた傑作です!

「大して稼ぎがなかった20歳~25歳、青山の四畳半のアパートに住んでいたのですが、一角の小さな壁は、“台本を投げつける専用壁”でした(笑)。たまに仕事が来て期待して台本を読むと、“見せ場がない!”とか、“****に***なんか**ねぇよ!”とか、バーンと思い切り投げつけ(笑)。そうしながら役を引き受けることもありましたが、引っ越しするとき漆喰の壁はボロボロでしたね」

投げつけながらも引き受け、役の下僕に徹してきた――その繰り返しで、今の三上さんがあるのですね!

 

いい意味での違和感を味わって欲しい

さて、お気づきでしょうが、おススメしているこのドラマ、実は筆者も未見。なのにどうしておススメかと言えば、実は私、WOWOWのオリジナルドラマを結構、見て来たのです。三上さんが過去に主演された「パンドラ」「下町ロケット」「震える牛」ももちろん。

そして今回、読ませていただいた「社長室の冬」の台本も、とても面白かった!!

「ドラマWとして僕が最初に三池崇史監督と作った「交渉人」の時から、モノづくりの閉塞感から放たれたような気持ちがあって、参加するのが楽しくて仕方なかったんですよ。それが一回りして今、“やっぱり観て欲しい”と。LeeWeb読者の方に、“僕、まだココに居ますよ~、こんなドラマ作りましたよ!”と、その存在を知って欲しいんです」

そして自信を覗かせました。

「今回もまた生粋のテレビ人たちが作っているので、スゴイものになると思います。しかもドラマが始まる4月30日は、無料で第一話が見られる。まずは覗いて、いい違和感を覚えて欲しい。三上博史がずっとやってきたのはこういうことだったのか、と感じてもらえると思うんです」

ご覧になれる方はこの機会を逃す手はないですよ。ぜひ素敵な“ひとり時間”をお過ごしください!

 

 

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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