カンヌ絶賛の鬼才女性監督が 『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』で描“く愛”/マイウェン監督インタビュー
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折田千鶴子
2017.03.28
『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』以来と誉れ高き、激烈な恋愛映画
LEE本誌の「カルチャーナビ」映画&DVDコーナーでは、毎号新作映画2本と新リリースのDVDを1本ご紹介しています。でも、これがなかなか大変! 毎月、どの作品を取り上げ、どれを泣く泣く諦めるか、編集者と悩んで悩んで決めています。
この『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』も、最後まで悩みぬいて泣く泣く諦めた作品でした。そこへ監督が来日するとのニュースが‼ 飛び上がってインタビューに行ってまいりました‼
だって、こんなに心にグサリと突き刺さるような愛の痛みを刻印されるのなんて、本当に久しぶり。そう、フランス恋愛映画の傑作『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』や『ポンヌフの恋人』などを観て、思わず衝撃で震えて以来かもしれません。
さて、そのマイウェン監督、プライベートでも日本を旅行されていて、今回で4度目の来日だそう。「初めて私の映画が日本で公開される、この貴重な機会を逃す手はないもの!」と、意欲的に質問に答えてくれました。
愛にまつわる謎が詰まった、男女の10年の物語
ヒロインはスキーで大怪我をし、リハビリセンターでトレーニングを強いられるトニーという女性です。「膝の痛みは、心の痛みに通じる」と医者から指摘され、ハッとして涙がこみ上げるトニーの脳裏に、嵐のような10年が蘇ります。
素敵なジョルジュとの出会い、夢のように幸せだった恋、結婚、早くも関係がきしみ始める中での出産、やがて訪れる身を引き裂かれる別れーー。
あぁ、恋ってこんなに幸せで、恋愛って、こんなにも焦燥や嫉妬に身もだえする辛いものでもあったなぁ……と、つい遠い目に。
既に穏やかな結婚生活や、パートナーと落ち着いた生活を送っている方は、あの頃の“疼き”を思い出さずにはいられません。
愛は病気みたいなもの 幸せな喜びの反面、破壊的でもある
「女性ってある年齢に達して結婚を意識するようになると、誰もが割に手堅い男を探すものよね。でも、ジョルジオみたいな男性が目の前に現れたら、もう抵抗不可能。嵐のような人生を送る羽目になっちゃうのよ! でも、恋愛は若者だけの特権じゃない。突然、訪れる激しい恋は、誰にでも起こりうるのよ!」
「私はこの作品を通して、実は愛っていうのは一つの病気みたいなもので、とても幸せな喜びの瞬間もあるけれど、かたやとても破壊的なものを持っている。それが愛だ、ということを描きたかったの」
怪我によって一度立ち止まることがもたらす、心の再生
飲食店を経営し、プレイボーイのジョルジオと、弁護士のトニー。一見、同じ世界には住んでいないような、この男女が繰り広げる物語で、監督は何を探索しようとしたのでしょう。
「愛の物語を紡ぐには、私にはまだ無理かなぁと、構想から脚本を書き上げるまで10年くらい掛かりました。でも、ヒロインがスキーの事故に合い、それを機に彼女が自分と向き合い、もう一度見つめなおすということを、怪我の回復を通して語れる。そう思いついてからは早かったわ! 怪我が回復していく現在と、ジョルジオとの日々を綴った過去とを交互に編集していくという、ストーリーテリングにも興味がありました」
「ジョルジオのプレイボーイという設定は元々からありましたが、ヒロインの造形については、スキーの事故を思いついて、後から生まれた設定です」
ヴァンサン・カッセルとエマニュエル・ベルコという異色の顔合わせ
ジョルジオを演じるのは、日本でも人気のヴァンサン・カッセル。対してトニーを演じるのは、女優として活躍すると同時に、『なぜ彼女は愛しすぎたのか』『ミス・ブルターニュの恋』『太陽のめざめ』など、監督としても高く評価される才媛エマニュエル・ベルコという異色の組み合わせです。
「実はもっと若くて美しい女優さんを考えていたのですが、ある時、エマニュエル・ベルコと仕事がしたいな、と思って。それで円熟した彼女に合わせ、職業を弁護士にするとか、色んなことを作っていきました。
「弁護士は非常に知性があり、頭の回転が速く、そして他人を弁護する仕事。そういう職業のプロであるトニーが、実生活ではどうしようもないモンスターであるジョルジオを、そうと知りながら擁護しようとする、というのが皮肉で面白いと思って」
「よく言うでしょ、(紺屋の白袴と同義でフランスでは)、靴屋が紐を上手く結べないとか、歯医者が虫歯になるとか(笑)。弁護士で守るのが上手なはずなのに、彼女は間違えた擁護をしてしまうのです」
別れたくても別れられないトニーの煩悶!
トニーのような知的な彼女が、自分を裏切り、自分を傷つけるジョルジオと別れられずに苦悩する姿をみて、愛とは何だろう、執着に形を変えるのか、所有欲か、観る私たちも煩悶してしまいます。
「最初、ジョルジオは彼女を誘惑するため、最大限、魅力的な部分を提示したわよね。トニーはそれにガッチリはまっちゃって、後戻りできないわ、という気持ちになりました。というのも彼女はそれまでも濃い人生を送ってきていて、子供はないけど一度結婚し、離婚もしているの」
「ここまで人生をぐるりと回って来て、ようやくこの人と子供を作りたいと思う男性に巡り会えたのに、簡単に「はい、さようなら」なんて出来ないわ、という気持ちよね。なぜなら、それは自分が今までやってきたことを全て否定することになってしまうから」
「と同時に子供ができて母親になると、子供の幸せ=私の幸せと考えるようになり、もう自分ひとりの幸せのために別れる、なんてできなくなってしまう。周りがいくら、自分の幸せを考えろ、自分ために別れた方がいい、とアドバイスしても」
監督が好きな恋愛映画
さて、本作を撮るにあたって、直接的でないまでも影響を受けた恋愛映画はあるのでしょうか。何しろフランス映画には、恋愛映画の傑作が山のようにあるのですから!
「う~ん、全くないわ(笑)! もちろん10年におよぶ準備期間、シナリオを描く段階でも、すごくたくさんの恋愛映画を観ました。でもこの作品みたいに破壊的な愛を描いた作品はなかったので、結局のところ全く影響は受けていません」
「でも好きな映画を強いて挙げれば……やっぱり『ベティ・ブルー』かな。そして『カミーユ・クローデル』。2作ともヒロインが狂気に陥るお話ね(笑)! 今度私は、狂気に陥る男の話を撮ろうかしら」
「でも男って、別れた後で狂気に陥る人はいるけれど……。結局のところ、恋愛で高みに行けるのは、狂気に陥る女性の方よね。日本の女性たちも、40歳までにまだ経験していない人は、こんな恋愛を、一生に一度は絶対に経験すべきよ。すごく豊かな人間になれると思うの!」
心に深く響く、いや刻印されるこの愛の物語は、現在公開中のYEBIS GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町のほか、全国順次公開されます。
ぜひ劇場で、狂おしい愛を疑似体験してください!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。