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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

森七菜さん・映画『炎上』公開記念インタビュー

【森七菜さん】『国宝』の大反響に「不思議な気持ち過ぎて、ちょっとまだ整理がついてない」。新作『炎上』では一転、歌舞伎町にたどり着いたトー横キッズを熱演!

  • 折田千鶴子

2026.04.09

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森七菜さん

新宿・歌舞伎町で撮影した『炎上』

実際にお会いすると……思わずズキュンと射貫かれるほど、全方位的にキュートな森七菜さん。もちろん色んな映画やドラマで多々拝見し、最近もドラマ『ひらやすみ』をかじりつきで観ていた(読者も多いハズ!)だけに、そのキュートさは分かっちゃいるけど……という軽い驚きがありました。

そんな森さんに、もうすぐ公開の映画『炎上』について、色々と語ってもらいました。森さんが演じたのは、カルト宗教の信者の家の子として理不尽なまでに厳しく育てられた家を飛び出し、歌舞伎町にたどり着いた少女・じゅじゅ。タイトルの“炎上”って、どんなことがじゅじゅの身に降りかかるのでしょうか!? さらにオマケとして、異例の大ヒットを飛ばした『国宝』を経た今の心境もお聞きしたので、最後までお読みください!

森七菜さん

役によってイメージが大きく変わる

森七菜

Nana Mori

2001年8月31日生まれ。大分県出身。映画『心が叫びたがっているんだ』(17)で映画初出演。『天気の子』(19)でヒロインの声を担当。主な映画出演作に、『ラストレター』(20)、『ライアー×ライアー』(21)、『君は放課後インソムニア』(23)、『国宝』『フロントライン』『秒速5センチメートル』(全て25)、その他、Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』(23)、『ひらやすみ』(25)が配信中。短編映画『青い鳥』が現在、全国順次公開中。

随分チャレンジングな役に挑んだな、という感想を持ちました。オファーが来た時、長久允監督によるオリジナル脚本を読んだとき、どんなことを感じましたか?

「私は頂いた脚本を読む時に面白いか面白くないのかという感覚ではなく、“自分の未来になる感じがするな”と思うことや、自分がこれから言う言葉(セリフ)で未来予想図が広がる感じがする時があるんですね。結局そうした作品に参加させてもらうことが多いので、本当にご縁だなと自分でも思います。まさに今回もそんな感じがしたので、きっとご縁があるなと思いながら、果たしてどうなるのか(その成り行きを)自分でも見ていた気がします」

変な質問で恐縮ですが、割と霊感が強かったりするのですか?

「いや、霊感は全くなくて幽霊は見えないのですが、自分のことに関しては自分の直感を信じている、というか。私の場合は頭で考えすぎると、不正解に近づいていくことの方が多いので……。例えば自分に似ている役が来ても、自分の未来になっていく予想がつかない時があり、それはもう、本当に不思議なんですが。そんな中、この『炎上』はとってもピッタリ来たんです」

炎上』ってこんな映画

カルト宗教の信者の家に生まれた小林樹理恵(森七菜)は、妹とともに厳しく教育されて育ちます。2人は辛い日々が消えるよう、教育熱心すぎる父がいなくなるよう、毎日、神様に祈っていました。その願いが通じたのか数年後、父が亡くなりますが、母がそれに代わっただけ……。そんな現実に耐えきれなくなった樹理恵は、妹を残して家を飛び出します。SNSを頼りに歌舞伎町にたどり着いた樹理恵は、そこに集まって過ごす少年少女から「じゅじゅ」という名前をもらい、寝食を共にするように。ようやく自分の意思を持つことができるようになった彼女は、妹を迎えに行って一生に暮らす夢を抱いて、自分で稼ごうとするのですが……。

過酷な境遇で育ったじゅじゅを演じることは、演じる上で自分も辛い思いをするだろう、覚悟がいる役だな、と思ったりしませんでしたか?

「実際に歌舞伎町で撮るとお聞きして、ロケーション的な部分で少し不安はありましたが、役的なことでは全く不安を覚えたり、覚悟を要するようなことはありませんでした。もちろん役によってやることはそれぞれ違いますが、自分の振り幅的にも、これまで積み重ねてきたものと、さほど変わらないなと。ただ、皆さんのイメージにはない面にスポットを当ててもらった感じは実際にあったので、出来た作品をご覧になられた方がチャレンジングだと言ってくださるのも分かるな、という感じです」

『炎上』
©2026映画「炎上」製作委員会

例えば、最近の作品で『ひらやすみ』のような全く世界観が違う作品に入る時と、本作に入る時の違いもない感じですか?

「方法としては、もちろん違いますが、感覚や姿勢は同じです。その方法の違いを言語化するのは難しいのですが、例えば本作の入り方としては、新宿のホテルに泊まって、撮影中はずっと新宿に居座った、ということをしました。その期間中は、じゅじゅの生活環境に近づけるため、必要最低限のもの以外を全部捨ててみました。そういうことが、自分の中でとても大事だった気がします。『ひらやすみ』の時は、まず漫画を描く練習から始めましたし、作品によっては体型を変えることから入ることもあります。毎回、別々の方法で入りますが、自分の中での熱量感や大変さレベル、みたいなものは一緒です」

なるほど。新宿に居座って、じゅじゅと同じような生活環境に身を置いたことで、自分の感覚になにか変化はありましたか。

「やっぱり新宿には、新宿だけの特別な雰囲気あるんです。実は昔、新宿に住んでいたことがあって、その時に新宿特有の体調やコンディションがあったので、それを取り戻そうと思いました。体調の良し悪しではないのですが。例えば、住む町によって食べるものや、着る服も変わって来ると思うんですよ。そこに住む皆さんがそうだという意味ではなく、自分と新宿が掛け掛け合わさると、例えば紫のふわふわのショルダーバッグを持ちたくなったり、少しジャンキーなものが食べたくなったり。あくまで私と新宿の掛け合わせの話です。東京って街ごとに違う雰囲気や空気があると思いますし、池袋も特別だし。街ごとに、住んでる人の顔や雰囲気がそれぞれある気がするんです」

森七菜さん

昔、住んでいたというのは?

「大分から上京してきた時に一時期、住んだことがあったんです。どんな場所かも知らず、ご飯が美味しいところが一杯あるなと(笑)。怖い場所もあるとも知らず、1人でズカズカズ行って食べていました」



じゅじゅは決して可哀想な子じゃない

今回はその歌舞伎町で、じゅじゅとして生きたわけですね。

「あの場に集まって来ているじゅじゅのような子たちは、その反面もちゃんと理解しつつ、そこで生きることに『誇り』みたいなものを持っているんです。例えば、撮影中に『俺が本物だ!』と叫ぶ人がいたり。『自分がここにいる』というアイデンティティを持つ場所でもあるので、それを無視してはいけないなと思いながら撮影に臨みました」

『炎上』
©2026映画「炎上」製作委員会

大人からすると、じゅじゅに対して“可哀そう”と見なしてしまうきらいがあります。でも映画の中の彼女たちは、決して自分たちを可哀想なんて思っているわけではない。彼らは彼らなりに、必死にその苛酷な状況の中で生き抜こうとしていて。

「本当にそうなんです。じゅじゅは両親の厳しい教育環境や吃音を持っていたり、いろんな生きにくさを抱えています。だから“悲劇のヒロイン”と演じることはとても簡単で、一番の近道でもありました。でも監督と話すうち、彼女にも十数年生きてきたなりの“悲劇の緩み”みたいなのがあるんだな、と。ずっと悲しいわけじゃないし、どちらかというと悲しい時の方が少ない気がするくらいに。ちゃんと当事者にならないと、安易に悲しがってあげることが正しいと感じてしまうけれど、絶対にそんなことは出来ないなと思ったので、ちゃんと自分に(じゅじゅの境遇や環境に)馴染みをつけて、『自分にとっては普通』なことにしていきました。例えば、じゅじゅはちゃんと口が悪い(笑)。何かあれば人を殴ることも出来る子です。ちゃんと悪口を言うような“緩さ”というか、そういう寄り道をしながら演じる感じを、とても大事にした気がします」

寄り道しながら演じる、というのはとても面白いですね。どうにかして生き抜こうとする強さやパワーを、じゅじゅから逆にもらったこともありましたか?

「話としては悲惨で悲し過ぎる部分もありますが、そんな中にあって彼女の強さだけがこの映画の光であり、救いなんじゃないかと思いました。彼女がその強さをどこへぶつけるか、何が正しいか正しくないかは一旦置いておき、観客のみなさんが悲しいだけではない“何か”を持って帰れるといいな、と思いながら演じました。じゅじゅのその強さによって、今の閉塞感みたいなものをぶち破るパワーというか。彼女の強さが観ている方にとっても救いとなる、そう感じてもらえるように自分が表現できるように頑張ろうと思っていました」

一観客としては、歌舞伎町でじゅじゅに降りかかる運命をうっすら感じて、苛々というかハラハラしてしまったりもしたのですが……。

「え、その感覚は私には全くなかった! 演じる時、私は第三者の目線というものが本当にないんです。だから(作品全体や物語が)面白いとか面白くないとか分からないし、じゅじゅの思いに乗せられて動いているので、苛々とか全くなくて……」

映画がラストに向かっていくほど、じゅじゅの爆発は凄かったですね。

「その辺は(撮影を)あまり覚えていないんです。気づいたら終わっていた……みたいな。キャストもみんな、あの撮影日はずっと元気がなかったですね。メッチャ(役に)入っているというより、なんか元気がなくて『うーん……』って、体調とかいろんなものを引っ張って、どうにか繋げていくような感じでしたね」

やっぱり、大変な撮影ではありましたね。

「ただ本作においては、悲しみや怒りを出すことに困難はないんです。当たり前に悲しい出来事がたくさん起きるから、変な言い方ですが簡単に悲しむことが出来てしまう。でも逆に、楽しむような場面の方で努力が必要だった気がします。しかもそういうシーンでも、この状況でも『楽しい』と思えることが普通じゃないよな、と感じたりしていて。そこに自分を馴染ませていくのは、少しだけ大変でした」

森七菜さん

観ながら考えずにいられなかったのが、あの場で出会う子たちの友情について。運命共同体のように同じ運命を背負ってるようでいて、てんでバラバラでもあって。互いの存在をどう感じてるのだろうな、と。

「確かに不思議な関係ですよね。互いに対する認識自体が、個々人でそれぞれ違う気もするし……。でも全体の感覚としては、たまたま地獄で一緒にいた人――かな。でも、そこが天国じゃないからこそ繋がるもの、共感し合えるものも一杯あって。そこに深さが生まれるけど、本当は偶然一緒にいるだけだから、『君がどうなっても知らないよ』といった冷たさも同時にあるなとも感じたり。10代にして、そう悟っているのが、切ないし寂しいし……。でも、『それがあるだけで十分』とも思ってるような。一言では言えないですね」

長久監督独特な撮影方法、サンダンス映画祭

唯一に近い感じで楽しいシーンとして印象深いのが、チワワを友人と2人で愛でているシーンです。リズムもとっても楽しくて。

「あの『ただただチワワを見る時間~』ですよね。撮影時は『何やってるのかな、これ』と思ってましたが(笑)、他のシーンとのコントラストが、じゅじゅの人となりを表しているなと思いました。ああいう(ちょっと楽しい)時間と地獄で生きてる時間が同じ(地平線上)だからこそ、より切ないなとも感じて。一方でひたすらシュールで楽しい時間でもあるから、“ガリ”みたいな時間でもありますよね(笑)。観客と一緒に鑑賞したサンダンス映画祭でも、あのシーンですごく笑ってくれていて、それが嬉しかったです」

『炎上』
©2026映画「炎上」製作委員会

長久監督の演出については、現場でも“新感覚”と感じることもありましたか?

「いろんなカットがありましたが、特殊な撮影方法をすることも多くて、ワクワク感がありました。とても面白かったのが、ナーフ(NeRF)という撮影方法。私たちは3分くらい静止したまま、その空間を監督がiPhoneでグルッとスキャンしていくんですよ。そうすると、後でPCなどで好きなところを自由に切り取って使えるので、カメラが自由自在に動けるようになるんです。

また、最初に撮影方法を教えてもらって動きを決めて、そこに声や感情を後で乗せていく、どこかアニメーション的な方法もありました。いろんな新しい技術が使われていたので、完成した映画を観ても楽しかったですね。自転車を漕いでいたら、急に真っ暗な宇宙みたいなところに飛ばされていたり。監督の世界観の中で生きたという感じがして、後で観るのも本当に楽しかったです」

森七菜さん

サンダンス映画祭は、森さんも堪能されましたか?

「死ぬかと思うほどメチャクチャ寒かったですが(笑)、本当に楽しかったです! 初めて海外の映画祭に参加しましたが、それがサンダンスで良かったな、と。ソルトレイクシティで開催される最後の年という記念すべき回だったので、皆さんの熱量がすごく高くて参加できて本当に良かったです。また、長久監督に対する観客たちの熱量がハンパなくて(監督は過去に2度、サンダンスで賞に輝いている)、ファンの方もすごく多くて、深いことを色々と聞かれていました。『本当にすごい人なんだな』とリスペクトがさらに上がりました(笑)」

飛躍の2025年を経て今はーー

昨年は異例の大ヒットを飛ばした『国宝』もあり、これまで以上に女優としての評価が高まりました。改めて振り返ると、『国宝』はどんな影響を自分に与えましたか。

「撮影自体はだいぶ前のことなので、とても不思議な感覚です。もちろん出演作は出来るだけ多くの観客の方に観て欲しい気持ちはあります。でも自分の中では、撮り終えたら完結しちゃう部分も大きくて。だから時間が経った今『すごいね』と言っていただくと、嬉しい反面、逆に不安になったりして……。ずっと変わらずやってきたことが、後になって膨れ上がった感覚というか。不思議な気持ち過ぎて、ちょっとまだ整理がついてないというのが正直なところです」

森七菜さん

クルクルよく動く表情も、自分にツッコミながら言葉を自分の中から引っ張り出そうとする率直かつ実直な感じも、「考えるより直感」と言いつつ深い洞察力も感じさせる言葉も、これからが楽しみでしかない森七菜さん。

取材時、スタジオにいたほぼ全員が一気に大ファンになった(元々のファンもいるでしょうが)、何かほわほわした空気が漂っていました(笑)。

さて、映画『炎上』は、大人にとっては、ちょっとだけ観るのに覚悟がいる面もありますが、是非、構えずに観て欲しい映画です。私たちはすぐにカッコ書きで定義してしまいがちですが、子どもや若者が苛酷な境遇を自分たちでどうにか生き抜こうとしている姿、現代日本の現実がリアルに映し込まれた作品です。そして森さんが語ってくれたように、長久監督という新しい才能に触れるまたもない機会でもあります。

是非、劇場でじゅじゅが“炎上”を起こすまで、その先の物語を目撃してください。

映画『炎上』

4月10日(金)より全国公開

『炎上』

監督・脚本:長久允
出演:森七菜 アオイヤマダ 曽田陵介 / 一ノ瀬ワタル ほか 
2026/日本/配給:NAKACHIKA PICTURES  
©2026映画「炎上」製作委員会


Staff Credit

撮影/山崎ユミ ヘアメイク/宮本愛(yosine.) スタイリスト/丸山佑香(まきうらオフィス)

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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