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CULTURE NAVI「今月の人」

進行していく難病を患ったシングルマザーの美咲を演じる

【菅野美穂さん】『90メートル』「若い世代の透明で純度の高いパワーが詰まった映画です」

2026.04.10

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Culture Navi

カルチャーナビ : 今月の人・今月の情報

若い世代の透明で純度の高いパワーが詰まった映画です

菅野美穂さん

菅野美穂さん

母親歴10年を超えた今なお“可愛らしい”イメージを保ちつつ、ユーモアとパワフルさを増している菅野美穂さん。定評のある繊細な表現力にもますます磨きがかかります。映画『90メートル』で菅野さんは、進行していく難病を患ったシングルマザーの美咲を演じました。

「作品で描かれる病気について学ぶ中で、それまでできていたことができなくなっていくもどかしさ、そんな現実に向き合う苦しさや厳しさを強く感じました。でも同時に、役作りのために病気の知識を得て、知ったような顔で演じていいのか、という気持ちもあって。できる限りまじめに向き合おう、でも決して土足で入り込むことはするまい、と。やはり覚悟を要した役ではありました」

本作は、母親を介護した経験を持つ、30代の新進気鋭・中川駿監督の半自伝的な作品だといいます。

「ご自身の思い入れがある設定にもかかわらず、監督は現場で一歩引いていらして、“自由に演じてください”と、ほぼ任せてくださって。お声がけいただき本当にうれしく光栄でしたし、とても感謝しています」

物語は、母を介護する高校生の息子・佑と美咲の関係性が軸となり、介護する側・される側、双方の気持ちが痛いほど伝わってきます。

「本来であれば自分が養い育てる存在の息子の時間をもらい、世話してもらう申し訳なさと葛藤が美咲にはある。そこに、自分に対する“もどかしさ”も加わって。もちろん感謝の気持ちもありますが、佑に『ありがとう』ではなく『さんきゅー』と言う言葉にも、美咲のいろんな心情が表れているように感じました」

あえて軽やかな言葉を選ぶ姿勢からもわかるように、常に明るくポジティブな美咲に尊敬の念を禁じ得ません。けれど決して“聖人”ではなく、人間味とチャーミングさを感じさせるのが菅野さんの上手さ。

「何本もドキュメンタリーを観る中で、病気と向き合ったからこそ人生の素晴らしさを感じられたと笑顔で語る方が実際にいらっしゃって。脚本から、美咲もそういう人だと感じたんですよね。子どもの未来のために清らかに生きようとする美咲に、母とはこんなに強いのかと思わされて。育児の小さなことで怒ってばかりの私は、反省させられました」

複雑な葛藤を抱えて母と口をきかない時期もある佑ですが、菅野さんは「最も印象に残っている」と、佑とのシーンを挙げてくれました。そこは、涙なくして観られません! 

「終盤で、我慢強くて自慢の息子に声をかけるシーンです。美咲として、また佑を演じた山時聡真君の役への向き合い方に菅野自身として、二重に胸を打たれてしまって。監督も含めて若い世代の透明で純度の高いパワーが、こうして形になった本作は、本当に素敵な作品です」

さて、刻々と変化する育児の状況を語る率直な口調にも、菅野さんの朗らかな魅力が詰まっています。

「下の子どもが小学校に上がると楽になると言われて楽しみにしていましたが、期待したほどではなく(笑)。今は宿題を見なければとか、大変さが変わってきた感じです。ただ、朝お弁当を作る必要がなくなった時間に、岩手産の鉄瓶で白湯を作って飲んだり、家族のみそ汁を作りながら、自分のためにコーヒーをいれたり。そんなちょっとした自分時間が、気持ちの切り替えになっています」

PROFILE

かんの・みほ●1977年8月22日生まれ。’93年に俳優デビュー。朝ドラ『走らんか!』(’95年)のヒロイン役で注目され、多数のドラマや映画に出演。近年の代表作に、ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』(’23年)、映画『明日の食卓』(’21年)、『仕掛人・藤枝梅安』(’23年)、『ディア・ファミリー』(’24年)、『近畿地方のある場所について』(’25年)など。
公式サイト:https://www.ken-on.co.jp/kanno/

『90メートル』

『90メートル』
©2026 映画『90メートル』製作委員会

幼い頃からバスケに夢中で、部活でも中心的に活躍していた佑(たすく・山時聡真)は、母子家庭の母・美咲(菅野美穂)が難病で介護を要する状態となり、高校2年のときに退部して母の世話をする生活に。進路に対しても投げやりになっていた佑は、担任から自己推薦での受験をすすめられ、東京の大学に進学したい気持ちを抱く。しかし、それを母に言い出せずにいた――。全国ロードショー中。
映画『90メートル』オフィシャルサイト


Staff Credit

撮影/wacci ヘア&メイク/北 一騎(Permanent) スタイリスト/青木千加子 取材・文/折田千鶴子
こちらは2026年LEE5月号(4/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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