私のウェルネスを探して/小川麻美さんインタビュー後編
「猫は幸せのかたまり。一緒に過ごせてその重さが分かりました」陶芸家・小川麻美さんが振り返る”愛猫の看取り”
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LEE編集部
2026.03.29

引き続き、小川麻美さんに話を聞きます。小川さんの取材は、山々に囲まれた自然豊かなご自宅兼工房で行いました。住まいのスペースと地続きになった工房には作業室と展示室、窯場が並びます。作業室には大きなはめ込み式の窓が設けられており「景色を見ながら作陶したくてここに窓を作りました」と小川さん。リビングの窓からも山々や外の自然が感じられます。この居心地のいい場所に11月末までいたのが愛猫のじん兄です。
後半では、器が生まれるきっかけや器づくりの面白さ、日々大切にしていることを聞きます。また昨年看取った愛猫について、出会いから闘病中のエピソードを話してくれました。“猫は幸せのかたまり”という小川さん。生き物と暮らすすべての人が迎える最期をどう見守るかについて改めて考えたい体験です。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む)
料理を作ったり食べたりしている時に「こんな器がほしい」と思いつく
小川さんのルーティンは毎朝6時ごろに起床、朝食の準備をした後子どもと夫を送り出し、10時ごろから制作を開始します。夕方17時ごろには制作を終え、子どもの学童の迎えや夕食の準備をし、忙しい時は夜制作をすることもあるそうです。大切にしているのは“暮らしを楽しみながら器を作る”こと。
暮らしを楽しむことは料理を作ることでもあり、作りたい器のインスピレーションはそこから生まれます。料理を作ったり食べたりしている時に「こんな器がほしい」と思いつき、新しい器づくりが始まります。

「自分が使いたいものであることに加えて、重さとサイズ感も大事にしています。重すぎると毎日使うのが負担になるし、サイズは1人用か2人用かでも違いますが程よい、ちょうどいい大きさを考えます。料理が美味しそうに見える風合い、色合いも大切にしています。炭化の器は“おいしそうに見える”と言われることが多いですね」
自分が作りたいものが少しずつ形になっていく。生涯続けていても多分飽きない、作陶の面白さ
作陶の面白さを小川さんはこう言い表します。
「自分が作りたいものが少しずつ形になっていくこと。完成して焼き上がったら道具として使えること。出来上がったものが一つひとつ違っていること。“こういう色を作りたい”と思ったら釉薬の研究が必要ですし、無限に研究ができます。焼き方も同じですね。一窯分焼き方をチャレンジするのって、意外と勇気がいるんですよ。それぞれの工程に奥深さがあって、生涯続けていても多分飽きないんじゃないかなと思います」
季節を感じながら生活することも楽しみのひとつ。作業室の窓、リビングからは四季折々の景色が見えます。庭にはたくさんの植栽が生い茂り、畑では季節ごとに野菜を育てています。





「まわりがとっても静かで制作をするには最適な環境だと思います。生まれ育った秦野も山の麓のような場所で、のんびりしていてすごく似ていますね。四季を感じながら自分たちの手で暮らしを作っていく、それが一番の理想です。薪を自分たちで調達するとか庭づくりとか畑を作ったりとか。畑は夫がやってくれていますが畑仕事や畑で取れる野菜からも季節を感じます。庭には時折、野生のお客さんが来ることもあります。イノシシ、猿、ハクビシン。ちょっと怖さもありますが自然が近くにあり、生き物がそばにいるという証拠でもあります」
愛猫・じん兄の末期がんが発覚。家での看取りを決めた理由
小川さんは昨年11月、愛猫・じん兄を看取りました。じん兄と出会ったのは2015年。旅先の河原を歩いている時に、ひょいと現れたのがじん兄でした。自宅から離れていましたが、痩せていて毛並みもボサボサ。このまま置いていくわけにもいかないと連れ帰ることにします。
「いきなり足にすり寄ってきて驚きましたが、のんびりしたおだやかな性格だったので一緒の生活もすんなり馴染みました。それまで猫と暮らしたことがなかったし、飼ったことがあるのは金魚くらい。振り返ってみれば、よくあそこで即決したなと思います。じん兄の爪を切ろうとしたらとても抵抗したんですよね。捨てられたのか外飼いされていたのか分かりませんが、人慣れはしていました」

その後、もう1匹の猫・三毛猫のにこを迎え入れます。のんびり屋のじん兄と、ちょっと臆病だけど愛らしいにこ。猫2匹との暮らしは穏やかそのものでした。しかし昨年8月、じん兄の体調に異変を感じて受診すると末期のがんが発覚。余命は3ヶ月、いつ亡くなってもおかしくないという状況だと知らされます。
「じん兄は4年前に目のがん(メラノーマ)で片方の眼球を摘出する手術をしています。まだ若かったし転移を防ぐことを考えて迷いながらも手術をしました。その時のことですが、じん兄は車が本当に苦手で通院で移動するたびにずっと鳴いて、帰ってからもぐったりと疲れたような様子でした。通院には30分から40分かかる上、検査を繰り返したとしても予後が期待できるか分からない。考え抜いた後今回は対処療法のみ、投薬だけにしました。通院は最小限にし、家での看取りを決めました」
どこまでやってあげることが正解なのか? 今も考え続けている
少しずつ弱っていく姿を見ているのは辛く、自分自身が削られていくような感覚があったと言います。

「亡くなる前は通院するたびに病院で抵抗するようになり、ふだんなら穏やかな性格だったこともあって、先生からは“もう放っておいてほしいみたいだね”と言われて。本当なら暖かい場所にいてほしいのに、アトリエの寒いところや暗い場所に行こうとしているのを見て“誰もいないところに行きたいのかな”と思うこともありました。本能的な部分もあると思いますが、どこまで手を貸すかとても悩みました。できることに限界がある、ただ衰えていく姿を見ているのはどうしようもなく、自分が少しずつ削られ一緒に死に向かっていくような感覚がありました。かわいい分、一緒に過ごした時間分だけ死と向き合った時の悲しみや苦しみが深く自分に突き刺さります。病気がわかった8月からはしんどい毎日でした」
「どこまでやってあげることが正解なのか」、じん兄が亡くなった今も考え続けているそうです。言葉や意思を伝えられない動物だからこそ迷い、答えは分からない。だから“生き物にとっての幸せ”を大切にした生き方を全うしてほしい、それが小川さんの思いでした。
「その時」に心残りなく見送れるよう、一緒にいられる時間を大事に

「長生きできるならやれることはなんでもやるという考えはなく、“私が安心するためにやっていること”を強制することに葛藤がありました。様子を見ながら、できるだけストレスがなく過ごせるように気をつけていました。もともと外にいた子だったので外がとにかく好きで、隙があれば脱走していましたからね(笑)。ふだんハーネスをつけて庭の散歩をしていたんですが、外に遊びに行けるのが分かると窓のそばで嬉しそうに待っているんです。洗濯をしていると“まだ?”みたいな感じで催促に来たりして。病気が分かってからは好きなことをとことんさせてあげたくて、散歩の時間をなるべく作るようにしました。すると嬉しいのかいろいろなところに行こうとするんです。ご近所さんのお庭に行くこともありましたが、事情を話すと“好きなだけゆっくりしていって”と言ってくれたのもありがたかったです」
じん兄は11月末に家族に見守られながら旅立ちました。直後に小川さんは「まだいないという実感がない。どこかに気配を感じている」と話していましたが、それから3ヶ月ほど経った今、感情がどう変化しているか話してくれました。

「まだ本当に死と向き合えていない感じがします。考えすぎてスイッチが入ってしまうと、完全にダメになってしまいそうで。いないけれど、それを受け止められていないと思います。特に動画を見ると泣いてしまいそうでダメですね。その存在はあまりに大きいものでした。今、生き物と暮らしている人に伝えたいことは、愛しい子ともいつかお別れがくるのは避けられないのでその時に心残りなく見送れるように一緒にいられる時間を大事にすることくらいです。一緒に暮らせて良かったと思うし、こんなにかわいいんだと知れたことがありがたいです。“猫は幸せのかたまり”、一緒に過ごしたことでその重さが分かりました」
My wellness journey
小川麻美さんに聞きました
心と体のウェルネスのためにしていること

「体を使う仕事で子育てもまだあるので、健康を保つための体つくりに気をつけています。仕事の合間に凝り固まっているところや痛いところのストレッチを自己流でやっています。仕事柄座り仕事の時間が多く最近腰が辛くなっているので、簡単な筋トレもやっています。息子は運動が好きなので、一緒に走ったりウォーキングしたりも。春や秋の気候のいい時期には早朝に起きて行く時もあります」
インタビュー前編はこちらから読めます

Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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