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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

萩原利久さん×古川琴音さん『花緑青が明ける日に』公開記念対談

萩原利久さん×古川琴音さん「たとえ目で見える“形”は失われても、変わらず受け継がれてく“精神性”はあるのかな」【『花緑青が明ける日に』キラキラ青春対談!】

  • 折田千鶴子

2026.03.06

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古川琴音さん 萩原利久さん

ベルリン国際映画祭コンペ部門に選出!

これはもう、何度でも隅から隅まで眺め尽くしたい。観終えてまた、もう一度観たくなる。そんな素敵な長編アニメーション映画『花緑青が明ける日に』の公開がいよいよ始まりました!

日本画家・四宮義俊監督による長編デビュー作にして、2月に開催されたベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出された同作で、次世代の日本映画界を担う人気若手俳優の2人、萩原利久さん、古川琴音さんが声優に初挑戦しました。

萩原利久さん

柔らかな存在感が色んな役にハマりこむ

萩原利久

Riku Hagiwara

1999年2月28日生まれ、埼玉県出身。2008年より活動を始める。主な出演作に、ドラマ「美しい彼」(21~23)、「めぐる未来」(24)、「リラの花咲くけものみち」(25)、「初恋DOGs」(25)、映画『劇場版 美しい彼〜eternal〜』(23)、『ミステリと言う勿れ』(23)、『朽ちないサクラ』(24)、『世界征服やめた』(25)、『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(25)など。

古川琴音さん

圧倒的な個性は唯一無二。ずっと見ていたくさせる

古川琴音

Kotone Furukawa

1996年10月25日生まれ、神奈川県出身。2018年にデビュー。 第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した 映画『偶然と想像』(21)の第一話に主演。近年の主な出演作に映画『みなに幸あれ』(24)、『言えない秘密』(24)、『お母さんが一緒』(24)、『Cloudクラウド』(24)、『ほどなく、お別れです』(26)、ドラマ「海のはじまり」(24)、舞台「ピーターとアリス」(26)など。NHK特集ドラマ「魯山人のかまど」、NHK夜ドラ「ミッドナイトタクシー」が待機中。

森の中の老舗花火工場を舞台に、そこで育った兄弟と幼馴染の3人が、かけがえのない想い出や伝統文化、自然や愛着ある家屋をどのように守ろうとするのか――。

声優に初挑戦した感想として、「難しかった!」と口を揃える2人ですが、いやいや、どうして。社会や時代の流れや大人たちに、必死で立ち向かう主人公らの“青さ”や“若さ”や“健気さ”が、等身大で生き生きと血が通っていて、他人事と思わせない磁力となって観る者を惹き付けます。そこに至るまでの道のり、アフレコ現場での奮闘を、お2人にお聞きしました。



花緑青が明ける日に』ってこんな映画

立ち退きを迫られている老舗花火工場・帯刀煙火店で育った帯刀敬太郎(萩原利久)は、立ち退きを拒絶して工場兼自宅に立てこもり、蒸発した父・榮太郎(岡部たかし)に代わって幻の花火<シュハリ>を完成させようと奮闘している。兄のチッチ(入野自由)は現実を受け入れ、今や市役所勤め。地元を離れて東京の大学へ行った幼馴染のカオル(古川琴音)は、チッチから敬太郎を説得するよう頼まれて、久々に地元に戻って来る。しかし敬太郎から「幻の花火を打ち上げる計画」を聞いたカオルは、説得するどころか、その計画に加担し始める。そんな中、立ち退きの強制執行の日が刻々と迫って来る――。

まずは、声優初挑戦の感想を聞かせてください。

萩原「率直に言って、とっても難しかったです。普段のお芝居とは勝手も違えば、シチュエーションも違う。そもそもマイクしかない空間での芝居が初めてで。何よりも想像以上に難しかったのは、絵にリップを合わせなければならないこと。自分の感覚でセリフを言えない、というのが本当に難しかったです」

古川「私もそうでした。決められた秒数内にセリフを入れること自体が、本当に難しくて。普段のお芝居では、“この距離で話しているから、この声量だ”なんて考えたこともなかったですが、今回は絵を見て初めてキャラクター同士の距離感が分かるので、一度、頭で考えから表現しなければならなくて。萩原さんがおっしゃる通り、自分で自由に“間”を作れないのも辛かったですね。いつもは“間”を開けることも自分の表現の1つですが、それが出来ない。既に作られたテンポの中で、自分の声を乗せていくことが、なかなか大変でした」

古川琴音さん 萩原利久さん

確かに、どこに向かって集中するか、その向かう的が違いますね。

萩原「僕は普段のお芝居では、極限まで雑念のようなもの――(感情の)外側のことはできる限り排除して臨みたいタイプなんです。いかにそれ(芝居以外のもの)をなくして演じられるか、というのが肝というか。でも今回は、むしろ秒数と絵を常に気にするなど、内から出てくるものより注意を向けることが増えた分、色んなことが気になって……。正直、終わっても手応えをあまり感じられませんでした」

古川「私もです。本当は1日で収録を終える予定でしたが、手も足も出なくて。“使える箇所は使いますが、今日は練習だと思って何度もやりましょう”と監督がおっしゃってくれて、別日にチャレンジすることになりました。だから初日は、とにかく色んなシーンを手あたり次第に繰り返しました。その中で、ようやく少しずつ掴んでいった気がします」

萩原「ただ、挑戦してみたかったお仕事ではあったので、難しかったですが良い経験になりました。機会があれば、またやってみたい気持ちが沸きました」

可能な限り“身体”を使いました!

そんな2人の苦労が実り、とても溌溂としていて疾走感や躍動感に満ちた展開であり、かつ互いの掛け合いだったと感じました。しかも、動きのあるシーンが多いですよね。

『花緑青が明ける日に』
(C)2025 A NEW DAWN Film Partners

萩原「そうなんです。だから思い出してみると、本番前に走ったりして物理的に息を切らして臨んでみたりしました(笑)! マイクの前で音が出ないよう、可能な限り動いてみるとか。そうすると勝手に息が切れてくれるので、自分で意識せずにしかるべき状態が作り出せた(笑)」

古川「私も身体を使いました。例えば敬太郎がある場所から落下しそうになるのを、手を伸ばして受け止めるシーンなどでは、自分で自分の手を引っ張ってやってみました。そういう動きがあるだけで、少し上手く声が乗ったな、と。身体を使うことで、考え過ぎずに出来た気もしました」

敬太郎とカオルの声について、どんなことを意識しましたか?

萩原「敬太郎は大それたアクションを起こしますが、それは彼の若さや青さがそうさせた面もあって。でも彼が狭い社会の中でもがく姿って、大なり小なり多くの方が大人になる過程で経験するものだな、と。敬太郎が声変わりをするかしないかくらいのタイミングから物語が始まり、その4年後の出来事までが描かれるので、そういう時期の男子の若さと色んな変化の過程を、どう声で演じ分けていくか、どう表現するかを考えました。手探りでいろんなパターンを試しながら、声を当てていきました」

萩原利久さん

古川「私が一番意識したのは、3人の関係性です。敬太郎は夢に向かって一途に進んでいくし、チッチ(千太郎)は現実を見据えて安定した方向に振り切っている。その間を揺れているのが、カオルで。その揺れが、彼女の年齢にふさわしい葛藤の仕方であり、リアリティのある存在だとも思いました。だから、まずは声を作り込まないでやってみたのですが、いざ自分の声を当てはめてみたら、全然マッチしてないように感じて。私の声は少し独特なので、声音を変えてやった方がいいかと監督にもお聞きしたら、“あなた自身の声でやって欲しい”と。“絵や物語は自分が作ったものだけど、声は自分にとって唯一予測不能な部分。だからこそ、そこにカオルの心拍を乗せて欲しい”と言われました。そこでもう千本ノックのように繰り返し、慣れてきて自由になった時に出るものを大切にしました」

カオルから漂うユーモラスな感じが、親近感を抱かせます。

古川「そのユーモアって、まんま日常会話の延長戦みたいな感じなんですよね。面白おかしく言っているわけではなくて、この3人の関係性だからこそ成り立つユーモアというか。そこが最も難しかったんです。最初は秒数に合わせることに必死だったので、単に古川が焦ってセリフを言っているだけ、みたいになっちゃって(笑)。でも最後に萩原さんと一緒にブースでアフレコする機会もいただいたのですが、同じ空間に人がいるというだけで格段にやりやすさが変わりました」

古川琴音さん

萩原「花火を打ち上げる最後のシーンあたりですよね。僕も、とにかく安心しました」

古川「相手がこう来るから、自分もこう返そうということが明確になるので、やっぱりとてもやりやすくなるんですよね」

萩原「一人でアフレコしていた時に感じたのは、強烈な孤独感(笑)。迷いながら声を当てているだけに、本当に心細くて。一緒にアフレコが出来る安心感ったらなかったです」

「これはもう、大きなスクリーンで観て欲しい!」

観終えてすぐ「また観たい」と思わされました。お2人は完成した映画を観て、苦労が報われたと、それはもう感動されたのでは?

『花緑青が明ける日に』
(C)2025 A NEW DAWN Film PartnersScreenshot

萩原「スクリーンの絵から自分の声が聞こえてくることに、ものすごく違和感があり過ぎて、なんかムズムズしました(笑)。それって、慣れていくものなんでしょうかね? でも正直、“みんな(他の声優さんたち)、スゲ~”となりました。絵が完成していない状態でアフレコしていたので、実際に初めて観る“色や絵”がたくさんあって。特に、大きなスクリーンで観た花火のシーンは本当にスゴかったです」

古川「見終えた瞬間、本当に圧倒されていました。同時に、“ただのアニメ映画ではないな”というのが第一印象で。絵の繊細さ、美しさ、カメラワークとでも言う絵のユニークなクリエイティブな面白さにも惹かれましたが、それ以上にセリフやテーマなど、考えさせられる部分がたくさんあって。構想から完成まで長い時間を掛けて作られて来た監督の、その年月を感じたというか……。監督の哲学みたいなものが見えてきて、この作品に私の声を必要としてくれたことを、本当に光栄だと感じました」

環境問題から伝統文化の継承から、未来まで本当に色んなテーマが盛り込まれています。自分の中で最も響いたのは、どんなことでしたか?

古川「本作における花火もそうですが、時代が変わるにしたがって“モノ”としては無くなっていくこともあるけれど、目に見えないものを受け継いでいくというか、新しい“形”になっても変わらない精神性というのがあるんだな、ということです。本作は、そこで前向きな未来を見せてくれた気がします。無くなってしまうのは悲しいけれど、完全に無くなったわけではなく、新しい“形”でずっと存在し得るという温かさを感じました」

萩原「確かにそれは時代や色んな変化と共に、至るところであるなと思い当たりますよね。それこそ花火に代表される伝統的なものが、時代の変化に合わせてなくなったり、立場が変わって行ったり。たった二十数年レベルの僕の人生においても、小さなことでは何度もあったと思います。だから僕も変化の受け入れ方、変化のあり方について、すごく考えさせられました。無くなること全てが悪というわけではなく、どう残すのか、どう受け継ぐのか、どう変化を受け入れるのか。そこには色んな形があるのだと思いました」

国際映画祭で感じたこと、得たもの

萩原さんは、つい先日ベルリン国際映画祭に参加されて来ましたが、どんな反響や手応えを実感しましたか。

萩原「全く異なる世界だと実感しました。どちらがいい悪いではなく、単純に映画というものの捉え方や、映画自体が持つ意味や意義のようなものは、本当に国や場所によって違うんだなと」

例えば?

萩原「記者会見では、もちろん映画の中身に触れる質問もありましたが、僕に対する最初の質問が、“AIの台頭によって俳優や声優はなくなるかもしれない危機に差し掛かっている。それをどう考えているか”という予想外の問いで。もちろん僕も考えたことがないわけではなかったけれど、まさかあの場でいきなり聞かれるとは想定していなかったので、本当に驚きました。やっぱり国際的な映画祭では、俳優であっても意思の表明や主張を公にする場であり、また求められる場なんだな、と強く感じました」

萩原利久さん

古川「実は私も一昨年、フランクフルトの映画祭で似たような体験をしました。作品そのもの+αで、“あなたはどういう俳優ですか”ということを見られているんだな、と強く感じました。やはりとても刺激になりましたね」

萩原「娯楽やエンターテインメントとしてだけではなく、映画ってもっと社会的な意味を持っていると肌身で感じさせられるのが世界の映画祭なのかな、と。初めてのことで社会科見学みたいな意識でしたが、大きな経験になりました」

いつまでも失いたくない原風景は?

本作で描かれる自然も花火工場、家屋自体にもワクワクさせられ、懐かしく感じる魅力が詰まっています。お2人にとって、“大切にしたい原風景”や“無くなって欲しくない思い出の場所や情景”みたいなものはありますか?

古川琴音さん

古川「少し寂しい話ですが、本当に小さな頃によく遊んでいた地元の公園が、いつからかボール遊びが禁止になった時は、何かが失われたような気がしました。そこに公園はあるけれど、かつてあった魅力がなくなったというか。私たちはボールで遊んだ思い出がたくさんあるのに、それを今の子どもたちは出来ないのか、と。なんだかすごく寂しくて……。あれ、質問と真逆の答えになってしまいました(笑)」

萩原「それを聞いて思い出したのですが、逆に僕の場合は小学校の時によく遊んでいた公園が既に無くなってしまったんですよ。今はただの更地になって、そのことにショックを受けつつも、今も地元に帰って友人らに会うと、100%そこで遊んだ時の話が出てくるんです。公園自体はないのに、思い出話には必ず出てくる。その思い出を僕らみんなが共有しているんですよ。確実に僕らの中に残っているというか」

古川「まるで逆のパターンですね。ないけど残っている萩原さんと、あるのに寂しい私と。すごい面白いですね!」

古川琴音さん 萩原利久さん

思わず、なんだか深い話になったと唸ってしまいました(笑)。

そして2人のフレッシュな魅力――繕わずに率直に素直に苦労話を語ってくれる姿が、なんだかとても眩しくて愛おしくて、肩ひじ張っていない感性がステキに感じました。

さて、私たちは大切なものを、どう未来に向けて残していくのか、どう継承していくのかーー。そんなことを、花火が放つ眩い光を浴びながら考えさせられる本作。是非、ワクワクとメランコリーが融合するような、独特の味わいを大スクリーンで味わってください。

長編アニメーション映画『花緑青が明ける日に』

絶賛上映中

2026年/日本・フランス合作/76分/配給:アスミック・エース

『花緑青が明ける日に』

原作・脚本・監督:四宮義俊
声の出演:萩原利久 古川琴音 入野自由 岡部たかし
(C)2025 A NEW DAWN Film Partners


Staff Credit

撮影/菅原有希子 スタイリング(萩原利久さん)/TOKITA スタイリング(古川琴音さん)/柚木一樹 ヘアメイク(萩原利久さん)/KUBOKI(aosora) ヘアメイク(古川琴音さん)/豊田健治

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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