私のウェルネスを探して/小松由佳さんインタビュー後編
【小松由佳さん】夫がシリアを拠点として生きる選択をしたことに、不思議とさみしさや悲しみはない。子どもを通して、シリアとも夫ともつながり続ける
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LEE編集部
2026.02.01

引き続き、小松由佳さんに話を聞きます。取材は八王子にある『磯沼ミルクファーム』で行われました。20代の頃、登山に熱中していた小松さんは登山用品店で働きながらトレーニングをし、山に向かう日々を過ごしていました。その後「自然の中に身を置きたい」と牧場で働き始め、年に2・3カ月は海外に出ながら牧場で働く生活を4年ほど続けていました。「牛ってすごくかわいいんですよ。人を覚えていて、知っている人がいると嬉しそうに近寄ってきます」と当時を思い出しながら牧場を案内してくれました。
後半では、自然豊かな秋田で過ごした幼少期、登山に没頭した高校・大学時代、シリアと日本をルーツに持つ子どもの子育ての悩みや願うこと、今後挑戦したいことについて話を聞きます。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む)
秋田市の最高峰・太平山を毎日眺め”山頂の向こう側”に憧れるように
生まれてから高校卒業まで秋田県で過ごした小松さん。子ども時代の性格は好奇心旺盛で活発な子。昆虫採集が好きで虫を捕りながら野山を駆け巡っていたそうです。
「祖父の代まで米農家だったので、家族が田んぼで働いている姿を見て育ちました。春や秋は家族総出で山菜やキノコ採りに行き、山の文化に依った暮らしでした。冬は雪が降り、農家の収入がなくなるので、祖父は昔、出稼ぎもしていたようです。日々の暮らしの中で、いつも目に入るのは、標高1170メートルの秋田市の最高峰・太平山(たいへいざん)。それを毎日眺めていたため、“あの山頂に立って向こう側にあるものを見てみたい”と憧れるようになり、高校では登山部に入りました」

その頃の愛読書はスウェーデンの探検家スウェン・ヘディンの本『さまよえる湖』(中公文庫)や冒険家・植村直己さんの本。ヒマラヤを目指すため山岳部のある大学を探し、東海大学へと進学します。
“世界で最も困難な山”K2で登山者の遺体を見て感じたこと
「山登りの魅力は未知の要素が大きいこと。1度として同じ登山がないんです。山やルートが同じでも、天候や行くメンバー、自分のコンディションによって山の様相は変わり、登山も変わります。未知の要素をどんどん求めるようになり、より高い山を求めてヒマラヤに向けたトレーニングを重ねるようになりました。大学卒業後も、その時しかできない登山を続けるため、30歳くらいまでは就職せずにヒマラヤに通いたいと思っていました。登山は年齢を重ねることで経験値が上昇する一方で、体力は低下してきます。このラインが交わるのが30歳くらいかなと思っていました。いつでも挑戦できるとはいえ、その時にしかできないことがあります」

小松さんが登頂した“世界で最も困難な山”K2は“登頂者の4人に1人が命を落とす”と言われる危険な山。多くの登山者が命を落とし、今もその遺体のほとんどが山々に残されているといいます。『人間の土地へ』(集英社インターナショナル)の冒頭にもK2登山の様子が記されています。
「K2で目にした登山者の遺体は干からびていたり蝋人形のようになっていて、あまり生々しくないんですよ。怖いとか気持ち悪いという感覚はなく、むしろ親近感を覚えます。この人も、私と同じようにここに来て亡くなっただけなのだ、と」
シリア取材に同行させた子どもが「イスラム戦士になりたい!」
その後、人間の暮らしに興味を抱くようになった小松さんは、ドキュメンタリー写真家に転向し、シリア人の夫と子ども2人と日本で暮らしています。仕事と子育ての両立に加え、シリアにルーツを持つ子どもならではの育児の悩みも感じています。
「子どもは小学3年生と1年生。シリアでの取材に同行させるうちに、兵士に対する憧れを口にするようになり、“イスラム戦士になりたい!”と話していたことも。内戦状態にあるシリアでは、10歳くらいの子どもが自衛のために銃を持つこともあります。

紛争地に子どもを連れて行くうえで、精神的なフォローが必要であることを感じ、悩むようにもなりました。とはいえ写真家として現地に立たなければ始まりません。悩みながら、より良い道を探していくしかありません」
給食に豚肉が使われている日は、子どもたちはお弁当持参で登校
小松家の食事は、基本は和食ですが、夫のためにアラブ料理もよく作ります。イスラムでは食べることが禁じられている豚肉や豚肉由来の食品は使わないようにしています。子どもの学校は給食ですが、豚肉が使われている日はお弁当持参で登校しています。

「子どもたちには自身の宗教的なあり方を将来的には自身で選びとっていってほしいと思います。日本にある食材でアラブ料理を作り続けるのが難しいので、日本風のアラブ料理を作ることもあります。夫は本場のアラブ料理が食べたくなったら、近所のシリア人夫婦の家に行って食べたりもしています。アラブ料理は野菜もたくさん使いますが、羊肉や鶏肉など、肉を使う料理もとても多くて油もたっぷり。日本の食事を続けていると夫はほっそりしてしまうんですよ(笑)」
子育てで大切にしていることは、“多様な価値観があることを知り、自分で考え自分で決める習慣をつけさせること”です。

「世界にはいろいろな人が生きていて、いろいろな価値観があることを体験してもらいたいです。自分の文化を大切に思えるように、他の文化もリスペクトし、大切にできるよう育ってもらいたい。そして自分の頭で考えること。自分で決め、それに責任を持って欲しいです。今は情報があふれている時代。これからは私たちが知っている価値観とは全く異なるものが生まれてくるかもしれない。AIをはじめとする技術革新もめざましい勢いです。予測不可能な未来を生きるためには自分の目で世界を見て、自分の頭で考えていかないと。だからこそ、生きる力を養って欲しいと思います」
夫はシリアに帰国。子どもを通して、シリアとも夫ともつながり続ける
本記事の取材直後から夫のラドワンさんはシリアに帰国。故郷の復興のため活動を始めています。小松さんは引き続き日本で子育てをしながら執筆や講演活動を行っています。
「家族は必ずしもいつも一緒にいなくてはならないとはお互いに思っていません。結婚後、夫は13年日本で暮らしましたが、日本の社会生活に慣れるのにすごく苦労したようです。2024年12月にアサド政権が崩壊したことで、夫は13年ぶりに故郷に帰れることとなり、これまで難民としてバラバラに暮らしていた夫の家族が、再びかつての暮らしを取り戻そうとしています。




夫がシリアを拠点として生きるという選択をしたことに、不思議とさみしさや悲しみはなくて、心から良かったと思っています。今後の家族のあり方は、これから歩きながらゆっくり決めていけたらと思います。生きるべき土地がそれぞれにあると思っていますし、子どもを通して私はシリアとも夫ともつながり続けていきます」
直感を大事に、未知なるものに常に向かっていたい
大切にしていることは、直感を大事にすること。ひらめいた場所があれば足を運んでその場に立ち、自分の目で見ることを続けます。
「私は直感で生きているタイプ。現場に立つことで求めているものを理解することが多いです。写真家なので、現場に立つことがとても大切です。その場に行かないと見えないもの、感じられないものがあります。“あそこに行きたい”と思えば、日帰りでもその場所に向かいます」

今後やってみたいことを聞くと、こんなふうに答えてくれました。
「今まで知らなかった世界や人、価値観に出会い続けたいです。すでに自分が繋がっている世界を深めてもいきたいですが、やはり未知なるものに常に向かっていたいです。まだまだ行きたい土地もたくさんあります。これまでは、シリアなど宗教や政治が深く絡んだ土地に立ってきましたが、自然だけの空間に身を浸してみたいという気持ちもあります。かつてヒマラヤを登っていた頃のように、自分の身ひとつで自然と向き合えるような、そんな感覚に浸りたいです」
登山を続けるうちに冷え体質に。太陽を浴びている時間が好き
1日の中で好きな時間は、太陽を浴びている時間。「一番生きている感じがしますし、世界中どこに行っても太陽は出ているから見守られているような気がします。K2登頂後にビバークした時も、太陽が私の頬を照らしてくれたので、目を覚ませたんですよ」。実は冷え性という小松さん。登山を続けているうちに冷え体質になってしまったため、ふだんから体を温めることに気をつけています。

「最近は温泉に行くようにしています。温泉に行けない時は、長湯をしたり足湯をしたりして体を温めるようにしています。自宅に足湯ができる機械があるんですよ。常に42℃をキープして、体が冷えてきたなと思うとすぐ足湯をします。5分くらいでポカポカになるので1日に何度も入っています。登山をしていた時に寒いところに行く機会も多かったせいか、胃腸が弱くて冷え性なんです。だから常に体を温かくすることを意識して、毎日があったか大作戦です」
My wellness journey
小松由佳さんに聞きました
心と体のウェルネスのためにしていること
「おいしいものを食べ、休みたい時に休み、行きたい時に行きたい場所に行くこと。食べ物は、自分の心や体が元気になる食べ物をいただきます。登山をしていた頃から食事には気をつけていました。例えば冬は温かいスープとか、その時々の体調にアンテナを張って何を食べようか考え、できるだけ自分の手で作ったものを食べるようにしています。心と体をしっかり意識的に休息させることにも気をつけています」
インタビュー前編はこちらから読めます

Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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