フィッシュ・リウさん『私の愛のかたち』インタビュー
『トワイライト・ウォリアーズ』でも注目のフィッシュ・リウ(廖子妤)さん。『私の愛のかたち』で脳性麻痺の女性の“心と身体”、“恋と性欲”の「当たり前」を演じ切る!
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折田千鶴子
2026.01.31

振り幅莫大、香港の人気女優の底力!
「まさか同じ人? 演技なの?」と2度見ならぬ、何度見してしまうほど役によってガラリと雰囲気も見た目もすべて変身してしまうフィッシュ・リウさん。日本でも久々に大きな香港映画フィーバーを巻き起こした『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』では、九龍城砦の中の食堂のような工場で魚のつみれを作っていた、気丈で凛とした“お姉さん”を演じていた姿が印象的でした。
この『私の愛のかたち』では、生まれつき脳性麻痺を抱えた若い女性ムイを演じ、初めて抱く恋心と芽生える性に対する欲望という、非常にセンシティブなテーマに真正面から挑んでいます。
日本や台湾よりさらに保守的であると語る香港において、意欲的な作品に自ら飛び込んだフィッシュさんに、その心と今、考えていることを聞きました。

ファッション・アイコンとしても大人気!
フィッシュ・リウ(廖子妤)
Fish Liew
1990年3月31日、マレーシア出身。モデルの活動と同時に、編集や助監督など映画関連の仕事に携わる。12年に香港に進出、俳優としても活動。映画デビュー作『末日派對』(13)で香港電影金像奨最優秀新人俳優賞にノミネート。『姉妹関係』(17)で香港電影金像奨の最優秀助演女優賞にノミネート、大阪アジアン映画祭で「来るべき才能賞」を受賞。『アニタ』(21)、『リンボ』(21)で香港電影金像奨の最優秀助演女優賞にノミネートされ、『アニタ』で受賞。他の出演作に『これからの私たち』(24/現在、日本で公開中)、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(24)ほか。
とても重要なテーマですが、同時にセンシティブな問題をはらむ作品です。オファーを受けた決め手は?
「元々、このテーマに強い関心を持っていたんです。例えば日本や台湾では、障がいを抱えた人たちに対して性的なサービスを提供するボランティア団体があるとニュースを読んだことがあり、それについて色んなことを考えるようになりました。
本作で私が演じたムイは脳性麻痺を抱えていますが、当然ながら人間ですから性的な欲望や欲求はあるわけです。そうしたニーズがあるにもかかわらず、香港社会ではほとんど理解されていません。障がいを持つ人々はある種マイノリティのグループとして括られ、なかなか存在が認められず、多くの人は彼らがどういう生き方をしているのか、ほとんど何も知らない。

そんなことを考えている時に、タム・ワイチン監督がそれをテーマにした作品を撮るという話を聞きました。ただ私はアプローチされることなく、『残念だな……私が演じられればいいのに』と思っていました。ところが紆余曲折を経て、ある日、監督から私に連絡が来ました! 私は監督の過去作が好きだったのもあり、二つ返事で引き受けました」
脚本を読んで、何も躊躇せずでしたか?
「監督は、社会の陰で暮らしているような人々の存在、彼らの悩みや愛情や価値観などを、作品を通して常に探求して来ました。本作も同様に、いわゆる“愛”の部分だけでなく、自分がどういう風に他者や社会から認知されているか、どういう風に生きることに価値を見出しているかなどを描いています。そういう作品だからこそ、私はなんの躊躇もなく出演したいと思いました」
『私の愛のかたち』ってこんな映画
生まれつき脳性麻痺を抱えるムイ(フィッシュ・リウ)は、過保護な母親に守られながら、ただ生きるだけの日々を送っていた。そんなある日、ムイは友人の勧めで、障がい者を対象に性的サービスを提供する施設を訪れる。そこでムイは、ボランティアとして働くケン(カルロス・チャン)と出会う。優しくイケメンのケンに淡い恋心を抱いたムイは、ボランティア団体は同じ人の指名は避けたがるが、どうしてもケンを指名しようとする。穏やかで優しいケンはしかし、ムイに決して心を開こうとしない事情を抱えていた――。
ムイという人物をどう表現するか。障がいのレベルをはじめ、どこまでリアルに演じるかなど、その匙加減はとても繊細で難しかったと思います。
「それに対しても、まず監督に感謝したいですね。彼女は全面的に私を信頼し、任せてくれました。実は本作を引き受けた時、別の作品の撮影に入っていたので、正直あまりムイの役作りをする時間的な余裕がなく、短期間で準備しなければなりませんでした。もちろん脚本をしっかり読み込み、監督とも人物像についてかなり話はしましたが」
どんな準備をされましたか?
「実際に脳性麻痺を抱える方々に会いに行ったり、資料を取り寄せて繰り返し見て自分なりに研究しました。手足の動かし方、歩き方などを、短い時間の中で自分なりに必死で取り組みました。初めて役の造形や設計について監督と話し合ったのは、カメラのテストの時で、それまでは連絡を取り合っていなかったんです。カメラテストの当日、監督の前で準備してきたものを全て監督に見せ、そのままオッケーが出ました。



まずはムイの障がいの程度ですが、決して脳性麻痺の状態がムイは軽くありません。性的な欲求を自分で処理できないわけですから、身体を自由に動かせない状態のハズだと考えました。つまり重度な脳性麻痺の影響下にある状態です。
ただ逆にセリフを発する時は、健常者とあまり変わらない程度、つまりさほど脳性麻痺の影響を受けていない状態にしました。身体的な自由については重度の影響を受け、話すという部分ではさほど影響を受けていない。いわゆる障がいの影響が軽い部分と重い部分のバランスをどうするか、監督ともかなり時間を割いて話し合い、その状態に落ち着きました」
天真爛漫なムイの心の内
重度の障がいを抱えたムイを見て、最初こそ「大変だな」と障がいに目がいってしまいますが、どんどん可愛く面白く思えて来て、観客は大好きにならずにいられないと思います。ムイの魅力を、その魅力をどう演技で出していこうなど、役に入る際にどんなことを考えましたか。
「ムイを“可愛く見せたい”とか彼女の“可愛さ”については、あまり意識しませんでした。むしろ細心の注意を払ったのは、あまり映画の主人公に据えられることのない「重度の脳性麻痺を抱えた女の子」を演じるにあたり、障がいについてもリアルな表現をしなければいけない、という点でした。
また監督は、ムイを非常に勇敢で、自分の愛や価値を追い求める女の子として描きたいと思われていました。例えば好きになる男の子がいたら、大胆にアプローチする。その過程の描写を非常に大事にしたかったんです。障がいを抱える方たちの人間性として、そう打ち出したいと考えていました」
ムイの相手役、ボランティアのケンも非常に魅力的なキャラクターでした。

「そうですよね。ムイの役作りにあたっては、ケンという役についてもたくさん考えました。私が見る限りケンという役は、ムイを演じるよりさらに難易度が高いと思いました。というのも彼は見た目は非常に元気ですが、複雑な過去を持っていて、心の内に暗いものを抱えているんです。過去に心が深く傷いて、影があります。肉体は元気だけど、心はボロボロという状態です。
それって、まさにムイと対照的ですよね。ムイは身体が不自由ですが、心は非常に明るく楽観的です。この“楽観的”な面は、彼女の素晴らしい魅力だと思いました。だから身体は不自由だけど、自分の好きなものを追い求めていく。とても楽観的で、明るく楽しい子だと思います」
確かにそうですね。だから、こっちも目を丸くして笑ってしまうシーンもありました。
「ムイを見て“可愛い”と感じてくれたのは、そういう面に魅力が現れているからだと思います。身体の不自由は、彼女のやりたいことを決して止めることはできないのです。これも観察から取り入れた演技ですが、例えば実際に障がいを抱えた彼らが笑う時って、本当にメチャクチャ大笑いするんですよ(笑)。声も大きく、とってもストレートに自分の感情を表現する。とても明るくて楽しい人が多いんです。観察から得たそういう部分を、私はムイを演じる際にできるだけ取り入れる工夫をしていきました」
影響を受けたのは、日本のあの映画!
ちなみに、『37セカンズ』(19)という日本映画をご覧になられてますか?
「もちろんです。実はその映画が、私がこのテーマに関心を持つようになったきっかけです。正直、観たときはビックリしました。こういう映画が作られ得たこと、そして脳性麻痺の方たちに、こういう性的サービスを行うボランティアがあるということに。
普段、私たちは身体に障がいがある方、例えば車椅子に乗っている人を見掛けたら、『助けたい』と道を譲ったり、荷物を運んだり、医療サービスを提供したりしますよね。でも、そういう方たちの性的なニーズに対しては、ほとんど何も知らなかったし、完全に見落としてしまっている。でも人には平等に性的なニーズや欲望があるわけです。その欲求は、ごく自然なものだし、基本的な人権の一つだと思いました」

映画そのものには、どんなところに感銘を受けましたか?
「『37セカンズ』は、実際に脳性麻痺の女性(佳山明さん)が主人公を演じていますが、本当に素晴らしいと思いました。プロの俳優というわけではないのに、主役を引き受けて非常に大胆に演じていて、本当にスゴイと尊敬の念を覚えました。一方で本作では、そうした役を自分がやるわけですから、正直、大きなプレッシャーを覚えました。
彼女の演技も素晴らしかったですし、あるいは韓国映画の『オアシス』(02/ムン・ソリさんが脳性麻痺の女性を演じている)や他の映画でもプロの俳優の方々が素晴らしい演技を披露されています。そういう方々が築いて来たものや、また脳性麻痺の方々のイメージや尊厳を私が壊してしまうことがあってはいけないと、本当に大きなプレッシャーを感じていました」
その苦労や努力が、本作の素晴らしい演技で見事に報われましたね!
「プレミア上映の当日、脳性麻痺の方々や彼らを支えるボランティアの方たちが、みな見に来てくれました。上映後に彼らと話したら、みんなとても喜んでくれていて『とっても良かった』と言ってくれたんです。普段の私は滅多なことで泣きませんが、さすがにその時ばかりは感情をコントロールすることができず、思わず泣いてしまったほどです。当事者の皆さんが喜んでくれて、評価してくれた彼らの言葉を聞いて、本当に感情が昂ってしまいました。とても嬉しかったです」
ムイとケンの心の交流、そして――
ムイが大好きなケンとの2人のシーンで、演じながら心が最も動いた瞬間や、今も心に残っている場面はどこでしょう? いくつか、とっても切ないシーンもありました。
「夜中に撮ったのですが、2人で路上に横たわるシーンがありますよね。あれは香港で最も高い山で、徹夜で撮ったんです。とにかく寒くて辛かったけれど、同時に嬉しくて。
シーンとしては、ムイとケンがキスをしますが、普段なら夜中に男の子とあんな山に行って、路上に横たわってキスするなんてあり得ないでしょ(笑)。映画の撮影でしかあり得ないだけに、寒いけれど何かすごい嬉しくなっちゃったんです。このシーン、とっても映画的だなと感じて」
他にも?
「例えば、2人が市場に買い物に行くシーンです。実はエキストラの役者にお願いしていなかったので、市場で買い物をするために居合わせた一般の方々の中に入って撮影を行いました。どんな風に市場にいる人たちがムイを見るのか、喋り方がおかしいと振り返られるかもしれない、写真を撮られるかもしれない。逆にケンを演じたカルロスが目立って、撮影にならないかもしれないとか、色んな心配をしていました。

ところが実際には、誰も私たちのことを気にしなくて、誰も私たちに気がつかなかった。それが本当に嬉しかったですね。普通の市民と同じように、そこに自然に溶け込んで撮れたことが嬉しくて印象に残っています」
性的描写に対する香港映画界の現状とこれから
日本を含めて世界的な流れとして、映画の現場では今、性的な表現に対する考え方や取り組みが変化していると思います。本作にも割に濃厚な性的なシーンがありますが、やはり“インティマシー・コーディネーター”はついたのでしょうか。
「いえ、今の香港にはまだ“インティマシー・コーディネーター”の制度がなく、本作の現場にはいませんでした。私は台湾映画にも長く出演して来ましたが、台湾ではすでに制度が導入されています。センシティブなシーンを演じる当事者として私も、そのようなコーディネーターが居てくれる現場の方が、撮影自体も上手くいくことが多いし、よりよい映画が撮られ得ると感じています。
例えばアクション映画には、必ずアクション監督が現場に居ます。彼らは役者の動きを作り決めるだけでなく、カメラをどう動かしてそれを撮るかも決めていきます。アクション同様にセックスシーンも色々な動きがあるわけです。となると、やはり専門の監督的な人がいた方が、より良い映像が撮れると思います」
今回、そうした性的なシーンの撮影でも、何か心配事はありましたか?
「本作もそうでしたが、香港ではまだ監督と役者が直接コミュニケーションを取り、どういう風に撮るかを決めていきます。だから今回の撮影時、『こういう風に撮ると、ちょっとやり過ぎじゃないか』『ちょっと大胆過ぎではないか』など、色々と心配しながら撮ったんです。
そうして映画が完成し、(日本でいう映倫)審査の段階で、セックスシーンが多いからと三級というレイティング(子どもは見ることができない)をされてしまったんです。もう少し上手く撮れれば、もっと多くの人に観に来てもらえるようなレイティングになったのにと、少々後悔をしました。そういうことからも、性的な描写や表現の仕方、レイティングについても専門的な知識を持つ人の必要性を感じました」
今回のような件を踏まえて、フィッシュさん自身もこれからの活動について考えるところはありましたか。
「性的なシーンを現場で撮影する時って、それはもちろん私たち俳優も恥ずかしさはあるものです。だからこそ思うのですが、今後そういう親密なシーンを撮るときに、演じる私自身がコーディネーターの役割を務められたり、あるいはアクション監督と同様の“センシティブ・シーン監督”という役割が出来れば、もっといい映画が作れるのではないかと思っています。カメラの知識もあり、役者もし、監督の欲しいものを知っている立場の人、私自身がそういう立場に立ってその役割を出来るようになれば、センシティブなシーンをより美しく、よりスムーズに撮れるだろうと考えています」

美しいだけでなく、本当にクレバーで率直でユーモアもあるフィッシュ・リウさんに、居合わせた一同みな感動しきりでした。『37セカンズ』も本当に素晴らしい映画でしたが、それとも似て非なる展開に入っていく本作も、また非常に見応えのあるヒューマンドラマです。現在、日本で公開中の『これからの私たち』も含めて、これからのフィッシュさんの活躍を是非、楽しみにしていてください!
『私の愛のかたち』

2025年/香港/105分
監督/脚本/編集オペレーター:タム・ワイチン
プロデューサー:スタンリー・クワン
出演:フィッシュ・リウ、カルロス・チャン、アリス・ラウ、ケイト・ヨン、ポリー・ラウほか
Staff Credit
撮影/菅原有希子
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
















