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【2025年公開映画 】『国宝』ランクインなるか?本当に面白かったのはコレだ!“偏愛気味” ベスト10【日本・アジア映画編】
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折田千鶴子
2025.12.24

先日の<洋画篇>でも書きましたが、今年は6月に公開された『国宝』、そして7月に公開された『劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』が、もはや社会現象と言えるくらいの大旋風を巻き起こしたことは誰の記憶にも新しい&鮮やかでしょう。公開後半年経った今なおロングラン・ヒット上映中のみならず、いまも動員ランキングに食い込んでくるとは、もはや日本映画史に刻まれる歴史的な出来事となったのは間違いありません。
『鬼滅』は、米アカデミー賞の前哨戦の一つとされる米ゴールデン・グローブ賞アニメ映画賞にノミネートされ、この先もまだまだ話題を振りまきそうな勢いです。
他にも、長編デビュー作『PLAN75』に続いてカンヌ国際映画祭に出品された早川千絵監督の『ルノワール』や、同映画祭・監督週間に26歳という最年少で選出された団塚唯我監督の『見はらし世代』など、未来の日本映画界が輝く予感で心躍らされる出来事もありました。
さて、今回は<洋画>に括るには違和感を覚える日本以外のアジア圏の映画も含めて、<アジア映画篇>という括りで、本当に面白くて唸らされた見逃し厳禁のベスト10を少々偏愛気味、かつ忖度なしの本音ベースで選びました。
2025 Best Movie #
1
大好き!と叫ばずにいられない愛すべき青春コメディ
『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』
(韓国/118分/配給:日活、KDDI)

出演:キム・ゴウン、ノ・サンヒョン、チョン・フィほか
©2024 PLUS M ENTERTAINMENT AND SHOWBOX CORP. ALL RIGHTS RESERVED.
詳細はLEE本誌記事で。昨年も『パスト ライブス/再会』という韓国発の作品に熱狂しましたが、今年もやってくれたなぁ、という嬉しい驚きで胸を満たしてくれた本作。『パスト ライブス/再会』を思い出したのは、どちらも他人事とは思えないような等身大のヒロインが、迷い、惑いながら必死で自分の足で立ち、よりよい人生を選択しようとする、その姿に共感せずにいられないからでしょう。
何と言っても、主人公ジェヒの魅力がたまりません。自由奔放で周りに迎合せずに「自分」を貫く姿はカッコいいのですが、周りからは浮きまくり。そんな彼女が、大学の同級生で同じように少々浮き気味の青年フンスと知り合い、意気投合。彼はゲイであることを周りに隠しているのですが、2人でいると「最強!」になったような気分で互いを肯定し合い、暇さえあれば一緒に飲んではくだを巻く様子が、最高に楽しそうで懐かしくもあり、もうウキウキしてしまいます。
ダメなときはツッコんでくれるけれど、そんなところも含めて自分を全肯定してくれる友達って、なんて素敵で心強いのだろうと思わずにいられません。そんな2人の友情が軸となり、それでも容易くはない人生に四苦八苦しながら、恋愛と失恋、就職(フンスは兵役)などを経て社会の理不尽にぶち当たりながら成長し、人生の選択をしていく姿が描かれます。友情ものなのに、ラストシーンはもう……爆笑しながら涙、涙の大感動。音楽にも心踊らされ、最高にハッピーな後味をお約束です!
完全に“偏愛”気味なセレクトだと自分でも苦笑しますが、映画の出来とか芸術性とか、難しいことをすべて吹き飛ばして、「やっぱり、これ大好きだわ~!」と言わせてしまう軽やかな本作は、ちょっと元気がない時の活力剤としても是非、ご活用ください。
2025 Best Movie #
2
殺風景な風景に宿る孤独と詩情。男と犬の絆にジワる
『ブラックドッグ』
(中国/110分/配給:クロックワークス)

出演:エディ・ポン、トン・リーヤー、ジャ・ジャンクーほか
©2024 The Seventh Art Pictures (Shanghai)Co., Ltd. All Rights reserved
ポスタービジュアルの、サイドカーに乗って見つめ合う「男と一匹の犬」の姿が、どこかユーモラスで忘れ難い、寂れた詩情に魅せずにいられない一作です。詳細はLEE本誌記事。
舞台は、北京オリンピックがもうすぐ開催される中国大陸、ゴビ砂漠の端にある町。かつては栄えていたようですが今はすっかり寂れ、これから益々寂れていく(きっと解体されていく)運命らしく、半ば廃墟のような風情なのが興味深いやら、切ない郷愁を誘うやら。
そんな町に刑務所から帰って来た青年が、いきなり襲撃に遭います。それに対して彼が黙し甘んじて受け入れるのは、なぜなのか⁉ 寂れた町には野犬が群れをなし、彼は知り合いの紹介で野犬捕獲の仕事に就くのですが……。
ターゲットである「賢くて絶対に捕まらない黒い犬」との間に、奇妙な感情――愛情や哀情めいたものが生まれ、いつしか青年は黒い犬を匿うことに。寄る辺ない孤独な2つの魂が共鳴し、いつしか寄り添う姿に、ほんのり心が温まると同時に、切なくて半泣き気分で目が離せません。
1人と1匹の運命が映し出されるその裏で、轟々と音を立てるように時代が流れていく変化が感じられる世界観と映像に圧倒されます。
その中で、口数が極端に少ない青年の“美学”のようなものが凛として立ち上がり、胸を打たれずにいられません。青年役に人気俳優エディ・ポン。カンヌ国際映画祭で「ある視点部門」グランプリ、及び黒い犬が“パルムドック賞”を受賞しました。
2025 Best Movie #
3
手に汗握り、脳みそ爆発寸前のクライム・サスペンス
『爆弾』
(日本/137分/配給:ワーナー・ブラザーズ映画)

出演:山田裕貴、佐藤二朗、伊藤沙莉、染谷将太、渡部篤郎、坂東龍汰、寛一郎ほか
©呉勝浩/講談社 ©2025映画『爆弾』製作委員会
こちらも詳細は本誌記事で、と思ったら試写が間に合わずに紹介出来なかったようです。ということで、本作に出演した坂東龍汰さんのLEEwebでのインタビューを。
観始めたら息をするのも忘れ、一気見必至のクライム・サスペンスです。本作のようなオールスターキャスト映画というと、往々にして途中で綻びが出ることが多かったりする(全員の顔を立てようとするからなのか)のですが、こと本作においては、彼らの演技それぞれを心ゆくまで堪能できながら、途中で全く綻ばないのです(笑)!
しかも、全員が本気で勝負を賭けた熱演であることが、ビンビンに伝わってくる。“鈴木タゴサク”というふざけた自称の爆弾魔の佐藤二朗さんが、取調室で次々に現れる刑事と対峙・対決する攻防戦が描かれます。私たちも一緒に「どこまでが真実で、何を意味しているのか!?」とタゴサクが仕掛ける禅問答のような言葉の数々に忙しく頭を働かせながら(それがスリリングで刺激的!)、うぉ~っと叫び声を上げたくなってしまいます。そうして最後に現れる刑事が、もしゃもしゃ頭の山田裕貴さん。「天才vs天才」とも「怪物vs怪物」とも言える頭脳&舌戦に、観ながら汗が噴き出します。
取調室の中で繰り広げられる圧迫感がハンパない攻防と、それに基づいて走り回る警官たちの奮闘という、屋内外における静と動のリズムの緩急を生む構成、今の日本の色んな社会問題を浮かび上がらせる展開にも唸ります。
もし『国宝』がなかったら、主演も助演もみな本作のキャストが獲っていただろう、などと勝手に想像を巡らせたくなってしまいます。自分ならどっちに票を入れるだろう、なんて想像するのも楽しい熱演を、是非、お見逃しなく!
2025 Beest Moviw #
4
待ってました!これぞ香港アクション。お楽しみ全部盛り!
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城塞』
(香港/125分/配給:クロックワークス)

出演:ルイス・クー、サモ・ハン、アーロン・クォック、リッチー・レンほか
©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.
24年春のカンヌ国際映画祭でのミッドナイトスクリーン、さらに24年秋の東京国際映画祭で上映され、その界隈では既に大きな話題になっていたので、「去年の映画じゃない?」と思われるかもしれませんが、1月公開で堂々の4位にセレクトいたしました。
これ、本当に香港映画ファンにとっては狂喜乱舞、久しぶりに飛び出たアドレナリン全開級の快作です。しかもアクション監督を谷垣健治さんが務めているので、色んな意味で是非ご覧いただきたい一作です。
なんと言っても見どころは、約10億円をかけて作られたという九龍城砦のセット。昔の香港映画によく登場した、あのカオスな魔窟が蘇り、その世界観のゾクゾクするような面白さたるや! それを観るだけでもお釣りが来そうなほどですが、そのカオスな作りを見事に生かした数々のアクションや物語展開が、怒涛の如く繰り広げられます。
80年代、香港へ密入国した若者が、黒社会の掟に背いて組織から追われる身となり、九龍城砦に逃げ込みます。そこで仲間を得て暮らし始めるのですが、実は本人も知らぬ因縁と運命を背負っていて……。
もはやお祭り映画のような味わいです。とにかく難しいことは考えず、圧巻のアクションの連続に感嘆の歓声を上げながら、随所に仕込まれたユーモアと、情やら正義感やら仇やら掟やらが絡み合って生まれる、濃ゆ~い人間関係を孕むドラマに身も心も浸ってください。
もちろんスター俳優、ルイス・クー(銀髪が渋くてステキ過ぎる!)や、もはや伝説のサモ・ハンらから、若手のレイモンド・ラムやテレンス・ラウまで魅惑のキャストが続々登場、好きなだけ目移りし放題ですよ!
2025 Best Movie#
5
汚れちまった世界に差す一筋の光、愛と義と情に涙!
『愚か者の身分』
(日本/130分/配給:THE SEVEN、ショウゲート)

出演:北村匠海、綾野剛、林裕太、山下美月ほか
©2025映画「愚か者の身分」製作委員会
なぜかハードな作品が続きますが、こちらも手に汗握り、胸に迫るものがありました。ある犯罪組織の手先として、SNSを用いて闇ビジネス(戸籍売買)に手を染めた若者たちの行く末、その世界から抜け出そうともがき、逃亡する顛末を描いたサスペンス映画です。
兄貴分のタクヤ(北村匠海)、弟分のマモル(林裕太)、タクヤの兄貴分の梶谷(綾野剛)の関係性が肝。こういう裏の世界で上に行くには、どこまでも非情になり切り、欲望に忠実に動くしかないんだな、ということが恐々とガツンと知らしめられます。それでも3人は、“優しくされた記憶”を手放すことなく、葛藤の末に危険を覚悟で相手を思い行動する、その人間らしさや覚悟に熱くなりグッと来てしまいました。
とはいえ追っ手、つまり命の危険はひたひたと迫ってくるわけで……。前半はタクヤとマモル(北村×林)、後半はタクヤと梶谷(北村×綾野)が主軸になりますが、3人が醸す味や臨場感や表情のみならず肉体に宿る感情表現が本当に素晴らしくて、見事、釜山国際映画祭で3人揃って最優秀俳優賞を受賞しました。
SNS、貧困と格差、ネグレクトと犯罪の低年齢化、闇バイトなどなど、今の日本の社会問題がリアルに映り込んでいて鼓動が早まります。かなりハードな内容ですが、監督を務めたのは、何と『Little DJ 小さな恋の物語』(07)の永田琴さん。ご参考までに、MEN’S NON-NO WEBでインタビューした林裕太さんの記事もご一読を。
2025 Best Movie #
6
しっとりとサスペンスフルな世界観に魅せられる!
『遠い山なみの光』
(日本/123分/配給:ギャガ)

出演:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、松下洸平、三浦友和ほか
©2025 A Pale View of Hills Film Partners
ようやく“しっとりした”作品が(ベストテンに)出てきました。本作は、その“しっとりミステリアス”な空気がとても味わい深い作品です。ノーベル賞作家カズオ・イシグロさんによる同名小説を、『蜜蜂と遠雷』『ある男』などの石川慶監督が映画化しました。
1950年代の長崎と、1980年代のイギリスを舞台に、悦子という女性が自分の人生を振り返る形式で2つの時代の出来事が綴られます。若かりし日の悦子を広瀬すずさん、30年後の悦子を吉田羊さんが演じています。
80年代に生きる悦子が当時を振り返って語り始める内容は、けれど段々と辻褄が合わなくなってくるのです。記憶の中で辻褄が合わなくなってくる「悦子さんが当時、経験したこと」を目撃する私たちは、だから段々と混乱し、「どういうこと?」という思いを募らせつつ観ることになります。しかもその混乱や戸惑いは、段々と濃くなっていくのです。
カギを握るのは、悦子が当時、親しくしていた佐知子という謎めいた女性。演じる二階堂ふみさんのミステリアスさも効いています。やがて「もしかして……」という推測が頭に浮かんだ瞬間、ちょっとゾクッとする仕掛けもお見事! どんどん色んな考えや想いが膨らみます。
戦後間もない50年代の長崎が抱える事情、その時代における女性の立場や生き方と選択、それを30年後に本人はどう振り返るのか――。夫婦関係や家族観など、色んなことを考えさせられ、後ろ髪を引かれる一作です。
LEEwebでの広瀬すずさん、松下洸平さんの対談記事も併せてご覧ください。
2025 Best Movie #
7
ラスト、確かな愛の実感に震える。ズルいほど号泣必至
『おばあちゃんと僕の約束』
(タイ/126分/配給:アンプラグド)
出演:ビルキンことプッティポン・アッサラッタナクン、ウサー・セームカム、サリンラット・トーマスほか
どこかノスタルジーを覚えずにいられないタイ発の本作は、アジア全域で大ヒットを飛ばしました。一見、“祖母と孫の心温まる、ほんわかムービー”と思わせますが、どっこい、結構クズ(とまでは言えませんが)な孫の青年と、元気で口やかましいお祖母ちゃんが繰り広げる物語に、驚きとクスクス笑いが起きてしまいます。
主人公の青年エムは、同年代の従妹が親族を介護して莫大な遺産を相続した話を聞きつけ、怪我をしたお祖母ちゃんの家に押し掛けます。お祖母ちゃんもそんな見え見えな下心はお見通しですが、押し掛け介護の孫を受け入れて2人の共同生活が始まります。
遺産狙いだったハズの祖母の介護が、いつしか気持ちが入り始め、共同生活に温かな空気が流れ込みます。そんなエムの気持ちの変化や、それによる2人の関係性の変化が心をくすぐります。お祖母ちゃんには長男、長女、次男と3人の子どもがいて、エムは長女の息子。長男は多忙であまり寄り付かず、次男は仕事が続かないダメ息子。
エムの母と祖母は強い絆で結ばれていますが、タイも少し前の日本と同様の状況で、親の面倒は娘や女性が一手に引き受けながらも、遺産はすべて長男へ行くのがお決まり。エムはそれも気に食いません。そんなエムがお祖母ちゃんの愛の深さに気付いた時、彼はどうするのでしょうか。最後は涙が溢れて止まりませんが、とはいえエムが急に“いい人”になったりせず、ちょっとダメな部分も残しつつ、でも本来の優しさを感じさせる、その匙加減が絶妙です。お涙頂戴のベタな描き方をせず、サラッと清涼感たっぷりのラストだからこそ、余計に涙を誘います。
2025 Best Movie #
8
雪国で心がほどける、ほのぼのユーモアに舌鼓
『旅と日々』
(日本/89分/配給:ビターズ・エンド)

出演:シム・ウンギョン、堤真一、河合優実、髙田万作、佐野史郎ほか
© 2025『旅と日々』製作委員会
『きみの鳥はうたえる』『ケイコ目を澄ませて』『夜明けのすべて』と並べると、なぜか冬のピンと澄んだ空気が流れ込むように感じるのは、私だけでしょうか。そんな三宅唱監督による本作は、第78回ロカルノ国際映画祭で金豹賞(最高賞)を受賞しました。
主演シム・ウンギョンさんのインタビューもご覧ください。
つげ義春の漫画『海辺の叙景』と『ほんやら洞のべんさん』を元に、夏の海辺篇と冬の雪国篇の前後編という構成になっています。主人公は、シム・ウンギョンさんが演じる脚本家で、夏の海辺の物語は、彼女の脚本による“映画”。その上映会での評を聞き、「ちょっと違うぞ」と感じた彼女が、何を書くべきかを求めて雪国を訪ねる様子が、後篇です。まさにトンネルを抜けるとそこは雪国だった――の世界(庄内地方)に魅せられます。
河合優実さん演じる女性が海辺を訪れる前篇の、嵐が迫る明るくはない夏の空気感もさることながら、やっぱりシムさんが雪国を旅する後篇の“ユーモアと詩情”がたまらなく心をくすぐります。おんぼろ宿の主人・べん造さんを堤真一さんが絶妙に演じていますが、てんでヤル気がなくいい加減な彼との会話が、妙におかしくて噴き出してしまいます。
これといって別に大きなことは起きませんが、大きな自然にすっぽり包まれている感覚(その映像がまた魅力!)、旅先の何気ない会話や瞬間が、なんとなく気持ちを変えてくれるのが実感できて、フッと力が抜けたような、でも前向きな力が蓄えられたような感覚に。それが観終えた後も体内に残る、 “何かいい”感じに浸って下さい。
2025 Best Movie #
9
子どもの無邪気な“本気”の姿に噴き出しっぱなし
『ふつうの子ども』
(日本/96分/配給:murmur)

出演:嶋田鉄太、蒼井優、風間俊介、瀧内公美ほか
©2025「ふつうの子ども」製作委員会
「分かる~」と苦笑いでちょっと居心地が悪くなるような、絶妙な面白さの本作。主人公は、本当にどこにでもいるような小学4年生の男の子、唯士くん。学校へ行く前にダンゴムシ捕獲に夢中になる、そんな彼が初めて恋をした! 相手は意識高い系の女の子。彼は環境問題に興味があるフリで彼女に近づくのですが……。
大人から見ればバレバレな言動が、イタおかしいやら可愛いやら。2人の間に入って来るのが、ちょっとワルでカッコいい男子という三角関係が最高です。しかも、3人で始めた環境活動がどんどんエスカレートして(そこも子どもらしい!!)、とんでもない事態を引き起こして……。
大人が思う“子ども”ではなく、目の前にポーンと“そのままの子ども”の世界が広がり、私たちは懐かしいような恥ずかしいような、浮足立つような感覚も味わえます。単純な男子の生態も、意識高い系女子の自意識も、確固たる“恋”なんて概念に至っていないけれど、言動のそこかしこに「好き」や「自意識」がハミ出してくるのが、何かたまらない。大人にバレたり叱られた時、どんな態度をとるかも、納得と小さな驚きが満ちています。さすがの観察眼と表現力(脚本の高田亮さんとのコラボのなせる技!)。
さらに面白いのが、学校に呼び出された両親、知恵の付いた大人たちの生態で、こちらも「いるいる」「あるある」満載です。「この親にして、この子あり」という発見も、クスクス笑わずにいられません。『それでも俺は、妻としたい』でも独特の味を存分に発揮していた、唯士君を演じる嶋田鉄太くんのスットボケ感も最高です。
呉監督にはヒリヒリ系の社会派映画というイメージを持っていましたが、本作は新境地とも言える、これまでで最もポジティブな生命力に満ちた作品です。LEEwebでの呉監督と蒼井優さんの対談も是非、ご一読を。
2025 Best Movie #
10
「あるある」満載の夫婦のリアルがイタおかしい
『佐藤さんと佐藤さん』
(日本/114分/配給:ポニーキャニオン)

出演:岸井ゆきの、宮沢氷魚、藤原さくら、ベンガル、佐々木希ほか
©2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
大学時代に出会って意気投合し、一緒に暮らすようになって子どもが出来て結婚した2人の、リアルな夫婦関係の変遷がユーモラスに綴られた一作です。ただ好きで楽しかった時代から、いざ子どもが生まれてみると、家事やら子育てやら仕事やら、やらなければならないことがてんこ盛り。果たして2人はどうなってしまうのでしょうか。
ここで面白いのが、妻のサチは外で働き(しかも途中で夫より先に司法試験に受かってしまう)、夫のタモツは家で弁護士を目指して勉強を続けながら、状況的に子育ての多くを担うことになる、という逆転パターンであること。もちろん今は男性が子育てに参加するのは珍しくはありませんが、互いの実家や家族がどう思うのか、世間がどう思うのかは、地域によっても年齢や世代によっても大きな差があるのがまた問題を複雑にします。
また、多くの人がきっと家庭内で経験しているであろう、“夫婦の小競り合い”の小ネタの面白さ、その組み込み方が秀逸で、自分自身も刺されながら思わず噴き出さずにはいられないのです。今の日本が抱える問題や家族に対する価値観、その変化と“分かり合えなさ、譲れなさ”、家父長制、夫婦別姓、田舎と都会、男女間というより立場の違いによる見え方の違いなど、色んな現実が映り込みます。監督は、『ミセス・ノイズィ』で予想外の感動へと物語を着地させて驚嘆させた天野千尋さん。宮沢氷魚さんのインタビューも是非、ご一読を。
選び終えても、諦めきれない映画がてんこ盛り!
さて、多くの方は、いつになったら『国宝』が出てくるんだ、とヤキモキされたかもしれません。それが一番の悩みどころでもありました。置きどころに困るというか……。芸道映画としての素晴らしさは間違いなく、俳優たちが身を削った努力の賜物である演技にも賞賛しかありません。とはいえ正直なところ、ここまで多方面から高く評価されているからこそ言えることでもありますが、実は鑑賞中に「ん?」と引っ掛かった箇所が2つ3つあったのも事実でして……。
さらに鑑賞した瞬間というよりは、「何度も繰り返し鑑賞した」というリピーターさんたちの呟きを目にするにつけ、「いや、それなら別の作品も観て欲しいのに」という思いがどんどん大きくなり、相対的に自分の中での評価や位置が下がっていった気もします。というわけで、無理にどこかに押し込むことを止めました。
さて、10作品以外にも、本当に枚挙にいとまないほど素敵な作品がたくさんありました。菅田将暉さん主演の『サンセット・サンライズ』も大好きでしたし、堺雅人さん×井川遥さんの大人の恋愛映画『平場の月』も本当に心臓ド真ん中を貫かれました。鈴木亮平さん×有村架純さんが兄妹に扮した『花まんま』にも大いに泣かされました。今年も北村匠海さんが大活躍でしたが、『悪い夏』も面白かったし、長塚京三さん主演で東京国際映画祭で東京グランプリなど3部門を受賞した『敵』、マレーシア・台湾合作の『Brother ブラザー 富都の2人』、韓国映画『最後のピクニック』も捨てがたい必見作でした。すべておススメです。 是非、冬休みの年始年末、気持ちを切り替えたい時などにご参考にしてください!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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