【今月のおすすめ映画】『小川のほとりで』 恋愛絡みの“いざこざ”が最高。大人と学生のキャンパス群像劇…他3本

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折田千鶴子さん

映画ライター

高2息子の部活（端艇部）応援のため各地の湖や川岸に出没中。風雨と乾燥でお肌荒れ荒れです……。

『小川のほとりで』

恋愛絡みの“いざこざ”が最高。大人と学生のキャンパス群像劇

この人ほど多作、かつハズレの少ない監督はほかに思いつかない。なんと現在、’23年以降に製作された新作5本（！）が「月刊ホン・サンス」として、’26年3月まで5カ月連続で公開されている。監督デビューから早30年。初期作から一貫して、主人公らは皆ダラダラ酒を飲んでしゃべっているばかりなのに、これが不思議と観飽きないのはナゼなのか？　今なお新鮮に魅了されてしまう。

すでに公開中の『旅人の必需品』は、フランスの名女優イザベル・ユペールと3度目のコラボレーション。フランスからソウルにやってきたイリスが、フランス語の個人レッスンで各人の家やカフェを渡り歩いて教える姿を追う。意思疎通の不自由さの合間でつぶやかれる〝相手にはちょっと失礼かもしれないひと言〟にクスクス笑いが満載！　マッコリばかり飲んでいる謎めいたイリスを軸にした、やっぱり愛すべき群像劇だ。

第2弾の『小川のほとりで』（12月13日より公開）は、監督のミューズ、キム・ミニ主演。舞台は、演劇祭が間近に迫るソウルの女子大学。恋愛絡みのいざこざで男子学生演出家と数人の女子学生が辞め、頓挫しかけた寸劇のため、講師ジョニム（キム・ミニ）は叔父で有名な俳優かつ演出家のシオン（クォン・ヘヒョ）を臨時の演出家として招聘する。シオンは早速、残った女子学生4人と寸劇づくりを開始。一方、姪がお世話になっていると、教授であるチョン・ウンニョルに挨拶に行くと、彼女はシオンの大ファンだと大喜び。寸劇づくりと並行し、シオンとウンニョルも何やらいい雰囲気に。そんなある日、一度辞めたお騒がせ学生演出家が「やっぱり最後までやり遂げたい」と、ジョニムに直談判にやってくる。

いやはやキム・ミニの放つ味が、たまらない。叔父とウンニョルの様子を見やる一瞬の眼差し、「今、それ言う!?」というひと言をシレっと放つ表情、なにかを含んだ態度、すべてがわき腹をくすぐってくる。なるほど、本作でロカルノ国際映画祭・最優秀演技賞を受賞！　また打ち上げでシオンとお酒を酌み交わす女子学生4人が、自身について語りながら感極まっていくシーンも、可笑（おか）しさと愛しさに満ちている。何気ない会話の中に人生が覗き、そこから哲学が立ち上がる。初期の泥臭さも捨てがたいが、人間をおもしろがる視線と笑いと皮肉はそのままに、どんどん洗練され進化しているからこそ、今も観飽きないのだろう。もちろん「いるいる、あるある」満載で、そこに自分を見てしまうムズ痒（がゆ）さや、〝人間なんて所詮こんなもの。だから愛しい〟と、心を軽くしてくれるのも変わらない。学生演出家を巡る恋愛話にも苦笑い。大層な映画じゃないからこそ、クスッと心に響く。最高だ！

第3弾『水の中で』（1月10日公開）は、さらに新たな実験を試みて世界観を更新した、済州（チェジュ）島が舞台の不思議な青春映画。すでに仏カイエ・デュ・シネマ誌にて’24年の映画ベストテンで3位に選出。観れば人生がちょっと豊かで楽しくなる、ホン・サンス作品をこの機会にご賞味あれ！

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『星と月は天の穴』

“愛されたがり”なこじらせ男を綾野剛が絶妙なさじ加減で好演！

名脚本家として知られる荒井晴彦が、『火口のふたり』『花腐し』に続いて監督も務めた官能的な一作。妻に逃げられて10年、愛することを恐れながら、愛されたい願望を抱える小説家・矢添（綾野）は、なじみの娼婦（田中麗奈）と逢瀬を重ねつつ、若い女性への興味も隠せない。小説の主人公に自分を投影し、中年男と女子大生の恋模様を綴る矢添は、現実でも女子大生と運命的に出会う。そしてあるきっかけで彼女と情事に至った、矢添の生活や心情に変化が訪れ……。40代男の身体的コンプレックスがリアルで可笑しく、こじらせ具合が可愛らしくもあり。原作は吉行淳之介の同名小説。

12月19日より全国順次公開

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『ペンギン・レッスン』

ベストセラーノンフィクションの映画化。心奪われる、癒され映画

1976年、軍事政権下のアルゼンチン。英国人の英語教師トムが名門寄宿学校に赴任する。裕福な家庭の子息たちは授業に無関心で、親の力が生徒の関係にも影響を及ぼし教室にも嫌な空気が漂う。ある日、旅先で重油まみれのペンギンを半ば強いられて救い出したトムは、妙になつかれて学校へ連れ帰ることに。極秘で匿いながら、ペンギンとの奇妙な共同生活が始まる――。珍客が現れたことで教室の空気は一変。興味津々で教師の言葉に耳を貸し、やがてペンギンのみならず相手の立場や気持ちをおもんぱかるように。圧迫されるような政治的背景の中、生徒たちの変化や、人々の優しさと勇気が心にしみる。

公開中

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『イクサガミ』

オールスターキャストの歴史アクション

岡田准一が主演・製作・アクションプランナーを務め、直木賞作家・今村翔吾の同名小説を実写シリーズ化。廃刀令が布告された明治、元武士は過酷な生活を強いられていた。そんな折、莫大な賞金をかけて生き残りを競う〝遊び〞が催されることに。伝説の剣士・嵯峨愁二郎（岡田）もまた、病に伏した家族を救うため一度は捨てた剣を再び握る。全国から腕に覚えのある猛者が集まり、バトルロワイアルが始まる。目にも止まらぬソード（刀）アクションに度肝を抜かれる！　清原果耶、東出昌大、伊藤英明、二宮和也ほか。

Netflixにて世界独占配信中

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