ワンオペ育児と仕事で多忙の中、ステージ3Cの乳がんが発覚【勅使川原真衣さん】「がん」になって知った、働くこと、生きることの“本質”
2025.12.08
LEE世代の私たちが今、考えたい
仕事や子育てをしながら、「がん」とどう向き合う?

仕事に子育てに忙しいLEE世代が、もしも「がん」になったら……? 実際にがんを経験した人へのインタビューから、専門ドクターが答えるがんの不安と悩みQ&Aまで、今から知っておきたい情報がここに。
Story
2
病気がきっかけで、価値観が大きく変わった
勅使川原真衣さんが「がん」になって知った、働くこと、生きることの“本質”
コンサルタント会社の代表とワンオペ育児を並行し多忙を極める中で、ステージ3Cの乳がんが発覚。「今が人生で最も幸せ!」と断言する勅使川原さんが、闘病を通じて得た、大事な気づきを語ってくれました。

人に頼ってもいいんだ。家族や友達に支えてもらい初めて弱みを見せられた

乳がんを告知されて、「やっと休める!」とホッとしたのが本心
組織開発コンサルタント会社の代表を務める傍ら、能力主義の問題点をテーマにした書籍の執筆や講習を行う勅使川原さん。初著『「能力」の生きづらさをほぐす』を書くきっかけとなったのは、2020年に発覚した乳がんでした。
「乳がんを告知されたときは、正直ホッとしたんです。これで、休んでも誰にも文句言われないな!と。社会に出てからずっと、休むと置いていかれてしまうような感覚があって、2018年に第2子を産んだときも、6週間で復帰したんですよ」
当時、長男は小学2年生、長女は1歳。がんであることを長男に伝えると、ひどく落ち込んでしまったと言います。
「手術のためには転院が必要で、いくつか提案された病院の中から、聖路加国際病院を選びました。中学、高校をミッション・スクールに通っていた私は、礼拝堂があるところに惹かれたのですが、結果的に大正解でした。特に感動したのは、心理士の先生による、患者の家族のケア。私が点滴などを受けている最中に、息子のカウンセリングを行ってくれたんです。病気を伝えてから、息子は授業の途中で帰ろうとしてしまうことがあったのですが、離れている間にお母さんが死んじゃうかもしれない、という不安が原因になっていたよう。カウンセリングのほかにも、子どもにがんをわかりやすく伝えるための絵本や冊子をいくつも用意してくれて、とても助かりました」
ワンオペで子育てをしていたため入院中、子どもたちは勅使川原さんの実家へ。
「厳格な両親とは、昔から折り合いが悪くて。疎遠になっていたのですが、私の病気を機に、お互いに歩み寄ることができました。当時、私は東京の文京区に住んでいて、実家は神奈川。毎日通える距離ではなく、約2週間の入院を終えた後は再びワンオペ生活がスタート。しかし病理の結果から、さらに抗がん剤治療と放射線治療を受けなければいけなくなり、近くに住む友人たちに助けを求めました。すると、毎日のように食事を作って持ってきてくれたり、抗がん剤治療に付き添ってくれたり、求めていた以上に助けてくれて……。それまでは人に頼ることが大の苦手でしたが、人生で初めて自分の弱みを見せて、気持ちをオープンに話せるようになりました」
また、区の支援制度も活用したそう。
「乳幼児を育てていたため、自治体が提供する育児支援を受けられたことも大きかったです。お掃除や保育園の送り迎えを頼んでいたのですが、ヘルパーさんは優しい方ばかりで、合間のおしゃべりに癒されました。今も交流が続いている人もいるんですよ」

日記を書き始めたら、過去の後悔がとめどなくあふれ出てきた
がん治療をする中で人との関係性がガラリと変わった勅使川原さんに、2020年の冬、もうひとつの転機が訪れる。
「お茶飲み友達の人類学者の磯野真穂さんと会って闘病生活について話していたら、“それ、書き留めておいたら?”と言われて。最初は日記のような形で、主に病気について書いていたのですが、次第に過去の後悔が次々とあふれ出てきたんです。クライアント企業の社員に対して、データだけを元に評価を査定したり、成果を上げられないのは本人に能力がないからだと感じたり……そういった反省点と向き合う中で、能力主義に疑問を持って教育社会学を学んできたはずなのに、いつしかコンサルタントとして、能力主義に加担していたことに気づきました。その発見を元に書き上げたのが、『「能力」の生きづらさをほぐす』です」
能力主義の問題点をあらためて考える作業を通じて、子どもや自分を認めることにもつながったと、勅使川原さんは言います。
「『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』という本を昨年出したのですが、これって、親が言いがちな言葉ですよね。背景には、子どもに不利になってほしくない!という親心があるのだけれど、そもそも有利・不利という考えは、競争社会が前提になっています。私だって、宿題をやらずに平気な顔をしている息子に、大丈夫かな?と思う。でも、万能な人なんていないし、何かをできる代わりに何かができないのは当たり前。そうやって子どもたちの“できない”を認めるようになったら、自分に対しても寛容になり、自分の弱点も“味”だととらえられるようになりました」
現在も投薬治療を続けている勅使川原さん。健康のため、ストレスをためないこと、自分に正直であることを大事に。
「以前はマクロビを徹底していた時期もあるほどの健康オタクでしたが、がんになってアッサリ卒業。今は週イチでファストフードを食べています(笑)。個人的には、たっぷり睡眠をとって、ノーストレスな状態が、特に調子がいい。ストレスをためないために、嫌いな人とは仕事をしない、愛想笑いをしない、嫌なことは嫌と言う、などを徹底しているのですが、驚くほど生きやすいんですよ! 万人とうまく付き合う人が優秀、という能力主義的な思考を手放せた結果、QOLが格段に上がりました」
最後に、仕事と育児をしながらがんと闘う中で気づいた、人生で本当に大切なことを語ってくれました。
「仕事も子育ても、私にとってはどちらも欠かせない大事な存在ですが、それらをできるのは自分の命があってこそ。つまり、何よりも誰よりも自分を大事にしなきゃいけないんですよね。私はがんになって、そのことを初めて深く理解できました。自分が自分を大事に思うように、あの人も自分が大事なんだと思うと、すべての人が尊い存在に思える。できない人はダメ!と切り捨てていた自分がいかに自分を大事にしていなかったかがわかりましたし、自分を大事にしている今が、間違いなく人生で一番幸せです!」
子育てと仕事をしながら「がん」と向き合った勅使川原さん
自分を何よりも大事にしなきゃ!と気づけて、仕事や子育てへの向き合い方も変わっていった
治療中、心の支えになった友人や家族



「治療中も、家族との時間を大事にしたくて、旅行にはよく出かけていました。1番目の写真は旅先で子どもたちと。2番目は、いつも外来化学療法に付き添ってくれた親友。3番目は、抗がん剤治療で髪の毛がなくなった姿を、プロカメラマンの友達である雨森希紀さんに撮影してもらったものです」
Staff Credit
撮影/浜村菜月 取材・文/中西彩乃
こちらは2025年LEE12月号(11/7発売)「仕事や子育てをしながら、「がん」とどう向き合う?」に掲載の記事です。
※商品価格は消費税込みの総額表示(掲載当時)です。
HEALTHの新着記事
この記事へのコメント( 0 )
※ コメントにはメンバー登録が必要です。

















