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福地桃子さん『そこにきみはいて』公開記念インタビュー

福地桃子さん「人との違いが自分にとって、どんな意味を持つかを知るのは勇気が要ること」【映画『そこにきみはいて』インタビュー】

  • 折田千鶴子

2025.11.25

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福地桃子さん

東京国際映画祭で主演女優賞受賞

これまで数々の作品で気になっていた福地桃子さんに、新作『そこにきみはいて』の公開にあわせてインタビューしました。福地さんと言えば、ヒロインを務めた短編映画『ラストシーン』(是枝裕和監督がiPhoneで撮影したタイムトラベル・ラブストーリー)が今年の5月に全世界配信され、スタート3日で再生回数1,000万回を突破して大きな話題となったことを覚えている方も多いのでは? 

福地さんが、先の東京国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した『恒星の向う側』という映画は、なんと本作の原案・出演の中川龍太郎さん(以前、登場した記事⇒『やがて海へと届く』岸井ゆきのさん×中川龍太郎監督 対談)が監督した作品です。

さて今回お題の映画『そこにきみはいて』(11月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次公開)は、孤独や生きづらさを抱える、今この世界を生きる若者たちが居場所を求め、傷つきながらも繋がろうとする姿を捉えた青春映画です。震えるように繊細でピンと緊張の糸が張り詰めたような本作に、福地さんがどんな風に向き合ったのか、聞きました。

福地桃子さん

独自の立ち位置を早くも確立中!

福地桃子

Momoko Fukuchi

1997年生まれ、東京都出身。2025年、主演映画『恒星の向こう側』にて、第38回東京国際映画祭 最優秀女優賞を受賞。近年の主な出演作にドラマ『なつぞら』『鎌倉殿の13人』『消しゴムをくれた女子を好きになった。』(22)『舞妓さんちのまかないさん』『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(23)『わかっていても』(24)『照子と瑠衣』(25)『ラジオスター』(26)、映画『サバカン SABAKAN』(22)『あの娘は知らない』(22)『湖の女たち』(24)『ラストシーン』(25/是枝裕和監督)、舞台『千と千尋の神隠し』(24・25/千尋役)『夫婦パラダイス』など。

脚本を書かれた竹馬靖具監督は、福地さんと対話しながら香里というキャラクターを膨らませていったそうですね。どのような形でオファーを受けたのですか?

福地桃子さん(以下、福地) 元々は中川龍太郎さんが監督をするというお話でしたが、中川さんの中で「喪失」についてはまた別の視点で描きたいという想いが生まれ、今作は竹馬さんが監督を努めてくださることになりました。脚本が完成していない段階でお会いし、竹馬監督や原案者である中川さんと、どんな企画になるかも含めて色んなお話をして、私も普段の自分のことを話したりしました。自分を知ってもらう時間を設けていただくことは、ありそうで意外とないので、それも良い時間でした。

とはいえ脚本がない状態で引き受けた、決め手は何だったのでしょう?

福地 テーマや竹馬さん・中川さん、お二人の思いを受け取り、その物語に参加していきたいと思いました。対話を通して役が形作られていく、そんな丁寧な物作りに参加できることは、とても贅沢だなと思います。

その段階から参加して完成した脚本は、やっぱり一味違いますか?

福地 どんな思いで物語が作られたかを知った上で現場に臨むというのは、とても大切なことだと思っています。撮影期間中には、監督の竹馬さんと一つ一つのシーンで丁寧なコミュニケーションを重ね、「どんな思いでこのセリフが生まれたのか」というお話をしながら進めていきました。竹馬さんの持つ柔らかさを信じて、自分の中でどうにか解決しようとするのではなく、「伝えてみよう」と思えていた気がします。

そこにきみはいて』ってこんな作品

アロマンティック・アセクシャル である香里(福地桃子)は、ひょんなことから健流(寛一郎)と知り合い、初めて他人と一緒に過ごす心地よさを覚える。恋人というよりどこか家族のように付き合い始めた2人だったが、入籍が近づいたある日、突然、健流は自ら命を絶つ。互いが一番の理解者だと信じていた香里はショックを受け、再び人に対して心を閉ざすように。そんな中、かつて健流が親友だと語っていた作家・中野慎吾(中川龍太郎)のことを思い出し、彼を訪ねる。香里と慎吾は街を巡りながら、少しずつ健流について語り始める――。詩人で映画作家の中川龍太郎の原案を、彼の盟友である竹馬靖具が監督・脚本で映画化。  * アロマンティック・アセクシャル:恋愛感情や性的欲求を持たない指向のこと

香里という人物について教えてください。脚本を読んで、どんなことを感じましたか。

福地 撮影を通して香里が持っている性質――例えば、他者とのコミュニケーションにおいて粘り強く関わろうとする面など、どこか自分の中にある「粘り強く向き合おう」という姿勢と重なるものも感じました。演じるなかで、香里と自分が混じり合う感覚が確かにありました。

そこにきみはいて
©️「そこにきみはいて」製作委員会

単なる一面ではありますが、香里は「人を性的に愛する感覚が分からない」という悩みや生きづらさを抱えています。そういう香里のモヤモヤや生きづらさを、福地さん自身はどう理解されましたか。

福地 悩みというより彼女が抱いている感情を、私も追求したいと思っていました。香里は人との違いを敏感に感じながらも、それを「追求したい心」がある人です。彼女は「多くの人が持つ感じ方と香里の感じ方の違い」を知りたいという思いから、特に大切な人、健流や慎吾に対しても、粘り強くコミュニケーションを取ろうとするのだと思います。ただ、人との違いを知ることは、とても勇気のいることだと思います。その勇気が香里の強さに繋がっていることに、撮影が終わってから気がつきました。



人は人の何に惹かれるのか

福地桃子さん

一方で、香里は、誰か他人が自分の領域に入られないよう、警戒しているところもあるのではないかとも感じました。

福地 私は、香里が人に対して最初から閉ざしているとは思いません。常にちゃんと関わろうとする姿勢を感じますし、そこが勇気のある人だと思うんです。時に拒絶のように感じられてしまうこともありますが、例えば健流のように、香里が最初から「この人と近づいてみたいかも」と思える空気をまとっている人もいるわけです。やっぱり相手次第だと思います。

確かに、香里が健流と瞬く間に距離を詰めていくのは意外でした。

福地 2人の間には寄り添い合う心がちゃんとあるというか。お互いに、相手と過ごす時間の中に「救い」があったのだと思います。だからこそ、香里は自分の気持ちを伝えることができたし、健流にとっての自分も特別な存在でありたいと思っていたのだと思います。

人間関係って不思議ですよね。知り合ったばかりでも心を開けたり、くつろげたりする人もいる。本作は、そういうことも描いているのですね。

福地 例えば同じものを見ていても、色を褒める人もいれば、形を褒める人もいる。その見ている視点が好きだなとか、そういうことなんだろうな、と。だから、そういう何気ない会話って、すごく大事だなと私は思っていて。映画では詳しく描かれていませんが、2人は互いに、この人の見ている世界がすごく素敵だなと思うことが、性別や色んなことを超えて内側の部分で響いたのではないかと思います。

福地桃子さん

健流を演じた寛一郎さんにとっても、非常にチャレンジングな役だと感じました。寛一郎さんとの共演シーンで、最も印象に残ってるのはどこですか。

福地 時間軸は違うけれど、同じものを見ているところです。それぞれの思いが重なり合うよう見えるシーンに力強さを感じました。あとは、ランニングのシーンも印象に残っています。

28歳になった今、思うこと

現在、28歳ですが、20代のうちにしておきたいことはありますか?

福地 旅がしたいです。いまやりたいこと、気になることになるべく時間を使えていたら嬉しいなと思います。

例えば最近どんなところを旅されましたか?

福地 近年、お仕事でこれまでに行ったことのない場所に行くことも増えました。去年は舞台『千と千尋の神隠し』で国内公演とイギリスでの同時上演があったり、この夏は上海で行ったりしました。普段生活している土地から離れた場所で生活をしてみると、新たに気がつくこともあり、大切にしたい時間です。

福地桃子さん

やっぱり自分の生活圏から離れ、違う場所を訪れるとリフレッシュになりますか?

福地 寒いからこういう衣服が作られたなど、その土地に行けば必ず着るものも食べるものも変わる。そうすると、自然と自分の中から出てくる発想も変わってくると思うんです。それを、想像ではなくちゃんと実感を持って体験できるのが、やっぱり面白いし楽しいし、幸せだと感じます。東京では東京の自分がいて、別の場所に行けば別の自分になれるというか。それは柔軟さにも繋がってくると思いますし、やっぱりリフレッシュになっていると思います。

自分の中で「30歳がこんな近くまで来てるぞ」といった意識はありますか?

福地 ちょっと先のことを考えることもあるのですが、そのときまでに何か成し遂げなくてはいけないのかな?」と思います。なので、私には目の前のことに真剣に向き合う、というのが合っているのかなと思っています。

福地桃子さん

痛々しくも鮮烈な青春時代の刻印と、喪失から再生・赦しへと向かっていく『そこにきみはいて』の旅路を、是非、劇場で一緒に歩んでください。

『そこにきみはいて』

11月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次公開

そこにきみはいて

2025年/日本/配給:日活/©️「そこにきみはいて」製作委員会
脚本・監督:竹馬靖具
出演:福地桃子、寛一郎、中川龍太郎/筒井真理子


Staff Credit

撮影/山崎ユミ ヘアメイク/鷲塚明寿美 スタイリスト/梅田一秀 

衣装:トップス¥44000・スカート¥57200ともにマメ クロゴウチ/マメ クロゴウチ オンラインストア 靴¥137500ジェイエムウエストン/ジェイエムウエストン 青山店 ピアス¥29040・リング¥20900ともにSAMAC 

問い合わせ:マメ クロゴウチ オンラインストア www.mamekurogouchi.com ジェイエムウエストン 青山店 03-5485-0306 SAMAC  03-6434-1128 

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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