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【今月のおすすめ映画】『平場の月』酸いも甘いも知った大人こそこの恋の愛おしさが身にしみる。他3本

2025.11.12

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イラスト 折田千鶴子さん

Navigator

折田千鶴子さん

映画ライター

『佐藤さんと佐藤さん』『ダブルロール』のパンフレットに寄稿。素晴らしいこの2作もぜひチェックを。

『平場の月』

『平場の月』
©2025映画「平場の月」製作委員会

酸いも甘いも知った大人こそこの恋の愛おしさが身にしみる

中学生の頃に味わった、これが恋なのかという戸惑いと、でもどうにも気になるソワソワ感と、急に走り出したくなるような衝動と——。大人になったら二度と味わえないと思っていた、相手の存在だけがくりぬかれて光っているような、その存在自体が“喜び”を運んでくる感覚を、本作は再び味わわせてくれる。しかもアラフィフ同士の恋愛で。まるで不意打ちを喰らわせるように。

妻と別れ、地元に戻って印刷会社に再就職し、慎ましく平穏に一人で暮らしている青砥健将(堺雅人)。夫と死別し、地元に戻ってパートで生計を立てている、こちらも一人暮らしの須藤葉子(井川遥)。2人は中学の同級生で、陸上部の須藤は、青砥の仲間内で憧れの存在だった。もちろん青砥も思いを寄せていた一人。そんな2人が再会し、軽い身の上話をして意気投合。独身同士の2人は、いつしか定期的に会っては近況報告を交わし合う、すっかり気の置けない飲み友に。当時のまま互いを「青砥」「須藤」と苗字で呼び合い、仲のよい友達同士の関係を続けるが、やがて自然と惹かれ合っていく。そうして未来についても、意識するようになっていくのだが……。

それぞれの人生で酸いも甘いも味わい、くぐり抜けてきた現在の2人の様子を中心に据えつつ、中学時代の出来事を挿入し、“実はあのとき……”という小さな驚きを少しずつ投げ込んでくる。2人の過去、とりわけ須藤の過酷な境遇や、それに対する青砥の言動を目撃するにつけ、現在の2人の関係や絆や思いが、単なる懐かしさや勢いではないことが察せられ、ジワジワ心の温度を上げていく。ぶっきら棒に「青砥」「須藤」と呼び合う色気のなさもユーモラス、かつ大人の不器用さと自制の表れのようで思わずキュンとする。これ以上の展開は明かせないが、私たちの身にもいつ降りかかるかわからない“ある運命”が2人を襲う。その踏み込んだ描写によって初めて知ることが多いだけでなく、そこから2人の人柄や関係の深さも実感させられ、終盤に向かって涙量を爆上げする。果たして、この恋の行方は——。

なるほど、と思わず唸りたくなるのは、監督が『花束みたいな恋をした』の土井裕泰だから。同作で“かけがえのない恋の終わりの切なさ”を描いて観る者の身をよじらせた土井が、今度は大人の涙腺を決壊させる。2人が通う焼き鳥屋の無口な大将(塩見三省)や同級生ら(大森南朋ほか)の存在も味わい深い。だがなんといっても、長いキャリアにおいて現代劇のラブストーリーの主演は初という堺雅人、いつまでも透明感を失わない井川遥、2人の組み合わせが新鮮で実に効果的だ。堺は言うまでもないが、ここへきて役幅やイメージを大いに更新(公開中の映画『見はらし世代』も好演!)している井川の、俳優としての本気度もうかがえる。原作は発行部数25万部を突破した朝倉かすみによる同名小説。大人だからこそわかる、この恋の大切さと愛おしさに、この秋、痛いほど酔いしれてほしい。

11月14日より全国ロードショー

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『兄を持ち運べるサイズに』

『兄を持ち運べるサイズに』
©2025「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

家族に対する“ままならぬ”感情、その関係性がリアルで共感必至

疎遠にしてきた兄(オダギリジョー)の訃報を受けた理子(柴咲コウ)は、急いで東北へ向かう。7年ぶりに再会した兄の元妻(満島ひかり)と高校生の娘と一緒に、兄と小学生の息子が暮らしていたゴミ屋敷化したアパートの片づけを開始。兄にずっと振り回されてきた理子は、早く〝兄を持ち運べるサイズ=火葬〞にして帰ろうとするが、思い込みとは少し違う兄の真意や忘れていた記憶に気づかされ……。ダメすぎるが憎めない兄の存在感が、なんともいえずいい味。近すぎるからこそ感情が行き違う〝家族というもの〞に思わずホロリ。監督は『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太。

11月28日より全国ロードショー

公式サイト



『モンテ・クリスト伯』

『モンテ・クリスト伯』
©2024 CHAPTER 2-PATHE FILMS-M6-Photographe Jérôme Prébois会

無実の罪で投獄された男の壮大な復讐劇が劇的で、心はやらせる!

「巌窟王」の名でも知られ、繰り返し映像・舞台化されてきた、文豪デュマの傑作小説を再映画化。船長への昇進が決まり、結婚も控えた有望な青年エドモンは、ある策略により無実の罪で投獄される。ともに脱獄を目指し多くを授けてくれた隣の房の司祭から、テンプル騎士団の隠し財宝の在りかを教えられたエドモンは、14年の後についに脱獄。大富豪モンテ・クリスト伯として、自分をハメた男たちの前に姿を現す。愛と野望と復讐心がサスペンスフルに絡み合い、知った話なのに胸を締めつける。主演は『イヴ・サンローラン』のピエール・ニネ。’25年セザール賞に最多14部門ノミネート、フランスで大ヒット。

公開中

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配信 CINEMA&DRAMA

『大地の傷跡』

『大地の傷跡』

大自然の裏に潜む闇を暴くミステリー

広大なヨセミテ国立公園(東京都の約1.4倍!)を舞台に、ある残虐な事件の真相を追う特別捜査官カイルの奮闘と捜査の行方を描く。ネイティブ・アメリカンの居住地だった土地のスピリチュアルな空気、雄大な自然の映像も大きな魅力。カイルの私生活や過去に負った傷が少しずつ明らかになり、予想外の展開や真相とあいまって目が離せず、全6話、一気見必至。主演は『ミュンヘン』『きみがぼくを見つけた日』のエリック・バナ。驚異の視聴回数で、早くもシーズン2の製作が決定。共演にサム・ニールほか。

Netflixシリーズ「大地の傷跡」独占配信中

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Staff Credit

イラストレーション/SAITOE
こちらは2025年LEE12月号(11/7発売)『カルチャーナビ』に掲載の記事です。

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