坂東龍汰さん『爆弾』出演記念インタビュー
坂東龍汰さん「“いつ芝居が下手だとバレるかな”と毎日、怯えていました。自信を持って演技に臨めるようになったのは『爆弾』が初めてかもしれません」
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折田千鶴子
2025.10.24 更新日:2025.10.25

またも邦画から傑作が飛び出した!
いやはや、これはもう観ないわけにはいかない必見作です。今年の日本映画界は絶好調ですが、またも傑作が飛び出しました。見始めたら最後まで一気! 心臓は早鐘を打ち続け、かじりつかずにいられない。本気で面白かったと断言できる『爆弾』に、今をときめく豪華俳優陣が結集しました。緩急自在の本作ですが、主に“緩”の部分を担ってクスッと笑わせておきながら、その運命にハッと息を呑ませる巡査長を演じた坂東龍汰さんに、お話しをうかがいました。

独特の空気感&存在感で注目の
坂東龍汰
Ryota Bando
1997年5月24日、米ニューヨーク生まれ、北海道出身。2017年に俳優デビュー。ドラママ『花へんろ 特別編 「春子の人形」〜脚本家・早坂暁がうつくしむ人〜』(22)で初主演。『フタリノセカイ』(22)で映画初主演。第32回日本映画批評家大賞で新人男優賞(南俊子賞)を受賞。『君の忘れ方』(25)で映画単独初主演。近年の主な出演作に、ドラマ『366日』『RoOT/ルート』『ライオンの隠れ家』(全て24)、映画『雪の花-ともに在りて-』『ルノワール』(共に25)など。ドラマ『シナントロープ』が放送中。
原作の面白さもさることながら、よくぞ映画としてこんな面白く作ってくれました、と興奮しました。これは手放しで「メチャクチャ面白い!!」と叫びたいです(笑)。
坂東 僕も台本を初めて読んだとき、脳内で爆発が起きるくらい面白くて、本気で脳みそが焦げましたよ! とはいえ容易くサラッと読めるような台本ではなく、一度読んだだけではなかなか飲み込めなかった。ついていくのに必死でしたが、読み終えてすぐ正名僕蔵さんに電話しちゃいました。「ヤバくない、この本!?」って。そうしたら「よし分かった。とりあえず会おう」と言われて、落ちあって「スゴイね、面白いね」と話をしたのを覚えています。
*正名僕蔵さんは、警察の権威側(ちょっと嫌な奴)を演じています。
正名さんと坂東さんは、かなり年齢差がありますが、仲の良い友人なのですね?
坂東 はい。僕は人間関係において、年齢とか全く関係なくお友達になってしまうんです。だから交友関係も広くて。正名さんはドラマ『真犯人フラグ』で初めてご一緒した際に、いろんな映画の話で盛り上がって以来の付き合いで。2人でピザを食べに行ったり、基本は2人でいつも飲んでいますね。そうしたら、また今回もご一緒出来ることになって。今回は正名さんはじめ、とても仲のいい寛一郎や片岡千之助も出ているので、胸熱な現場でした。台本を読んだ時も興奮しましたが、キャスト名を聞いてさらに嬉しくなりました。
『爆弾』ってこんな作品
酔って暴行を働き警察署に連行された正体不明の自称・スズキタゴサク(佐藤二朗)が、「霊感が働いた」と爆発騒ぎを言い当てる。ヒントのようなクイズで、次なる爆弾の在りかをほのめかし……。東京の何処に仕掛けたのか取り調べる刑事とタゴサクの攻防と、現場で爆弾捜索に走りまわる警官とを同時進行で描き出すリアルタイム・ミステリー。取調官に山田裕貴、渡部篤郎、染谷将太。爆弾捜索に奔走する警察官に伊藤沙莉、坂東龍汰。「このミステリーがすごい! 2023年版」&「ミステリが読みたい! 2023年版」双方で1位に輝いた、呉勝浩による同名ベストセラー小説を映画化。
中心となるのは、佐藤二朗さんが扮するスズキタゴサクvs彼を取り調べる警察官たちの攻防です。別の作品でもよく“怪演”と言われる佐藤さんですが、このタゴサクは身をよじりたくなるくらいイヤな感じが、本当にスゴかったですよね。
坂東 二朗さんがよく言われる“怪演”という言葉は、まさに本作こそふさわしいと思います。もちろん、これまでも色んな役を真剣に演じられて来たでしょうが、こと本作においては更に輪をかけて「本気を見た」と思わされました。感情が急に出たかと思ったら、急に(感情が)消えたり。顔自体も変わりますし、あの表現力は観てる人の心を掴んで離さないですよね。

それに翻弄されてダメになっていく刑事を演じる渡部篤郎さんが、渋くて超絶カッコいいだけに余計、タゴサクに踊らされてしまう姿が苦しくて。渡部さんの重厚感が圧倒的で、俳優としての安定感たるや、と思わされました。
タゴサクの前に次々に現れる刑事たちが、それぞれ個性的でたまらないですよね。
坂東 そう。とにかく二朗さんが超強烈ですが、それに対峙する刑事役の山田裕貴さん、渡部篤郎さん、そして染谷将太さんvs二朗さんとの組み合わせが次々に見られるので、観客側としてはとにかく贅沢な面白さを味わえますよね。皆それぞれがそれぞれのモンスター感を放っていて、まるで舞台を見ているかのような疾走感がありました。だから、いい意味で置き去りにされるんですよ、心地よく。そのテンポ感が素晴らしくて。もちろん編集の妙もあるでしょうが、“音”も素敵だなって思いました。

音響のことですか?
坂東 いえ、皆さんがそれぞれ作る音というか。例えば二朗さんは、大きな図体で低音をツンと響かせるのに対して、染谷さんは淡々と少しカラッとしたトーンで芝居を当ててらして。山田さんは二朗さんに負けない“クレイジー感”を類家の中に宿らせていて、だからこそ対等に見えるんですよね。そういう、それぞれのバランスと役作りの巧妙さに、僕は本当に映画を観てひれ伏しました。とにかくスゴかった!
演じた巡査長の役回りと演じる面白さ
では、坂東さんが演じた巡査長・矢吹について教えてください。同じく交番出身で先に刑事になった寛一郎さんが演じる伊勢に対してわだかまりを抱えています。
坂東 そう、伊勢に対してちょっとダークな嫉妬を秘めている、という役だからこそ面白味と魅力を感じました。単純に倖田と能天気なバディを組んでクスリと笑わせる、というだけの役回りではないのがいいな、と。

伊藤沙莉さんが演じる後輩の倖田との関係が、またちょっと心くすぐります。
坂東 ですよね。倖田と矢吹の何とも言えない関係、言うなれば友達以上、恋人未満的な関係性というか、ちょっと複雑な思いを感じさせながらのバディ感が良くて。倖田って、絶対に矢吹のことが好きですよね。
ん? いや、矢吹の方が倖田のことを好きな気持ちが強そうでしたが(笑)?
坂東 ハハハ(笑)!!! どう見てもそうですよね(笑)! ただお互いに好意を持っていそうなのに、何も言わず、でもちょっと意識している様子が垣間見えるのが、可愛くもあり切なくもあるところで、本作における僕の推しポイントです。
それに、タゴサクに尋問する警察署内の“ワンシチュエーションの会話劇”に対して、観客が段々と息苦しくなってきた頃に僕らが外で動き回るパートが挿入されると、きっと身体にウッと入っていた力が抜ける。そんな風に、伊藤沙莉さんと僕がちょっとした息抜きをお芝居で作れたらいいな、と思いながらやっていました。この2人が可愛いな、面白いなと思ってもらえたら、きっと“あんなこと”に巻き込まれてしまう展開に、切なく若干ホロッと来てもらえるかな、と。中の閉鎖的なパートとは対照的に、開放的な外パートとして見せられたらいいな、と思っていました。




でも矢吹の危なっかしい言動に、観ながら「もう~!!」となります。分かる気もするのがまた……。
坂東 矢吹はいろんな思いから、ちょっと焦りがあるというか、早く手柄をあげたいという気持ちが強いんですよね。内面的に抱えているものが、彼の言動に繋がっている辺りが物語にリアリティを与えています。矢吹と倖田の関係、矢吹とかつてバチバチだった伊勢との過去や背景があるからこそ、矢吹の言動にちゃんと動機が感じられるというか。その辺りの物語構成も、本当に面白いなと思います。
伊藤沙莉さんとの抜群な掛け合いのテンポや、抜けた軽やかさが本当に良かったですが、あのあたりはリハーサルで調整したりしました?
坂東 いや、サラッと台本を読み合わせた程度で、「大丈夫ですね」とすぐ終わっちゃって。やっぱり相手が沙莉氏だと、お芝居がしやすいし、自然に出来てしまう感じがあります。現場でも、本当によくお喋りし続け、ゲラゲラ笑いながら色んなことを話してました。その普段のテンション感が、ある意味、お芝居にも出ていたのかもしれません。
役者としての理想像は
矢吹の“手柄を早く上げたい”という気持ち、それに動かされてしまうことなど理解できますか。特に若い頃はそういうことが多い気がするのですが。
坂東 確かに現実世界でも、普段なら自制できるのに、焦りから突っ走ってしまうことってありますよね。軽いところでは、嫌なことがあった日にお酒を飲み過ぎちゃうとか。そういう些細なことと似ている気もしますが、それが危ないんですよね。虚栄心というか功名心と言うか、危険だなとは思います。

役者の世界でも、当然ながらみな早く名を上げたいですよね。
坂東 確かに、「早くいい役を演じたい」とみんな思いますよね。でも、そうなると現場で余計なことをしがちになってしまう。まさに矢吹っぽいですが。ただ僕は最初の頃、ずっと自分に自信がなかったんです。「いつ芝居が下手だとバレるかな」という恐怖心に囚われて毎日、怯えていました。だって年齢は同じなのに長くキャリアを積んでいる方たちが周りに大勢いて、例えば『12人の死にたい子供たち』(19)という僕の初めての仕事では、キャリアの差と演技は比例するものだと痛感させられる日々でした。そんな不安な状況は結構、長く続きましたね。
いつ頃から、自信を持って演技に臨めるようになりましたか。
坂東 それこそ、この『爆弾』が初めてかもしれません。いや、お芝居というものが、まだよく分かっていないのが正直なところです。未だに不安になることもあります。
今や若手演技派の筆頭と目されているのに?
坂東 というよりは、僕は不安を抱えながらお芝居に取り組む人が好きなんです。理想としては、周りの芝居や人のことを常に感じられる人でありたいです。お芝居を離れ、普段もそうありたいですが……。
要は、自分を黒い点にするのか、周りを黒く塗りつぶすのかの違いというか。僕は常に白い点で、周りによってその色がどんどん出来上がっていくイメージでお芝居ができたらいいなと思ってます。だから色んな人に影響を受けますし、色んな人のお芝居を受けて初めてお芝居が成立するような役者でありたいと日々思ってます。
それは、例えば強烈な主人公を演じるとなったら、また別ですか?
坂東 いいえ、変わらないです。たとえ主人公が強烈だったとしても、その人を強烈にした“何か(誰か)”がいるはずです。自発的に強烈になったわけではなく、育った環境や親なのか出会った大人たちなのか。出会った本かもしれないし、映画かもしれないけれど、何かしら影響を受けているはずだと思うので。

かの『ジョーカー』だったら、生まれたてほやほやの状態から“ジョーカー”だったかもしれませんが、それでも何かしらの紆余曲折があって、ああなってしまったのではないかな、と。結局、みんな最初は白い点だと思うんです。本作のタゴサクだってそうだと思いますよ。もしかしたら、中学あたりまでは普通だったかもしれない。でも、どこかでああなってしまった。その「どこか」を考えるのも、楽しいですよね(笑)!
そう考えると、そして本作をすべて観終えると、どこか切なさが残る気がしますが……。
坂東 確かに、なんとも言えない気持ちになりますよね。それぞれの人間に正義があって、悪の中にも正義があって。そのどちらにも成り得るのが人間だ、ということを感じました。タゴサクが「心の形」と言いますが、そんなこともとても考えさせられて。だって人生、とても嫌なことが起きるかもしれない。そんなフとした拍子に、タゴサクのようになり兼ねないのが人間じゃないですか。でも、そこを律するのも人間であって。
だから受け取り側によって、本作は感想が変わる映画だとも思います。だって戦争のようなことにまで繋がっていく題材でもありますから。そこがエンターテインメントの難しさでもありますが、同時にそれだけのエネルギーを持ってるものだとも改めて思わされました。だからこそ本作が、きちんと然るべき良い方向に受け手に伝わって欲しいな、とも思っています。

確かに、掛け値なしの面白さであるからこそ坂東さんが言うように、本作の面白さや色んなことをたくさん感じさせるメッセージが上手く伝わればいいな、と思わずにいられません。
とはいえ、うっすら汗をかくくらいの、まずは演技派俳優たちの演技バトルを堪能してください。かなり原作に忠実ではあるのですが、そこに窮屈さは一切なく、映画としての自由さや新たな発見にも満ちた本作。期待して観に行っても、多分、裏切られることのない充実した時間が過ごせると思います。是非、劇場で堪能してください!
『爆弾』
2025年製作/日本/配給:ワーナー・ブラザース映画

監督:永井聡 原作:呉勝浩
出演:山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、渡部篤郎、佐藤二朗ほか
2025年10月31日(金)より全国ロードショー
(C) 呉勝浩/講談社 (C) 2025映画『爆弾』製作委員会
PG12
Staff Credit
撮影/菅原有希子 スタイリスト/李靖華 メイク/後藤泰(OLTA) ジャケット¥132,000/Paul Smith パンツ¥47,300/ULTERIOR(ELIGHT Inc.)その他スタイリスト私物 ※全て税込価格 問い合わせ先:ELIGHT Inc.03-6712-7034 Paul Smith Limited03-3478-5600
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
















