【今月のおすすめ本】綿矢りさ『激しく煌めく短い命』寿木けい『わたしの美しい戦場』他２編｜2025

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石井絵里さん

ライター

ミュージシャン・前野健太さんのライブへ通うこと十数年。これも推し活か？と思ったのでした。

『激しく煌めく短い命』
綿矢りさ　￥2585／文藝春秋

女性同士の燃える感情に身をまかせたい恋愛大作！

時は平成初期。日本が女子高生＆ギャルブームに沸いていた頃、たまたま私も高校生だった。ギャルかわいい〜と思ったけど、真髄である刹那な生きざまが怖かったのも事実。でも今思えば、周りなんか無視してギャルをやればよかった！

今月の一冊は、そんな平成期の風俗を取り入れながら、2人の女性の運命的な関係を描いた、長編恋愛小説。主人公のは、京都に住む中学生。入学式で出会った、同じクラスの女子・の明るさに惹かれることに。優等生の久乃とギャルで勉強嫌いな綸。いつしか2人は、お互いにとって特別な存在になる。その関係は綸から「好きな人は久乃」「私のカノジョになってほしい」と言われ、決定的に。手探りで同性同士の愛を育んでいく。しかし、あることがきっかけで思いがすれ違い、別れてしまう。

綸はどんなときでも、気持ちを久乃にぶつけてくる。そこに計画性や未来はなく、発するのは燃え盛る“今”。一方で久乃の“今”とは、周りから浮かず、そして失敗の少ない将来のための“努力”を意味する。綸と別れて以来、久乃は安定した人生を送るために大手企業へ就職し、今をやり過ごすように。そして中学卒業から十数年後。30代の久乃は、東京で綸と再会する——。

平成の後半頃から「人生100年時代」とか言われ始め、瞬間の楽しさよりも未来への解像度を上げられる人が勝者っぽいムードになってきた、ような気がする。平均寿命が延びた今、正しいとは思うが……。

本著を読みながら、久乃が綸と仲よくなるきっかけになった洋楽『エターナル・フレーム』を、ぜひ聴いてほしい！　バングルスというアメリカのガールズバンドのラブソングだ。英語が苦手な綸は久乃に、タイトルの意味を尋ねる。久乃が訳したのは「永遠の炎」。炎は愛の暗喩だ。「燃えるものが無くなったら火は消えちゃう。ありえなくない？」と綸は不思議がるけど、ありえないかもしれない愛に“今”を燃やす意味とは？　ただただ、涙しかない大作です！

『わたしの美しい戦場』
寿木けい　￥1980／新潮社

東京で編集者をしていた著者。山梨に移り住んだのちに古民家を購入し、「遠矢山房」という宿のオーナーシェフを始めることになった。宿を訪れてくる人との触れ合い、料理をはじめとするおもてなしへの試行錯誤、そして移り変わりゆく1年の季節を描いたエッセイ。端正な文章の中に、自分や2人の子どもたち、周りへの深い愛情と思索が感じられ、心を癒してくれる。

『〆切は破り方が９割』
カレー沢 薫　￥1760／小学館

ドラマ化された『ひとりでしにたい』で注目を集めた漫画家の、最新エッセイ。自称〝売れてない〞漫画家という著者が、締め切りと締め切りの間に考える、自分の仕事について。やりがいとは？　ギャラとは？　編集者との付き合い方とは――？　切れ味の鋭いツッコミと、クリエイターの頭の中身をのぞかせてもらうおもしろさに加えて、働く気力もちょっとだけ上げてもらえる。

『相談するってむずかしい』
文・青山ゆみこ　漫画・細川貂々　￥1870／集英社

『元気じゃないけど、悪くない』をはじめ、ケアに関する書籍を多数執筆しているライター・青山ゆみこさん。『ツレがうつになりまして。』や『こころってなんだろう』など家族や自身のこころの問題を描いてきた漫画家・細川貂々さん。そんな2人が「相談する」ことの大切さを文章と漫画でつづった一冊。人に相談できない、したところで……と悩んでいたら手に取ってみて。