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『マイクロバスと安定』は9月20日チケット一般発売

【生瀬勝久さんインタビュー】「嘘だけど現実に起きている演劇ってロマンティックでしょ」

2025.09.19

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嘘だけど現実に起きている演劇ってロマンティックでしょ

生瀬勝久さん

生瀬勝久さん

謎の多い病院長、クセ強めの隣人、元大泥棒の宰相など、市井の人からぶっ飛んだキャラクターまでどんな役柄も「こんな人いるかも」と思わせる俳優、生瀬勝久さん。表現者として敬愛する竹中直人さんとの演劇ユニット『竹生企画』の第四弾として、7年ぶりの新作『マイクロバスと安定』を上演します。

「コロナ禍があって間が空いてしまったけど、そろそろやりましょうかと。今までの『竹生企画』は少し大きめの劇場でやってきたけど、今回は小規模の劇場を選びました。僕はもともと学生演劇出身なので、ささやき声が聞こえるくらいの距離感に観客がいるのが好きで」

出演者と観客が、より一体になれそう。生瀬さんが演劇に感じる魅力は、その一体感にあります。

「演劇って、キャスト、スタッフ、その日の観客で嘘の世界を作り上げて、“今日ここであったことは内緒だよ”と持ち帰る芸術だと思うんです。舞台で演じるのは嘘の世界だけど、確かにその日起きたことではある。それってロマンティックでしょ」

“嘘の世界”をできるだけリアルに見せるために、演じるうえで重視しているポイントとは?

「その日の体調、気分で芝居をすること。何日も続く公演でも、前の日に自分がやったことは全部忘れたい! 稽古やこれまでと同じ演技をしたくないのもあるし、現実に生きていたら、この後何が起こるかなんてわからないじゃないですか。“リアルな世界”は、その瞬間起きたことにリアクションするわけでしょ」

確かに現実では、相手の次の言動は予測どおりにならないのが当たり前。

「映像作品も同じで、台本に書かれたセリフは覚えて撮影に行くけど、実際に演技をする前にはいったん全部忘れる! 本番はその瞬間だけに集中し、相手の発する言葉を聞くようにしています。そうすると、自然と覚えてきたセリフを言いたくなるはず。脚本家はそれをイメージして台本を書いているんだから。演じる側が“こう演じよう”とか“こんなふうにセリフを言おう”と事前に考えてしまったら、リアルな会話じゃなくなっちゃうじゃない」

生瀬さんのリアルな演技は、過去の経験からも形作られているそう。

「演技をするとき、プライベートでの経験、どんな人に会ってどんな感銘を受けたかがポンと思い出されるんです。なので普段つらいことがあっても、“こういう経験をする役がきたら、リアルな感情でその人物を演じられる!”とプラスに考えます」

ネガティブな経験をあえて避けないのは、自身の子育てにおいても同じなんだとか。

「息子が1人いますが、子どもが失敗しないように、つらい思いをしないように導くのは、親の仕事ではない、と思って育ててきました。突然の豪雨でびしょぬれになるのも、満員電車に乗るのも、ひとつの経験で人生の糧になるものだから」

どんな作品でどんな役を演じたいなど、今後の目標や展望は?

「ないです! “80歳まで現役で頑張ります”みたいな夢や展望を話すと、そこまでどう生きるかを考えなきゃいけない。それよりは朝起きてみて、そのときの体調で1日どう過ごすかを考えるほうがいいじゃない。まあ自分なりに“これやりたいな”って思うことはあるけどね。絶対に人には教えない!(笑)」

PROFILE

1960年10月13日生まれ、兵庫県出身。大学時代に関西の人気劇団に入団し、俳優の道に。演劇のみならず数々の映画、ドラマに出演し、放送中のTBS『巷のウワサ大検証!それって実際どうなの会』ではMCを担当。出演映画『ブラック・ショーマン』『ベートーヴェン捏造』が、ともに9月12日公開。
公式サイト:https://www.cubeinc.co.jp/archives/artist/namasekatsuhisa

竹生企画第四弾
『マイクロバスと安定』

竹生企画第四弾『マイクロバスと安定』

竹中直人と生瀬勝久による演劇ユニット『竹生企画』の第四弾公演。過去3作に続いて今回も作・演出を倉持裕が手がける。小惑星の衝突で世界が滅亡するとわかってから少したった世の中で、“いつもどおり”に生きようとする人々の物語。●11月8日~30日 本多劇場 9月20日チケット一般発売 問い合わせ=☎03・5485・2252(キューブ) 兵庫、広島ほか地方公演あり
竹生企画第四弾『マイクロバスと安定』公式サイト


Staff Credit

撮影/野口花梨 ヘア&メイク/田中智子(アートメイク・トキ) スタイリスト/中谷東一 取材・文/古川はる香
こちらは2025年LEE10月号(9/5発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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