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今月の注目映画情報をお届け!

2025【9月のおすすめ映画】『ブラックドッグ』『遠い山なみの光』他2本

2025.09.17

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イラスト 折田千鶴子さん

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折田千鶴子さん

映画ライター

公開中の『ベスト・キッド:レジェンズ』パンフレットに寄稿。こちらの作品もぜひチェックを!

『ブラックドッグ』

『ブラックドッグ』
©2024 The Seventh Art Pictures (Shanghai)Co., Ltd. All Rights reserved

孤独な魂が共鳴する一人と一匹。いぶし銀のチャイナ・ノワール

男の横に慣れた様子で犬が乗り込んだサイドカー。見つめ合う一人と一匹は、どこかユーモラスでシュールだが、“孤高の2人”なんて言葉も頭をよぎる。荒涼としながら、そこはかとなく詩情が流れる映像も大きな魅力。まさに辺境の地だが、経済成長期の濁流が背景で音を立ててうねるよう。見たことのない中国を体感できる、見開いた目が吸い寄せられる強烈な磁力を湛えた一作だ。

’08 年、北京オリンピック開催間近の中国。刑期を終えて出所した青年ランが、ゴビ砂漠の端にある寂れた故郷に戻ってくる。だが実家に父親の姿はなく、ランに恨みを持つ一族からは「絶対に許さない」と脅しを受ける。廃墟が目立つ町には、捨てられた犬たちが野生化して群れをなしている。なぜかランを常に気にかけてくれる警官から、野犬を捕獲する仕事を与えられた彼は、絶対に人間に捕まらないため、その首に賞金がかけられた一匹の痩せた黒い犬と出会う。いつしか、その犬との間に絆が芽生え始め——。

ランが過去、何をしていてどんな罪で服役したのか、なかなか明かされない。しかもラン自身がほとんど言葉を発しないため、心の内も置かれた状況も推して知るしかない。やがて少しずつ、執拗につきまとう男たちは、ランが死に至らしめた被害者の遺族であることがわかってくる。けれど、なぜ彼らの暴力や執拗な嫌がらせにもさして抵抗せず甘んじるのか。少々不可解に思いながら目が離せない。ランが黒い犬をかくまうのは、人間に執拗に追われる孤高の犬に、自分の境遇を重ねるからか。最初は警戒心たっぷりだった黒い犬が、ランに寄りかかるように首をのせる瞬間、その体温が伝播するように、少し悲しみ混じりのままに私たちの胸もポッと温かくなる。果たしてランは、規則を破ってかくまう黒い犬を守り切れるのか、常に喧嘩腰の遺族とどう折り合いをつけるのか。

荒涼とした砂漠、廃墟と野犬集団、砂埃まみれの町のくたびれた様子、町外れの動物園。それを横目にたくさんのダンプが行き交う。オリンピックを目前に着々と開発され、区画整理のため人々が流出していった、その残骸のような朽ちかけた町。そこからも締め出されかけた物言わぬランと黒い犬が、互いのために命も投げ出す姿、そこに透ける“美学”のようなものに、胸を突かれて切なくなる。薄くユーモアを醸してランを演じるのは、数々の大ヒット作でアクションヒーローを演じてきたスター俳優、エディ・ポン。’24 年のカンヌ国際映画祭「ある視点部門」グランプリと、優れた演技をした犬に贈られる“パルムドッグ審査員賞”を受賞した本作。日本でも有名なジャ・ジャンクー監督が、野犬捕獲隊長役で出演。本作の監督はジャンクーと同じ中国第6世代グァン・フー。激動の時代を不器用に、だが美学を曲げずに駆け抜ける一人と一匹の運命は、どこか滑稽で悲しくも粛々として美しい。この世界に生きるもの、すべてが愛おしい!

9月19日よりシネマカリテほか全国にて順次公開

公式サイト

『遠い山なみの光』

『遠い山なみの光』
©2025 A Pale View of Hills Film Partners

長崎からイギリスへ。3人の女を巡るヒューマン・ミステリー

カズオ・イシグロの長編デビュー作を、『ある男』の石川慶が映画化。作家を目指す娘に乞われ、戦後の長崎からイギリスへ渡った悦子(吉田羊)は、昔の記憶を手繰り寄せる。’50年代長崎。妊娠中の悦子(広瀬すず)は夫(松下洸平)と団地暮らし。幼い女の子を連れたミステリアスな佐知子(二階堂ふみ)と知り合い、ひと夏を親しく過ごす。だがその思い出は少しずつ辻褄が合わなくなっていく。’50年代の長崎と’80年代のイギリス。2つの時代と場所、3人の女性が織りなすドラマの秘めた謎、ある予感に鼓動を速めながら魅せられる。怖くもあり、リアルでもあり、感情が揺さぶられる。

TOHOシネマズ日比谷ほかで公開中

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『ふつうの子ども』

『ふつうの子ども』
©︎2025「ふつうの子ども」製作委員会

いつでも“好き”に本気で一直線。子どもたちが巻き起こす大騒動

小学4年、10歳の唯士はいたって普通の男の子。同じクラスの心愛が環境問題を訴える作文を発表し、先生に食ってかかる姿に見惚れた唯士は、環境に興味があるフリで心愛に近づく。ところが心愛は、少し乱暴な問題児・陽斗に惹かれているようだ。3人は〝環境保護活動〞を始めるが、想定外の事態を引き起こし——。大人びた少女と、対照的だがわかりやすい少年2人の言動や生態がリアルでおかしく、クスクス笑い必至。ドラマ『それでも俺は、妻としたい』の嶋田鉄太が抜群のすっとぼけ感で唯士を演じる。共演に蒼井優、風間俊介ほか。監督は『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の呉美保。

テアトル新宿ほかで公開中

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配信 CINEMA&DRAMA

『ダーク』

『ダーク』

難解! この振り回され感、クセになる!

’19年、ドイツの原子炉がある小さな田舎町ヴィンデンで、子どもの連続失踪事件が起き、警察官ウルリッヒの息子も消える。実は33年前にも、ウルリッヒの弟が失踪したまま見つからずにいた——。町に住む4家族を中心に、何世代にもわたる恋や愛憎が絡みつく因縁や運命が、時間軸を交錯させて描かれる。シーズン2になると時間軸がさらに錯綜。シーズン3では、まさかの……。既存のタイムトラベルやパラレルワールドの〝お約束事〞を軽く覆し、観る者を翻弄。その難解さに頭がクラクラしつつ、激しく夢中に。

Netflixシリーズ『ダーク』シーズン1~3独占配信中

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Staff Credit

イラストレーション/SAITOE
こちらは2025年LEE10月号(9/5発売)『カルチャーナビ』に掲載の記事です。

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