当たり前にスキンケアや脱毛する令和の中高生男子たち。そして息子に影響され、無頓着だった父親世代もどんどんキレイに!?【『父と息子のスキンケア』高殿円さんインタビュー】
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佐々木はる菜
2025.08.17
当たり前にスキンケアを始める、令和男子たち
少し前まで平気で寝ぐせだらけのまま学校に行っていた我が家の長男ですが、中学に入った頃から、髪の毛を濡らしドライヤーをかけてから登校するようになりました。
「洗顔後に、何かつけた方がいいの?」「ブラシってどうやって使うの?」といった質問も増え、そんな変化を興味深く見つめていた時に出会ったのが、今回ご紹介する『父と息子のスキンケア』でした。

この本を読んで初めて知ったのですが、実は日本は「男性のスキンケア後進国」で、男性の化粧水使用率はたった2割!しかもその多くが若者という状況です。
そんな中で突然スキンケアに目覚めたのが、著者である高殿円さんの「これまでスキンケアに無縁だったアラフィフの夫」。当たり前に保湿や脱毛をする高校生の息子さんに影響され、やり方を教わり、ふたりはみるみるうちに綺麗になっていきます。
男性向けの美容情報を目にする機会は増えていましたが、これまではどこか「若者たちの話」「自分には関係ない世界のこと」だと捉えていました。
でも当然のようにスキンケアをする今どき男子たちの姿は、最近の我が子の様子にも重なります。実はこの時代の流れや変化は、自分たちにも深く関係がある話なのだとハッとさせられることばかりでした。
美容という枠を超え、日々の暮らしや子育てのヒントがたくさん詰まっている本作。著者である高殿円さんに、お話を伺ってきました!

お話を伺ったのは……
高殿円(たかどの・まどか)さん
MADOKA TAKADONO
作家
兵庫県生まれ。現代物から歴史物、ファンタジー、ノンフィクションまで卓越したストーリーテリングと多彩な作風で人気を博す。著書に『トッカン 特別国税徴収官』をはじめとする〈トッカン〉シリーズ(早川書房刊)、『グランドシャトー』(第11回大阪ほんま本大賞受賞)、『忘らるる物語』(第23回センス・オブ・ジェンダー賞受賞)など多数。2024年に自主制作で出版したルポエッセイ『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』も話題となる。
どんどんきれいになる、高校生息子とアラフィフ夫
ある日、高殿さんが帰宅すると、静かな家の中で洗面所からひそひそ声が……。
そこで目撃したのが、高殿さんの高級化粧水を試す「父と息子」の姿だった!という始まり、そしてふたりのなんだか楽しそうな様子がとても印象的でした。

「うちの息子は決して世に言う『キラキラ男子』ではありませんが、当たり前にスキンケアや脱毛をし、眉毛を整え、汗・体臭のコントロールをしています。
そしてその姿を見ていた『おじさん』まできれいになってきた。
私も日頃から自分をケアしているわけですが、妻と25年一緒にいても気づかなかったことに、息子相手ならば気づくのはなんでだろう……と興味深く思ったことが出発点です」
ご自宅の洗面所で始まったリサーチは、大手化粧品会社や男性向け美容クリニックから社会学の教授への取材、さらには出版社のメンズ社員を巻き込んだ「スキンケア実証実験」にまで広がっていき、まるで目の離せないドラマの様な展開でした。
今の中高生男子たちにとって、スキンケアや脱毛は「普通のこと」
私がまず驚いたのが、今の中高生の男の子たちは教室で普通にスキンケアや脱毛について情報交換をしている、という実態です。
「男子校に通う息子から『家庭用脱毛器が欲しい』と言われた時、最初は少しびっくりしました。でも体育の着替え時などに自然と毛の話になり、クラスメイトをきっかけに興味を持った脱毛を試すという流れは、時代の変化は感じるものの納得できます。
もともと今の若い世代は、小さい頃から日焼け対策などのケア習慣が自然と身についていますよね。その中で熱心にスポーツをしている子が練習や試合時などの快適さや利便性のため脱毛を始め、だんだんそれが当たり前になっていったのかなと感じています」
確かに私の周りの中高生男子ママたちに聞いた際も「部活でプロテクターをつける時に足の毛が絡まって痛いから脱毛したいなど、ごく普通の男の子たちがやっている」と話していたことが印象に残っています。
父も息子も同じ「スキンケア初心者」
もうひとつの新たな気づきが、「スキンケアは家族間の『新しいコミュニケーション』になるかもしれない」ということ。
文中に出てくる「父と息子」のやりとりや、おふたりが高殿さんから美容について教えてもらう様子は微笑ましく、ご家庭の温かな雰囲気が伝わってきました。
「夫はスキンケアによって自分が変化していくことを楽しんではいますが、一番の喜びは『息子と一緒にやる』ことなのだと思います。
息子が小さい頃は常に一緒におでかけしてたくさんの時間を共有していましたが、思春期に入ると自分だけの世界が増えていく。当然の成長ですが、やはり父としては少し寂しい。
そんな中で私と息子が急にスキンケアや脱毛器の使い方などについて話し始めた。そこで自分も参加してみたら、情報交換や相談などで自然と会話が増え、一緒に買い物へ行くきっかけにもなる。親子で年齢は違えど、ふたりはいわば同じ『スキンケア初心者同士』という共通点ができたわけです」
思春期入口の息子との新たなコミュニケーションの糸口となるのは、「母」である私にとっても同じ。我が家もまずはみんなでスキンケアについて話してみたいと、ちょっとわくわくしました。
高殿さんが息子さんに最初に教えた「スキンケア」って?
また、私が是非見習いたいと思ったのが、高殿さんの息子さんへの接し方です。
汗っかきな息子さんのため、まずは中学に入った頃に体臭コントロールグッズや使い方などをレクチャー。いつしか体臭予防、制服の襟を固形石けんで洗うこと、服のリセッシュを自然とするようになったそうですが、これをきちんとできる男子は絶対ポイント高い!
そして息子さんが高校生になった頃、本人もパニックになるほど急激にニキビが増加したことで、さらにスキンケアと真剣に向き合うように。
皮膚科にも通い、時に反発されながらも日々のケアについて地道に伝え続け、1年半ほどかけて今ではすっかりきれいになったそう。冒頭の洗面所のやりとりから『父と息子のスキンケア』が始まったのも、ちょうどそんな時期だったといいます。
愛を持って「自分でやらせる姿勢」、見習いたい!
ただ、親の言うことを素直に聞かなくなるのも思春期男子の特徴。一連のセルフケアについてどのように伝えていったのでしょうか。
「いずれ大学に入ったら家から出すことは決めていたので、なんでも身の回りの事は自分でできるようにと考え、最初に汗やにおいのケアを教えました。
ちなみにスキンケアとは直接関係ないですが、我が家では中高6年間のお弁当も息子に自分で作ってもらっています。お弁当ってまだ女性が作るイメージが強いと思うのですが、彼が社会に出る頃は、もうそんな時代じゃないはず。その時に自分のことを誰かにやってもらうのが当然と思っていては大変。自分のことを自分でできるようにしておくことが、結局本人のためになると思うんです」
もともと「子どもとお金の話もきちんとする」という方針だという高殿家。
息子さんが小学校6年生頃からは、自分が食べているものの値段を知ってもらうため、スーパーへの買い出しは男性陣に任せるようにしたそう。
お金を使いすぎたり買い間違えたりと失敗もたくさんあり、その試行錯誤を発信した高殿さんのSNSは、当時かなり話題を集めていました。
中学受験時には学費についてもきちんと言及。私立の中高一貫校に通うにあたって親もこれだけ頑張るから、給食がないため必要となるお弁当は息子さん自身で担当するということに。
でも「子どもに自分でやらせる」といっても、最初は絶対に親のフォローが必要です。
現在進行形で中1男子を育てているからこそ、それを成し遂げた息子さんも高殿さんもすごい!と心底尊敬しました。
そしてスキンケアについても、息子さんの様子をよく観察している高殿さん。
例えば当初「シートパックが面倒」と言っていた息子さんに、パック中だけYouTubeやスマホOKというルールを作り楽しめるようにする。夏場は化粧品がべたついて嫌そうだったため「細かいスプレータイプの霧吹きに化粧水を入れ、気持ち良く使えるようにした」など、「自分で自分のケアができるようになる」ため、絶妙なサポートをされていると感じます。

私自身は、子どもたちに対してつい先回りしてしまいがち。自分がやった方が早いし、ラクだという思いが根底にあるのだと思います。
でも高殿さんが実践されているように、多少手間がかかっても子ども自身に挑戦させ、失敗も温かく見守りながら、必要な時にはそっとフォローする――そんな姿勢には、学ぶことがたくさんありました。
スキンケアをする力は「自分のことを自分でする力」
文中で心に残った「息をするように自分をケアできる世代」という言葉。
今の若い世代にとって「スキンケア」は、それぞれの日々の暮らしをより心地良くするために必要な、自然な行為であるという印象を受けました。
年齢や性別に関係なく、自分に合ったスキンケアができる力は、結果的に「自分を大切にする力」にもつながる。
もちろん何をどれだけやるかは個人の自由ですが、「セルフケアは自分のためになる」ということを、我が子たちにも少しずつ伝えていきたいと思っています。

そして全編を通じて強く感じるのが、いわゆる「おじさん」世代の方々へ向けられる、高殿さんの温かな眼差しでした。
若い世代にとっては当たり前の「スキンケア」。でも今のおじさん世代は、これまでの日本の社会状況も大きな要因となってそんな習慣がない方が多く、世界と比べ現在の日本は「男性のスキンケア後進国」です。
専門家への取材などを通じて、その背景にある歴史や格差、ジェンダー、ジェネレーションギャップと多様な視点で社会問題にまで迫っており、取材先での勢いあるやりとりや、その様子を生き生きと描く軽快な語り口に、思わず声を上げて笑ってしまうこともありました。
スキンケアとは、つまるところ「自分を大切にする習慣」。
『父と息子のスキンケア』は、より良い社会を作るきっかけになるかもしれない……読み終える頃には、そんな目の覚めるような気づきがありました。
高殿さんからLEE読者へのメッセージ!
子育て、介護……さまざまな「ケア」をしているLEE世代は強い!

人気作家として第一線で活躍されながら、母として妻として日常の気づきも大切に発信を続けられている高殿さん。
最後に、家事・育児・仕事と多忙な日々を送るLEE世代に向けてメッセージをお願いしました。
「今回、改めて『ケア』というものに真正面から向き合いました。
私自身はLEE世代より少し年上ですが、皆さんは子育てや介護、職場での責任など、まさに誰かのケアを担う真っ只中にいる時期。私自身も自分の病気や家族の介護経験などを通して、『なんで私だけ?』『もっと楽になりたい』と思ったことが何度もあり、きっと今そんな思いを持っている方もいらっしゃると思います。
ケアについてたくさん取材を重ねて確信したのは、『ケアができる人は、他人に優しくできる人で、最終的に一番強い』ということ。これから日本では少子化や医療、介護などケア問題にますます注目が集まると思いますが、LEE読者の皆さんは、もうすでにその力を持っている方たちです。
ケアって目には見えない『心の筋肉』を育てているようなもの。誰かのために力を注いだ経験は自分の中に積み重なっていくし、必ず誰かが見ています。その力は人生を支える土台となり、将来きっと自分を助けてくれます。
誰かのケアをできる自分を誇りに思ってほしい。
そして、ついつい自分を後回しにしがちだと思いますが、その『ケアの力』を少しでも自分のためにも使ってあげてほしい。皆さんのことを心から応援しつつ、そんな風に願っています」
書籍情報

『父と息子のスキンケア』(ハヤカワ新書) 高殿 円(著)
最近なんだか、夫がきれいだ。『トッカン』シリーズの人気作家による令和の美容&家族ルポ!
ある日の洗面所で私は目撃した――アラフィフの夫が、高校生の息子と一緒に化粧水をつけている!これまで肌のお手入れとは無縁だったのに、どうして?大手化粧品会社や社会学者にも取材し解き明かす中年男性の深層心理と、スキンケアがもつ無限の可能性。
Staff Credit
撮影/山崎ユミ
佐々木はる菜 Halna Sasaki
ライター
1983年東京都生まれ。小学生兄妹の母。夫の海外転勤に伴い2022年からの2年間をブラジル、アルゼンチンで過ごす。暮らし・子育てや通信社での海外ルポなど幅広く執筆中。出産離職や海外転勤など自身の経験から「女性の生き方」にまつわる発信がライフワークで著書にKindle『今こそ!フリーランスママ入門』。
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