私のウェルネスを探して/伊藤亜和さんインタビュー後編
【伊藤亜和さん】近日結婚予定。10年会っていない父親を結婚式に呼ぶかどうかは「大問題ですね」
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LEE編集部
2025.07.09

引き続き、文筆家の伊藤亜和さんに話を聞きます。取材後の撮影は、伊藤さんが生まれ育った横浜の山下公園で行われました。咲き誇る花々と新緑がまぶしい公園をゆったりと歩く姿は、まるで絵画のような美しさです。「自分の顔で一番好きなところは?」という質問に「目かなあ」と伊藤さん。大きな瞳に映る横浜の景色、この景色を見ながら28歳までをこの場所で過ごしました。
後半では、幼少期のエピソードや孤独で「死にたかった」という高校時代、サークル仲間と親交を深めた大学時代について聞きます。また今年婚約したお相手や理想の家庭像、今後チャレンジしてみたいことについても伺いました。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む)
子どもの頃の憧れの職業は警察官とバンドマン。作家は別にカッコよくないのでなりたいと思わなかった
伊藤さんは横浜市生まれ。セネガル人の父と日本人の母を持ち、7歳下に弟がおり、母方の祖父母が近くに住む環境で育ちました。中学生の時に両親が離婚し、家族3人暮らしに。幼少期は静かで大人しい、友達が少ないタイプだったと言います。
「物静かで植物っぽいというか。両親の喧嘩が多かった時期があって、喧嘩が始まると私は一人でベランダに出て喧嘩が終わるのを爪をかじって待っていました。話の内容が気になるので、聞き耳を立てながら。おばあちゃんは私のことを“人の話をじっと聞いている子だった”と言っていました」

小さい頃に憧れていた職業は警察官とバンドマン。見た目のかっこよさや、知らない世界を生きる人の話を聞きたかったから興味を持ったそうです。
「警察官だけでなく、刑務官にもなりたかったです。道を外れてしまった人と話をしてみたかったんですよね。警察のドキュメンタリー番組はつい見てしまうし、裁判の傍聴にも興味がありました。バンドマンは目立ちたいという浅はかな欲望 からです。ギターやベースではなく、フロントのボーカルがやりたかった。一度友達と“バンドやろうぜ”と盛り上がったのに、お互いボーカルがやりたくて揉めて一度も集まらないまま解散しました(笑)。人と関わる仕事がしたい気持ちと、自分がその仕事に就いた時にカッコいいのかという視点で考えたので、作家は別にカッコよくないのでなりたいと思いませんでした。中身というより視覚的な部分で憧れていたと思います」

中学時代は吹奏楽部に所属しますが、中学2年の時に就いた新しい部の顧問と相性が合わず、そのトラウマから高校は帰宅部 に。ここから苦しい高校生活が始まります。
「部活での折り合いが悪かったことで、もう集団行動したくないと思って帰宅部にしました。そうしたら本当に一人も友達がいなくて、毎日とても苦しくて。死にたいと思っていました。ただただ孤独だったんです。自分から友達を作ろうと動くこともできなかったし、変にまわりをバカにしたところもあったし。それでもどこかで“仲良くなりたい”という気持ちがあり、その間で苦しんでいましたね。“なぜみんなと同じようにできないんだろう”と悩んだし、周りからも“なんで元気がないの?”と言われて。今でもそうなのですが、一方的に“かわいいね”とか“SNS面白いね”と言われても、私は相手のことを何も知らないので共通の話題がない。それに孤独を感じるんです」
大学時代の男友達は、相手を尊重した上で「ひどい」やり取りをする面白さが成立する貴重な存在
大学に進学すると一転、サークルに入り友達ができて楽しい学校生活に。しかし女子の友達は少なく、男子が圧倒的に多かったそうです。
「実は、女の子と仲良くする方法が今もよく分からないんです。共感力のない母に育てられた影響 もあると思いますが、男兄弟だし従兄弟もみんな男だったからかもしれません。よく覚えているのが、中学生の時に“一緒にトイレに行こう”と言われて、“なんで一緒にトイレに行かなきゃいけないの?”って言ったら、それ以降話しかけてくれなくなりました。他にも“なんでこんな短い距離なのに日傘を差してんの?”って言ったら、しょんぼりされたこともあります」



男子の友人の悪ふざけやノリは“思いやりに欠ける”面がありつつも、気遣いが必要な女子との付き合いより圧倒的に居心地が良かったと言います。
「大学では同じサークルの男子とほぼ一緒にいました。サークルの友達は、みんなすごくひどいんです、ちゃんとひどい。一度サークルのSNSで私のことを“黒人”と書いた奴がいて炎上しかけたのですが(笑)。ただまあ、相手を尊重した上でそういったやり取りをする面白さが成立するのは貴重だと思います。世の中がきれいになるのに越したことはありませんが、それを真に受けて込み入ったところも四角四面になってしまってはだめだと思います。同じ言葉でも、関係性によって持つ力が全然変わってくるので」
近日結婚予定。式場のホテルニューグランドは、私のおばあちゃんが掃除婦をしていた場所。今度はゲストとして楽しんでほしい
今年の10月で29歳になる伊藤さん。結婚は早くしたかったそうで、理想は母親が結婚した22歳での結婚でした。そこから7年過ぎましたが、今年婚約し近日結婚予定。撮影した山下公園そばのホテルニューグランドで式を挙げる予定だそうです。
「私は母の22歳の誕生日に生まれた子です。だから私も22歳くらいで結婚すると思っていたら、変な男に引っかかって結婚できませんでした。結婚願望はあったものの、年齢はどんどん上がっていくのに自分の精神年齢と生活力が伴わないことで精神が不安定になっていました。今やっと人並みに生活ができるようになってパートナーとも出会って。欲しかったものが自分のところに来て、やっと今世にも希望が見えました。ちなみにホテルニューグランドは、私のおばあちゃんが掃除婦をしていた場所。それもあって式を挙げたかった思い入れのある場所です。おばあちゃんはすごく苦労人だったので、今度はゲストとして楽しんでほしいなと思います」

結婚相手は、『アワヨンベは大丈夫』(晶文社)の「陽だまりの季節」にも登場した“みーちゃん”。「これまで付き合った人は喋る人が多くて話を聞くことが多かったのですが、彼はものすごく静かな人。初めて自分がよくしゃべるようになりました」と伊藤さん。理想の家庭像は“会話のある家庭”です。
「私の家族は、おばあちゃんはよく喋るのですが、それに対して家族の反応がなくて会話にならない。飛んできたボールを誰もキャッチしないんですよ。“家族を大事に思っている”と言葉で伝えることもなく、心配という名の罵倒が普通でしたから。アルバイト先だった飲食店に来ていた家族や彼の家族を見て“家族って普通に喋るんだ”と知りました。彼のお姉さんが自分の娘に“大好きだよ”と言っているのを聞いて、すごく動揺してしまって、 “自分にこれができるだろうか”と不安になりましたが、伊藤家で唯一外部の人間とコミュニケーションに成功した人間として自負もあるので、自分はできなくはない!と信じています。きちんと相手を想う、会話がある家庭にしたいです」
10年会っていない父親を結婚式に呼ぶか否かは「大問題ですね」
結婚式に10年会っていない父親を呼ぶかどうかは「大問題ですね」と伊藤さん。会えてはいないものの父親の存在は大きく、心を寄せ続けています。
「父が母に“亜和は今何をやっているんだ”と探りを入れていたようですが、私のどこまでを知っているかは分かりません。ただ自分の娘が書いた本が出ていると知ったら、内容はともかく嬉しいんじゃないかと思います。もし私が書いた本を見つけても、父は日本語が読めないので何が書いてあるかは分からないんですけどね。

父とずっと会えていない理由は怖いからです。ただ、どんな人も100%良い人っていないですよね。父から受けたことは良いことも悪いこともあって、それを全部吸収する必要はなくて、いいところ取りをしたいです。父が“アワヨンベ! すごい!”と褒めてくれた言葉は今も覚えています。父は言語化して褒めてくれるタイプだったのですが、それが私の中で蓄えた水のように残っています」
コント番組に出てみたい。文筆家で真面目なキャラでありつつも、ずっと“こいつ何をやってるんだろう”と思われ続けたい
文筆家としての現在連載を4本抱え、11月には新刊を出版予定。活躍の場がますます広がる伊藤さんがこれから挑戦したいこととは。

「コント番組に出たいんです、コントをやる側で。シソンヌや空気階段のコントが好きです。じろうさんのおばさんが好きだし、おじさんもいいですよね。青森のおじさんも好きです。歩く時に手が先に出ちゃっているのが面白くて(笑)。さらに言うなら、NHKのコント番組『LIFE!』に出たいです。文筆家で真面目なキャラでありつつも、ずっと“こいつ何をやってるんだろう”と思われ続けたいです。私は笑い上戸でゲラだから、コントでニヤニヤしちゃうからだめかなあ。とにかく、なんでもやるのでコントに出たいです。みなさん、よろしくお願いします(笑)」
My wellness journey
伊藤亜和さんに聞きました
心と体のウェルネスのためにしていること
「断定しないこと、極論で片付けないこと。考え続けることでバランスを取ることかなと思います。最近は、極論を言ったほうが早いしフォロワーも増えるのですが、一時的にはいいんでしょうが長い目で見たら自分のことを苦しめるんじゃないか、引っ込みがつかなくなるんじゃないかと思います。自分にとっての健康的な状態を保つために、結論を急がず考え続けることがウェルネスになると思います」
インタビュー前編はこちらから読めます

Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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