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映画『入国審査』どこに真実があるのか? 観客を翻弄する心理サスペンス。他3本
2025.07.25
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CINEMA
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Navigator
折田千鶴子さん
映画ライター
うちの黒猫兄妹。おっとりオトボケな兄は、気位が高く超臆病な小さな妹に常にやりこめられてます。
『入国審査』

どこに真実があるのか? 観客を翻弄する心理サスペンス
終始ハラハラと凝視し、その間に自分の予測や考えが二転三転、何度もひっくり返る。ほぼ密室で繰り広げられるミニマムな設定ながら、背景には“今の世界”が映り込む。まさに映画の醍醐味に満ちているが、どう紹介すればよいのやらと頭を抱える。なぜなら何も知らずに観たほうが、より自分にはね返ってくるだろうから。だからネタバレにかすらずに、どうにかおもしろさを抽出したい。
グリーンカードの抽選で移住ビザに当選したエレナは、事実婚相手のディエゴとともに、バルセロナからニューヨークの空港に降り立つ。必要書類に記入を済ませ、入国審査の列に並んだ2人は、新天地での生活に期待を膨らませていた。ところが何やら雲行きが怪しい。2人をジロジロ見ながらパスポートをチェックした後、職員は2人を別フロアに連れていく。乗り継ぎの待ち時間でニューヨークに住む兄と会う約束をしていたディエゴは急いで連絡をしようとするが、携帯使用も禁じられる。水も飲ませてもらえず、長く待たされた挙げ句に小さな部屋に連れていかれると、審査官にスーツケースの中身を調べられ、警察犬に匂いをかがれ、まるで何かの容疑者扱い。不満をぶつけるエレナに審査官は「これは尋問よ!」と厳しく宣告する。やがて審査官は、エレナが知らなかったディエゴの過去について質問し始め、エレナはショックを隠せない。次に別々に尋問すると言われ、ひとり部屋に残されたディエゴの前に、新たな男性審査官が加わる——。
きっと多くの人が旅行や出張の際、入国審査で緊張したり、意地悪な質問をされた経験があるだろう。だから最初は“いい人にしか見えない”2人を気の毒だと眺め、共感を覚えるハズだ。ところが尋問の様子を眺めるうち、「何かあるかも」とうっすら思う。同時に、即座に家族や出自、過去の生活、恋人や友人関係まで詳細に調べがつくことに驚き、慄く。やがてディエゴの過去が暴かれると、「確かに怪しい」と思わずにいられない。そうなるとすべてが疑わしく見えてくる。果たして尋問の行方は、それが炙り出す真実は、そして2人の関係はどうなる——!?
わずか17日間の撮影、65万ドル(1億円弱)という低予算で、こんなにも心臓をギュッとつかむ心理サスペンスを作り得るとは。2人の共同監督はともにベネズエラ出身、スペインで活躍する新鋭で、これがデビュー作にして世界中の映画祭で数々の賞に輝いた。しかも本作は、監督の実体験から着想されたものだという。なるほど、とりわけ今のご時世、私たち日本人をはじめ誰にとっても、とても他人事とは思えない。そんな客観的な視点で語るにとどまらず、本作のスゴさは、私たちの中に巣くう安易な思い込みや、小さな材料が加わるだけでいかにたやすく判断や見方を変えるのかと、自身の見る目のなさや浅はかさも突きつけること。それがグッと胸に差し込み、息もつかせぬおもしろさに驚嘆すると同時に、苦い後味も刻印する。
8月1日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
『顔を捨てた男』

気鋭の映画スタジオA24が放つ不穏かつ衝撃的な不条理スリラー
顔が極端に変形した俳優志望のエドワードは、新薬による実験的な治療を受け、新しい顔を手に入れる。別人として人生を謳歌しはじめたエドワードの前に、かつての自分と同じように変形した顔の男オズワルドが現れる。快活で人生を楽しみ、周囲からもリスペクトされている彼に、エドワードは強烈な嫉妬を覚え始め——。理想の自分とは? アイデンティティはどこに? こんな映画観たことないと、思わずギャフンとなる異色作。『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』で高く評価されたセバスチャン・スタンが、本作でベルリン国際映画祭・最優秀主演俳優賞(銀熊賞)受賞。
7月11日より全国公開
『私たちが光と想うすべて』

LES FILMS FAUVES-ARTE FRANCE CINÉMA-2024
インド映画として初。2024年のカンヌ国際映画祭グランプリ受賞
大都会ムンバイ。看護師のプラバとアヌはルームメイトだが、性格は対照的でどこか距離がある。まじめなプラバは外国で働く夫(親が勝手に決めた)から連絡が途絶え、宙ぶらりん状態。陽気なアヌはイスラム教徒の恋人がいるが、見合いを迫る家族には秘密。そんな折、病院で働く同僚が立ち退きを迫られ田舎に帰ることに。ひとりで生きていくという彼女のため、2人は故郷の海辺の村へ見送りの旅に出る。慣習や経済状況や宗教など、自分らしく生きようとする彼女たちの前に立ちはだかる数々の壁。価値観や状況が違っても共鳴し合う彼女たちの友情を、詩的で美しい映像で描き出す。
7月25日より全国順次公開
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配信 DOCUMENTARY
『教えて? ネコのココロ』

頬をゆるめつつ、ネコの真実に感心、驚嘆!
今、最も視聴されるのはネコ動画という。そんなネコの人気の秘密や歴史を紐解きながら、多くの人が疑問に思ってきたネコの謎に迫ったドキュメンタリー。とりわけ驚くのは国民性の違いと同様に、ネコの性格も暮らす土地の文化によって異なるということ。アメリカと日本のネコの違いなど、いろんな実験に目からうろこが落ちると同時に、「うちの子も!」と言いたくなるハズ。そして誰もが知りたいこと——果たしてネコは人間を、飼い主をどんなふうに認識し、本当に愛しているのか。それは、観てのお楽しみ!
Netflix映画『教えて? ネコのココロ』独占配信中
Staff Credit
イラストレーション/SAITOE
こちらは2025年LEE8・9月合併号(7/7発売)『カルチャーナビ』に掲載の記事です。
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