二宮和也、町屋良平、榎本美沙
【今月おすすめの本】吉本ばなな『ヨシモトオノ』二宮和也『独断と偏見』他2編
2025.08.22
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石井絵里さん
ライター
大阪・関西万博に行きました。公式キャラのミャクミャクが好きになり、帰ってからLINEスタンプを購入。連打しまくっています!
『ヨシモトオノ』
吉本ばなな ¥1760/文藝春秋
ゾクゾクする話の中に、生の希望を提示してくれる、美しい怪談集!

暑い日々が続くと触れたくなるもの。それは“不思議な話”です。昭和末期から平成にかけて子ども時代を過ごした私にとって、夏休みの昼間といえば、怪談ドラマ『あなたの知らない世界』。そうめんをすすり、麦茶を飲みながら、理屈を超えたストーリーに震えていました。一緒に見ている妹に、ビビりだと思われたくなくて、「作り話だし」とイキってたな……。そして大学生になり、学校の図書館で見つけたのが、明治から昭和にかけて活躍した民俗学者・柳田国男の『遠野物語』。岩手県の遠野地方に伝わる、河童、天狗、神隠しなどの伝承を紹介していく1冊で、ウソかマコトかわからぬ世界観にすっかり魅せられ……。卒論も『不思議な話の変遷』をテーマにしました。
さて、その“不思議な話”ジャンルを、いろんな角度から書いている現代作家といえば、吉本ばななさんなのではないかと思っております。最新刊『ヨシモトオノ』は、『遠野物語』が下敷きになっている短編作品集。日常の中に現れる世界の裂け目を描いた、ちょっと怖くて不思議な話がいっぱい。一話完結の物語に登場するのは、若者から中年までさまざまな人たち。旅先の体験、大学の同級生の失踪譚、また、ばななさんらしき小説家が、記憶を手繰り寄せながら、人の深層心理と現実との関係について考察する一文も。どのお話もゾワゾワするものの、読後は希望が残るのが特徴。生きるって不条理な出来事も多いし、人間っていろんな欲や雑念にまみれてるけど、そんなに悪くない、と思えます。そう、どこか未来を感じさせる読後感こそ、私が“不思議な物語”ジャンルに惹かれる理由かも。
都会に住み、便利なものに囲まれている私の暮らしの周りには、不思議要素はゼロ。さらに「考えや発言の解像度を上げなきゃ」と思いがちだけど、そんなに何もかも、クリアにしなくてもいいはず。そして恐怖や畏れは悪い感情じゃない。なんて気持ちも湧いてきました。大人のための奥深い怪談。夏の読書のお供にぜひどうぞ!
『独断と偏見』
二宮和也 ¥1100/集英社(集英社新書)

嵐の二宮和也さんが100の質問に答える1冊。個人事務所を設立して気づいたことは? 人を見る目に自信はある? など、仕事への思いや、周りとのかかわり方などを「心機一転」「適材適所」といった四字熟語をキーワードに紹介していく。二宮さんらしい、飾らない語り口調が読みやすく、メッセージが伝わってくる。エンタメの最前線で活躍する40代の「今」に触れて!
『生活』
町屋良平 ¥3300/新潮社

編集者の母親と小説家の父親のもとに生まれ育ち、料理や洗濯、掃除などの家事が大好きな青年・椿。出世や競争には興味がない。友人たちとのやり取り、いくつかの恋愛を繰り返して過ぎていく彼の日々は、人としてリアルな暮らしなのか、それとも虚構なのか――。椿の言動を追いながら、ライフスタイルとは何なのか? さらに働くことの意味も考えてしまう長編小説。
『毎日、水キムチ いちばん手軽な乳酸発酵』
榎本美沙 ¥1650/文化出版局

LEEでも人気の料理家・榎本美沙さん最新刊。米のとぎ汁を殺菌し、野菜などを入れて発酵させる水キムチ。乳酸菌たっぷりでおなかの調子を整えてくれる漬物の、レシピ集。基本の作り方はもちろん、「豚肉と水キムチのしょうゆ炒め」など、アレンジ料理の紹介も。塩分も少なめ、サラダ感覚で味わうことができる常備菜として、家族の食卓が充実すること間違いなし。
Staff Credit
イラストレーション/SAITOE
こちらは2025年LEE8・9月合併号(7/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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