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CULTURE NAVI「今月の人」

出演・制作を務めた映画『夏の砂の上』は全国ロードショー中

【オダギリジョーさんインタビュー】「自分がこれまでに培った経験を隠し味として本作に注ぎました」

2025.07.12

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カルチャーナビ : 今月の人・今月の情報

自分がこれまでに培った経験を隠し味として本作に注ぎました

オダギリジョーさん

オダギリジョーさん
ジャケット¥61600・シャツ¥49500/ヨウジヤマモト プレスルーム(S’YTE)

作家性の強い国内外の監督と信頼関係を築き、独自の路線を走り続けるオダギリジョーさん。近年は俳優のみならず監督やプロデューサーとして、より深く作品にかかわる姿勢が顕著です。主演映画『夏の砂の上』も脚本を読み終えた後、自ら共同プロデュースを買って出たといいます。

「脚本の素晴らしさはもちろん、既存の人気マンガやドラマの映画化ではない企画だったのが、とにかくうれしくて。作家性もあり世界で勝負できる映画を作るために、なにか自分にも手伝えることがあるのではないか。僕の経験や知識を利用してもらえたら、という気持ちからでした」

松田正隆さんの同名戯曲を、本作の玉田真也監督が、自身の劇団「玉田企画」で ’22年に上演。そして今度は、映画化を試みました。

「舞台表現ではなく映像にすることで、監督は新たに注ぎ込めるニュアンスや、表現の可能性をはっきりと感じたのではないでしょうか。現場でも挑戦を楽しまれていました」

シナリオ・ハンティングからオダギリさんも参加し、世界観の決め手となる土台作りに汗を流しました。

「長崎は人がやっと通れるような狭い坂や階段も多く、脚本にある“山にへばりつくように家が建っている”場所を探し回りました。長い坂を上らないと家にたどり着けない“画”は、視覚的にいやがおうにも進んで行くしかない主人公の心理に重なります。同時にカメラを切り返すと、風景が抜ける(見通せる)んです。奥に広がる海、そこには彼が働いていた造船所も見える。人生の苦しさと美しさを、同時に表現できると感じました」

オダギリさんが演じた治は、息子を喪って以来、心の時計が止まったまま。そこへ現れた姪と同居することで、ほんの少しずつ動き出します。乾いた夏の長崎に降り出す雨のように、感動がじわりと胸をぬらします。その素晴らしさを伝えるとオダギリさんは「今回は制作側でもあるので」と言葉を濁しますが……。

「でも、それを聞いて安心しました。大事なのは僕らがどう表現するかではなく、観客にどう映るか。役者の仕事は、立っているだけでも観客が感じられるくらい、しみ出すまで(演じる人物を自分の中で)埋めていくことなので。印象に残っているのは、妻役の松たか子さんが本作の最後に見せる表情。引きの画で振り向くだけですが、この映画でのベストショットだと思うほど素晴らしいものでした。まさに、しみ出てましたね」

現場でも主演のみならず、監督を強力に補佐していたと聞きます。

「監督がスムーズに仕事をできるよう心がけた程度ですよ。僕が力を注いだのは、実は仕上げ作業なんです。編集や音の作業に関しては自分の得意なところなので、いろいろアイデアを出し合いました」

今から10年ほど前にLEEのインタビューにて「中間管理職的な立ち位置になり、つらくもあり楽しくもあり」と語っていたオダギリさん。今の状況はいかがですか?

「また1歩進んで、ベテランの入口に立たされている気がします(苦笑)。中間管理職ではプロデューサーも無理だったでしょうし。できることが広がった分、責任も重くなりました。今は現場のチーフ・スタッフも皆同世代で、かつて僕らが怒られ、怖がっていた立場に立っているんだなと。でも今は怒鳴る人もなく、時代の変化も感じますけどね(笑)」

PROFILE

1976年2月16日、岡山県出身。『アカルイミライ』(’03年)で映画初主演。『ある船頭の話』(’19年)で長編映画初監督。近年の代表作に『658km、陽子の旅』『月』『サタデー・フィクション』(すべて’23年)ほか。テレビドラマに続き脚本/監督/編集/出演を務めた『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』が9月26日公開予定。
公式サイト:http://dongyu.co.jp/profile/joeodagiri

『夏の砂の上』

『夏の砂の上』
©2025 映画『夏の砂の上』製作委員会

雨が降らない夏の長崎。幼い息子を亡くした喪失感から抜け出せずにいる治(オダギリジョー)は、妻(松たか子)とも別居、造船所が潰れて仕事も失ったまま家でぶらぶらしている。そこへ妹(満島ひかり)が娘の優子(髙石あかり)を連れて現れ、しばらく娘を預ってくれと頼まれる。そうして治と17歳の姪の共同生活が始まった。監督は『そばかす』の玉田真也。全国ロードショー中。
映画『夏の砂の上』オフィシャルサイト


Staff Credit

撮影/木村 敦(Ajoite) ヘア&メイク/砂原由弥 スタイリスト/西村哲也 取材・文/折田千鶴子
こちらは2025年LEE8・9月合併号(7/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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