コロナ禍からはじまったダウンサイジングストーリー
【伊藤まさこさん 軽井沢の新しいおうち】「いらないものを知ることから家づくりが始まりました」
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@homeLEE 私らしく建てる、心地よく暮らす
2025.06.06
持ち物を見直すきっかけにも
伊藤まさこさん
軽井沢の新しいおうちとダウンサイジングストーリー
「ものを減らすことが目的ではなくて、ものを減らしたことで見えてくるすがすがしさや、豊かさに気づく自分でいたいですね」と伊藤さんは言います。
大事なのは、何を持つかではなく、どう暮らすか。そのお手本を、軽井沢の新居で見せていただきました。

伊藤まさこさん
スタイリスト
暮らしをベースにしたスタイリスト。「ほぼ日」とともに手がけるオンラインショップ「weeksdays」では、衣食住にまつわるオリジナルグッズやコラボ商品を紹介、販売している。近著に『する、しない。』(PHP研究所)など
ものを手放してすっきりさせると、今まで持っていたものがより美しく見える。隙間って大事なんだなと気づきました
伊藤まさこさん

築50年の古い木造の家をリノベーションした軽井沢の家。リビングの窓辺に置いたのは、デイベッド。クッションは、「リベコ」のリネン素材を使った「北の住まい設計社」のもの。それと同じ生地をベッドにかけて、ソファ風にしつらえた。クッションの置き方で座り心地を調整することができる。壁には何も飾らず、季節ごとに変わる外の風景や光の入り具合を観察中。
いらないものを知ることから家づくりが始まりました
グレーのクッションをたくさん並べたソファに座って、静かに本を広げる伊藤さん。昨年7月、軽井沢に完成した別荘は、光や風、窓から見える木々の緑や鳥の声が暮らしの主役になります。
「少しここでの時を重ねて、窓の風景の移ろいを観察してから、壁に何を飾ろうか考えようと思うんです。だから、今は何もなし!」と教えてくれました。
普通なら、家づくり、暮らしづくりというと「足し算」で組み立てていくものです。でも……「イヤなもの、不要なものが一つもない空間にしたい」と、「引き算」を選んだのが、今回の伊藤さんの別荘づくりだったそう。
広くなく、来客も少ないからダイニングテーブルはなし。キッチンカウンターにスツールを合わせて食事をするスタイルに。近所に温泉があるからバスタブもなし。シャワーだけの生活に。ベッドリネンもタオルも人数分だけでストックはなし、といった具合です。
「ものがあるから豊かなんじゃなく、ものを持っている私の暮らし全体が気持ちよくありたいんです。ものに左右されて暮らしを窮屈にされたくないって感じかな」

そもそも、コロナ禍に暮らしを見直したことが、持ち物を減らすきっかけだったそう。
「家で過ごす時間が長かったので、寝室にある本を9割ほど手放しました。そうしたら、家具も多すぎるな……と感じ始め、知り合いに譲ったり」
その後、渋谷パルコで開催した展覧会「まさこ百景」では、かごをはじめ、愛用してきたものを展示販売。段ボール10箱ほどを手放したそう。こうして自宅のものがどんどん少なくなってきました。
「どれも大好きで買ったものばかり。だから手放すときに『好きじゃなくなった』わけじゃないんです。今の自分には必要ない、誰かほかの人に使ってもらったほうがずっといいと思ったら、すんなり手放せました。服でも器でも『最近、これ全然使っていないな』という気づきが、手放すバロメーターになりますね」
伊藤まさこさん
今は、洋服はラック2本分だけに厳選して減らしたのだとか。
ものを減らすことで、新たな視点が生まれます
おしゃれでも知られる伊藤さん。友達と会ったときに「また同じ服?」と思われるのが心配になりませんか?と聞いてみました。
「人ってそんなに他人の服装、見ていませんよ(笑)。私は気に入ったら、同じ服を2〜3枚持つので、いつも同じスタイル。基本的に人からどう思われるか、気にしないんです」ときっぱり!
逆に減らさず、持ち続けているものもあります。
「実は、少し前に胃腸炎になって、何も食べられなくなってしまって。そんなとき、漆のお椀に助けられました。お粥をよそっても軽いし、口当たりが優しいし。年を重ねていく中で本当に必要なのって、こういうものだなあってしみじみ感じたんです。だから、漆器は手元に残してあります」
そして最近では、同じアイテムを、視点を変えて新たに買い替える、ということが増えてきたそう。シルバーのカトラリーの代わりに、食洗機で洗えて手入れも不要なステンレスのものを買い揃えたり、「ストウブ」「ル・クルーゼ」などの重たい鍋の代わりに、年を取って力が弱くなっても使いやすい軽い行平鍋にしたり。
「フライパンは『ペンタ』というブランドのものに買い替えました。前のものと同じ大きさなのに、測ってみたら400gも軽いの」
どうやら伊藤さんは今、引き算するための“ものさしづくり”が楽しくてたまらないよう。多いより少なく、重たいより軽く……。

若い頃は、新しいものと出会い、買って使うことにワクワクしたけれど、今はそぎ落とすことで、新たな未来が見えてくるそう。
「減らすことが目的じゃなくて、減らすことによって、生活が気持ちよく回っていくなあと感じることが大切なんですよね」
大事にしていたものを手放すことに、罪悪感を感じる人もいるかもしれません。でも、伊藤さんはこう語ってくれました。
「自分に必要なもの、欲しいものが、どんどん変わっていくって、すごく健全なことだと思うんです。だから、変化することを楽しみたいですね。何かを手放してみて、そっか〜! これ今まで絶対必要って思い込んでいたけれど、本当はそんなことなかったんだ!とわかる瞬間って、すご〜くすがすがしいんです。でも、それって、一度所有してみないと味わうことができないんですよね」
自分にとって「必要なもの」を更新し続けていくことで、新たな暮らしの扉が開く……。伊藤さんにとって、ものを減らすことは、新たな目で日常を見つめるための「始まり」のようです。
軽井沢の家で、最小限のもので過ごしたことで「ものってこれだけでいいんだ」という発見が。自宅の持ち物を手放すきっかけになりました
一人時間が快適になるよう工夫した寝室

視線が合わないことで一人時間が快適になるよう、寝室のベッドは壁を境に縦一列に配置。白いカバーは韓国のキルティング、イブル。
ディテールにこだわった暖炉

寝室のコンソールテーブルと暖炉を、同じ半径形に。ものを減らす代わりに、ディテールには徹底的にこだわった。重い鋳物の鍋は、年を取ると料理に使うには重いと、着火剤入れとして暖炉わきを定位置に。
ベッドの壁面には「ルイスポールセン」のライトを

ベッドの壁面に取り付けたのは、「ルイスポールセン」のライト。シェードを動かすことで、手元を照らしたり間接照明にしたりと調整できる。
器は厳選したものだけ

キッチンの壁の後ろが収納スペース。「鋼正堂」の器を中心に、厳選した枚数に。
伊藤まさこさんのダウンサイジングヒストリー

- 2000年頃
子どものものが増えがちな子育て期も、ため込まず手放すのが習慣だった。
- 2010年頃
引っ越しが多かった頃。その都度、家に合わせて持ち物の量も見直していた。
お買い物大好き期。体力があったから、重いものやたくさんの雑貨を旅行から持ち帰ることも多々。
- 2018年頃
ほぼ日のオンラインショップ「weeksdays」立ち上げをきっかけに、ほかの仕事を減らす。
- 2020年頃
コロナ禍が転機に。物置き部屋を寝室にすべく本を9割ほど手放し、食器と家具も友人知人へ。
パルコでの展示「まさこ百景」で手持ちのかごや食器を段ボール10箱分ほど販売。
- 2024年〜2025年頃
能登半島地震で被災した知人へほぼ未使用の服などを段ボール4箱分ほど送る。
娘が独り立ち。軽井沢に別荘が完成。持ち物を振り分けて見直す機会に。ソファなど家具を手放し、食器、着物や写真もぐっと減らした。
Staff Credit
撮影/吉森慎之介 取材・原文/一田憲子
こちらは2025年7月号(6/6発売)「素敵なあの人の『ダウンサイジング』と、その後の暮らし」に掲載の記事です。
※商品価格は消費税込みの総額表示(2025年7月号現在)です。
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