【浜島直子さんインタビュー】エッセイ『キドアイラク譚』「喜怒哀楽を掘り下げて書くと、新たな自分に出会えました」

浜島直子さん

モデルのみならずエッセイの書き手としても人気を誇るはまじさん。最新刊『キドアイラク譚』は、自身に起きたこと、夫、息子、犬など家族について、忘れられない思い出などを題材に「喜怒哀楽」、4つの感情の順に分けながら綴っている。

「最初は“衣・食・住”について書き下ろす予定でしたが、どうもエピソードがまとまらなくて（笑）。そこで自分の感情に焦点を当ててはどうだろうと思ったら、書きたいことがどんどん湧き上がってきました」

はまじさんの心の中にある、喜び、怒り、哀しみ、楽しみ。それらを一つずつ整理し、文字にしていく作業は「表面的な出来事を、奥深く見つめる力を養ってくれた」とか。

「まずは書きたいことを表にしてみました。自分の感情に向き合いながら、うれしかったことだけど文章は静かな感じに、怒りを感じたからこそ、ユーモアを交えちゃおうなど、全体のバランスを考えながら執筆する作業は楽しかったですね」　

“楽”の中に収められたエッセイ『ギター』では、大人になり久しぶりに楽器を習い始めた話と同時に、趣味について感じることを綴る。

「私は19歳でモデルを始めてから、仕事が趣味みたいなところがあって。『つまんない人間だな～』と、地味にコンプレックスを抱えていたんです。でもそんな過去の体験も含め、今の思いを書き出したら、“無趣味だった頃の自分”も、新たな視点でとらえることができました」

また小学5年生になる、息子さんとのエピソードもたくさん。

「『イライラ』という話の中では、ゲームばかりする息子に対して、腹を立てなくなったいきさつを記しました。でも私は完璧人間ではないので。彼のマイペースぶりにまたイラッとしたりもしています（笑）」

息子さんは自立心が旺盛で、好き・嫌いがハッキリした性格とか。

「もちろん本当に大事なことはきちんと言って聞かせています。でも彼のやりたいことや、世の中と彼自身とのバランスのとり方については尊重していますね。今のところゲームの道を究めたいようで、プログラミングの習い事に夢中。『将来はゲーム会社で働きたい！』と言っているので、うん、いいんじゃない、と。親目線では国語の勉強もやってほしいんだけどな～。漢字テストの点数、もう少し上げて！と思いつつも、冷静に。彼を否定したり、余計な口をはさまなかった自分よ、グッジョブ！みたいな毎日です。親子といえども、私や夫の生き方・考え方を押しつけるのは違うと思いますし」

「相手をこちらの思いどおりにコントロールしようとすると、大事なものを見失う気がして。何よりも自分が疲れちゃいますよね」と、ニッコリ。

本著でも、はまじさんの押しつけのない優しさが、どの表現からもにじみ出る。特にその人柄がうかがい知れるのが、最後のエピソード『駱駝』だ。ラクダと人が“能動的な受け身”について対話する、小さな物語。他者との距離感や思いやりについて、気づきを与えてくれる。

「『駱駝』は頭で考えた話ではなくて。心のどこかからふわ～っと浮かんできました。対話の形でお話を書いたのも、ゴールがどこなのかわからないまま言葉を紡いだのも、これが初めて。綴っている間にもいろんな経験をすることができた、今回の一冊。ぜひ触れてもらいたいです」

PROFILE

1976年生まれ、北海道出身。モデル、文筆家。モデルでは『LEE』をはじめとする女性誌はもちろん、ライフスタイルを発信する存在としてテレビ、ラジオなど多方面で活躍中。著書に『蝶の粉』『けだま』、絵本『ねぶしろ』（阿部はまじ名義の共著）など。Instagram（hamaji_0912）も好評。

『キドアイラク譚』

陽だまりのようなささやかな「喜び」、稲妻のようなとがった「怒り」、五月雨のような湿った「哀しみ」、入道雲のような未知数の「楽しみ」――。子育てや家庭にまつわる身辺雑記から寓話のような文章まで、多彩なストーリーを36本収録。大人のファッションについての考察もおもしろい。はまじさんの温かく、のびやかな言葉の世界に触れることができる。￥1760　扶桑社