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龍淵絵美、群像編集部、エリース・ヒュー

【今月おすすめの本】加藤シゲアキ『ミアキス・シンフォニー』他3編

2025.04.25

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石井絵里さん

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石井絵里さん

ライター

夏目漱石の自宅の一画を再現した「漱石山房記念館」へ。私物少なめのミニマリストぶりに驚きました。

『ミアキス・シンフォニー』
加藤シゲアキ ¥1980/マガジンハウス

ヒロインと風変わりな人物たちが織りなす、疾走感あふれる愛の物語

『ミアキス・シンフォニー』加藤シゲアキ ¥1980/マガジンハウス

毎日バタバタしている自分の生活リズムに合うせいか、せっかく何か読むなら、現実世界の中に風変わりなキャラが次々と登場する、スピード感あふれるお話のほうが“読書”した満足度が高まる気がするこの頃。というわけで今月の一冊は、個性的な人物たちの心の動きに目が離せない連作短編小説『ミアキス・シンフォニー』をご紹介! 

舞台は、現代の日本。ヒロインである大学生・西倉まりなは、ぬいぐるみにしか本音を話せない同級生・あやと知り合う。あやの孤独を察知したまりなは、彼女を自分の知人である彰人と引き合わせる。彰人は有名な女優の甥っ子で、彼も演劇の世界を志しているが、おばの影響から卒業して、新たな表現を確立したいと悩んでいた。彰人はあやの言動に驚きつつも、一緒に新しい脚本を作ることに。一方でまりなは自分が通う大学の教員・忠と仲を深めていく。子どもの頃から自立心が強くて理屈っぽい忠。そんな彼とは対照的に、周りからフォローされ華やかな生活を続けてきた弟が、事故で昏睡状態に。その状況に対して、罪悪感と疲れを感じていた――。

登場する人物同士が、意外なことで出会い、つながり、また新たな関係を作っていく。タイトルにある“ミアキス”は、実在の古代生物で、イヌやネコ、アシカなどの祖先とされる。ミアキスが、さまざまな生き物に進化したように、登場人物たちの心情が、人とのかかわりを通じて多彩に広がるのがこの小説の読みどころ。著者独自の、疾走感にあふれた文体も、「この先、どんな展開になるの?」と期待を持たせてくれる。

物語のテーマの一つであり、ヒロイン・まりなが探し続けるのが、「自分の中にある愛情と、他人の中にある愛情」をどうやったら確認できるのかということ。目には見えず、定義もしにくいこの気持ちが、お話の中で回収されていく過程を、ぜひ目撃して! 愛情や人間関係について考えたい人はもちろん、ミステリーの要素が含まれた小説を楽しみたい人にもぴったり。

『ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある』
龍淵絵美 ¥2200/集英社インターナショナル

『ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある』龍淵絵美 ¥2200/集英社インターナショナル

1990年代に出版業界へ入り、モード誌の編集者としてキャリアを重ねた著者。50代の彼女が、仕事、結婚、出産、子育てと怒涛のように過ごしてきた日々を振り返りながら、女性たちへの励ましや教訓をエッセイに。30代~40代の後輩編集者たちと、仕事や幸せについて語る対談も読みごたえがあります!



『おいしそうな文学。』
編:群像編集部 ¥1320/講談社

『おいしそうな文学。』編:群像編集部 ¥1320/講談社

小説家の江國香織、原田ひ香、歌人の穂村弘など29名の執筆者が、これまでに読んだ物語の中に出てくる、印象的な食べ物や飲み物について綴ったエッセイ・アンソロジー。それぞれの読書体験はもちろん、記憶とともに紹介される「食」の描写に惹き込まれる。料理を作るのに疲れたときの息抜きにもなりそう。

『美人までの階段1000段あってもう潰れそうだけどこのシートマスクを信じてる』
著:エリース・ヒュー  訳:金井真弓 監修:桑畑優香 ¥2420/新潮社

『美人までの階段1000段あってもう潰れそうだけどこのシートマスクを信じてる』著:エリース・ヒュー  訳:金井真弓 監修:桑畑優香 ¥2420/新潮社

アジア系アメリカ人ジャーナリストが、美容都市ソウルに赴任。生まれてから一度もそばかすについて気にしなかった著者が、毛穴のないピカピカの肌以外は欠点ととらえられる韓国で、自分を改善するため美容沼にハマっていき――。ルッキズムや韓国社会での女性の生きにくさなども考察した、濃密な一冊。


Staff Credit

イラストレーション/SAITOE
こちらは2025年LEE5月号(4/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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