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タブレット純、イム・ソヌ、窪田新之助

【今月おすすめの本】渡邊永人『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』他3編

2025.03.02

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今月の注目情報をお届け!

石井絵里さん

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石井絵里さん

ライター

今回、自伝本を紹介したタブレット純さん。今年はぜひリサイタルに参戦できることを願っています。

『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』
渡邊永人 ¥1760/新潮社

破たん寸前のバレエ団の再生物語。人気YouTube動画の裏側に迫る!

『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』渡邊永人 ¥1760/新潮社

子どもの習い事のひとつとして、不動の人気を誇る、クラシックバレエ。かくいう私もその昔、せっせと通っていた……と書きたいところですが、同級生が習っている教室へ見学に行ったところ、厳しすぎる練習風景を目の当たりにして戦意喪失。結局、ダンスの要素もあり、スポーツとして楽しめる、新体操を習いました。でもバレエ、挑戦してもよかったかなあ。厳しいレッスンの先にはどんな風景が広がっていたのだろう……。そんな、踊る前から挫折した大人の心にも響いたのが、今月の一冊。

著者の渡邊永人さんは、YouTube動画を手がける会社に所属している、映像ディレクター。かつてはお笑い芸人を目指すも、己の才能に限界を感じ、ドキュメンタリー作品の作り手に。彼の元に届いた依頼が、“谷桃子バレエ団の密着ドキュメントYouTubeを作って欲しい”というもの。バレエに何の予備知識もなかった渡邊さんだが、老舗バレエ団の人たちを追ううちに、新たな世界を知ることに。

習う人は多いけれども、プロで食べていける人はごく少数なのが、日本のバレエ界。谷桃子バレエ団も、歴史は古いながらカツカツの経営状態。新人バレリーナは週5でバイトをしながら練習をし、海外では団から支給されるトゥシューズも、自分たちで購入……など、リアルな懐事情が明らかに。夢と現実の間で苦悩するバレエ団を追ううちに「自分も、YouTubeを通じて、もっとバレエ団に貢献できることがあるのでは」と、葛藤する渡邊さんの心の動きは読みごたえたっぷり。本著のクライマックス、『白鳥の湖』の公演を追うくだりでは、彼の映像制作への情熱も伝わってくる。団員たちと信頼関係を作ろうと努力を惜しまず、相手への尊敬を忘れない取材姿勢も心地よい。破たん寸前だったバレエ団が、その実状を見せることで、チケット売れ行き好調となるまでの過程には、うるっとしてしまう。説明がわかりやすい文章で、ドキュメンタリー本の入門としてもおすすめ!

『ムクの祈り タブレット純自伝』
タブレット純 ¥1980/リトルモア

『ムクの祈り タブレット純自伝』タブレット純 ¥1980/リトルモア

歌手にして歌謡漫談家、リサイタルチケットは秒で完売と、局地的な大人気を誇るタブレット純さんの自伝。繊細な性格の自分と向き合いながら、愛するムード歌謡の道を突き進み、周りに愛を注いで生きる――。一歩進んだら二歩下がり、またちょっとだけ前進する、ドラマティックかつ流転の日々の記録。疲れたときに読むと、クスリと笑いながらも元気が出るはず。



『光っていません』
著:イム・ソヌ 訳:小山内園子 ¥2310/東京創元社

『光っていません』著:イム・ソヌ 訳:小山内園子 ¥2310/東京創元社

韓国の注目作家が綴る短編小説集。表題作は、触れた生物をクラゲにしてしまう「ゾンビクラゲ」が、大量発生する世界が舞台。ヒロインの“私”は、音楽活動をあきらめた同棲相手との生活のために、自らクラゲになりたがる人のサポーターを始める。奇妙な日常をすくい取ったお話たちは、インパクト抜群!

『対馬の海に沈む』
窪田新之助 ¥2310/集英社

『対馬の海に沈む』窪田新之助 ¥2310/集英社

人口約3万人の長崎県の対馬で、JAの営業マンとして長年日本一の実績を誇る男が44歳で自殺。実はその男には22億円超にのぼる不正流用の疑惑が。本当に彼一人で巨額の横領ができたのか、なぜ何年もばれなかったのか……。『農協の闇』などのノンフィクション作品がある著者が、取材を進めるなかで浮き彫りにした真相とは? 最後まで、ページをめくる手が止まらない展開!


Staff Credit

イラストレーション/SAITOE
こちらは2025年LEE3月号(2/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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