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映画『聖なるイチジクの種』家の中で消えた拳銃はどこへ?息をのむヒューマンサスペンス
2025.02.16
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折田千鶴子さん
映画ライター
賞レースもいよいよ大詰め。1~2月は賞関連作品が一挙に公開される必見作てんこ盛り月間ですヨ。
『聖なるイチジクの種』

家の中で消えた拳銃はどこへ? 息をのむヒューマンサスペンス
決して楽しい話ではない。さりとてひと時も目が逸らせない。国内で撮れない、国外に出られない、上映禁止など、何かと物議を醸しながらも、世界的巨匠を輩出し続けるイラン映画界から、またもスゴイ吸引力を放つ監督が現れた。本作でカンヌ国際映画祭の審査員特別賞を、前作『悪は存在せず』ではベルリン国際映画祭の金熊賞(最高賞)を受賞した、モハマド・ラスロフがその人。以前より政府批判の罪で有罪判決を受け、前作は授賞式にも出席できなかったが、本作では命がけで出国してカンヌにたどり着いたという筋金入りの信念の男だ。そんな人が撮る映画が、おもしろくないワケがない!
背景となるのは、私たちもニュースで見聞きした記憶が生々しく残っているであろう、’22 年に実際に起きた“ある女性の不審死(ヒジャブのかぶり方を巡る警官による暴行死とされる)事件”に対する抗議運動に揺れるイラン。国家公務員のイマンは、勤勉と愛国心を買われてついに夢に見た予審判事に昇進する。ところが蓋を開けてみれば、逮捕されたデモ参加者らの起訴状を捏造し、不当な刑罰を処す汚れ仕事ばかり。しかも国から護身用に拳銃を渡されるほど、市民の悪感情は募っていく。そんなある日、家に置いておいた拳銃が消える。イマンは、デモに参加した友人をかばった大学生の長女を疑い、ついでに高校生の次女、さらには夫に忠誠心の厚い妻にも疑いをかける。母も“素直に返して”と娘たちをなじり、家庭内に嫌なムードが充満。そんな中、市民に襲われる恐怖に苛まされるイマンは、家族を連れて人里離れた別荘に向かうが。
元は家族仲もよく、イマンも娘たちから尊敬される父親のように見受けられるが、拳銃紛失以降どんどん暴力的かつ威圧的になり、家族の心は離れていく。“お前たちのために俺がどんなに……”という父、ひいては男たちの欺瞞や保身。“何かおかしくないか?”と、それまで当然だと押し付けられてきた服従の理不尽、自分の中で抑えてきた不満や怒りに気づいてしまうのだ、娘のみならず妻もまた。拳銃を巡るサスペンスと家族の感情の変化、行動と選択が緊迫度を高めながら絡み合い、われわれは固唾をのんで手に汗握り見守るしかない。そしてラスト、思わず「あっ!!」と叫んでしまう。しばし目を見開いた後、そこに込められた思い、意味と解釈を反芻したくなる。
暴力や脅しで押さえ込もうとすればするほど、怒りも抵抗力や結束力も増していく。そんな社会の縮図を、家族という誰もが身近に感じる極小単位の関係の中で炙り出し、皆が自分事として感じずにいられない。逮捕の危険と隣り合わせで極秘に撮影を進めたスタッフ&キャストの勇気と信念に脱帽、検閲をかいくぐった知恵にも感服! 感情を揺さぶられ存分にスリルを味わった後は、今もイランで命懸けで続けられる「女性・人生・自由」運動について、そして監督の強固な意志に思いを馳せたい。
2月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』

ペドロ・アルモドバルが仕掛ける、価値観が試される女の友情物語
病に侵されたマーサ(ティルダ・スウィントン)は、かつての親友イングリッド(ジュリアン・ムーア)に再会。空白時間を埋めるように病室で日々語らうように。しかし安楽死を望むマーサから、“その日”が来るときに隣の部屋にいてほしいと頼まれたイングリッドは……。もし自分が頼まれたらどうするか、大切な人に寄り添うということは、など終始心が揺れる。アルモドバル監督らしいビビッドな色彩設計や美意識、人間の本質や価値観に揺さぶりをかける実験精神や意欲、円熟味も増し増しの必見作。2人の演技を心ゆくまで味わえて、観た後は高揚必至! ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞。
全国で公開中
『TATAMI』

なんのために身を削り闘うのか、アスリートの覚悟と尊厳と思いは
ジョージアで女子世界柔道選手権が開催される。イラン代表のレイラは勝ち進むが、敵対国イスラエルと対戦する可能性が浮上するや、いきなり棄権の命を受ける。努力と苦労をともにしてきたコーチも圧力をかけられ、レイラに棄権を促すが。自身への脅しに留まらず、家族が人質にとられたり安否をチラつかされる中で、自由と尊厳のために闘い続けるか否か。観る者も怒りでブルブル震えながら、“自分なら”と思うと急に鼓動が速まり、血が逆流しそうに。モノクロームの映像の奥行き、畳の上の闘いとその裏で進行する二重の緊迫感、和太鼓、すべての感覚が研ぎ澄まされたような逸品。
2月28日より全国順次公開
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配信 CINEMA & DRAMA
『阿修羅のごとく』

向田邦子の原作が監督・是枝裕和で蘇る
昭和を代表する家族ドラマが、豪華キャストで再々映像化。長女に宮沢りえ、次女に尾野真千子、三女に蒼井優、四女に広瀬すず。取り巻く男たちに内野聖陽、本木雅弘、松田龍平、藤原季節、父に國村隼、母に松坂慶子。老いた父に隠し子がいると三女が知り、姉妹を緊急招集する。四姉妹は、母にバレる前に父と愛人を別れさせようとするのだが――。古きよき(よくないところや違和感も)昭和の家族の姿、わいわい大騒ぎの家族団らん風景に、ほっこりしたり苦笑したり。どこか舞台的でもある丁々発止が楽しい。
Netflixにて独占配信中
※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。
Staff Credit
イラストレーション/SAITOE
こちらは2025年LEE3月号(2/7発売)『カルチャーナビ」』に掲載の記事です。
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