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石井絵里さん
ライター
自宅の暑さに耐えかねて、おなじみの喫茶店で、仕事や読書に励む日々。涼しくて最高です!
『今夜、喫茶マチカネで』
増山 実 ¥1760/集英社
大阪のレトロ喫茶で語られる奇譚。予想を覆すラストに驚くべし!
「複雑なストーリーを追う余裕はないけれども、現実からは少し離れて、すらすらと展開が進む物語が読みたい!」という気分のときにおすすめなのが、今月の一冊。閉店が決まった喫茶店で、そのお店や地域にゆかりのある人たちが語る“体験談”に、つい惹き込まれてしまう連作短編集だ。
舞台は、大阪府豊中市・待兼山(まちかねやま)駅の駅前に昭和29年に開業した“喫茶マチカネ”。長らく地元の人たちに愛されてきた店だけど、最寄り駅の駅名が、この街にキャンパスのある学校を前面に打ち出した「大阪大学駅前」と改称されるタイミングで、店を閉じることに。店主の“私”から店をたたむという話を聞き、常連客の沖口さんが提案したのが、「閉店までの8カ月弱、待兼山駅の名前と喫茶店を愛した人たちに、思い出を語ってもらい、1冊の本にする」アイデアだった。こうして発足したのが“待兼山奇譚俱楽部”。月に1度、1人が語り手となり、彼らが街で遭遇した不思議な話を披露する――。
1話ごとの主人公は、年齢や性別もさまざまだ。商店街で生まれ育った高齢者もいれば、大阪大学在学中の4年間しか、この街にいなかった者も。彼らが語るのは、かつて多くの客でにぎわっていた地元の銭湯の思い出や、今、自分たちが営んでいるお店が生まれたきっかけなど……。唯一無二の“体験談”に、待兼山エリアの歴史や事件が絡み、お話は思いも寄らぬ方向へ。
実は私、ライター石井は、大の喫茶店好き。地元はもちろん、全国津々浦々ある、いろんな店も巡りたいタイプ。そんな流しの喫茶店愛好家ではありますが、観光地でフラリと入った店で、ママ(推定年齢80代)お手製の古いアルバムを拝見しながら、彼女の生い立ちや青春時代、そして店の開店までの経緯を伺い、感慨深い時間を過ごしたことも。もし“奇譚俱楽部”のような場があれば、ぜひ顔を出したいと、本作に没入した次第。そして会を提案した常連客の沖口さんの意図とは? まさに喫茶店に“通い詰める”気分で、驚くべき結末を見届けて。
『夢みるかかとにご飯つぶ』
清 繭子 ¥1760/幻冬舎
40代、既婚で2人の子どもの母親である著者。編集者として17年間務めた出版社を辞めてフリーランスに。その先には「小説家になる」という目標が――。編集者時代の思い出や、デビューが叶っていない現状への思いなどを記した一冊。世の中に小説家のエッセイは数あれど、“小説家になりたい人のエッセイ”は貴重。「何者か」を目指す情熱に触れ、明るい気持ちになれる。
『料理人という仕事』
稲田俊輔 ¥946/筑摩書房
LEE8・9合併号で「ミニマル料理」を披露してくれた著者による、「幸せな料理人」になるための入門書。料理人のなり方や向き不向き、修行の必要性、調理以外の仕事の重要性や独立の考え方まで、この一冊で楽しさから厳しさまでを一通りシミュレーションが可能に。夢が料理人という子どもはもちろん、いつか料理の世界でチャレンジをしたいと考える大人も必読!
『おうち英語 語りかけ パターン75』
バイリンガルベイビー ¥1760/KADOKAWA
YouTubeで人気の英会話チャンネル『バイリンガルベイビー』から生まれた一冊。ネイティブ圏の親が子どもに語りかける英会話のパターンを紹介。「お願いする」「意見を聞く」「励ます」など、さまざまな場面で使い回しができ、さらに親子の間で自然とコミュニケーションがとれるようなフレーズがいっぱい。子どもと一緒に、暮らしの中で英語に親しみたい人にはぴったり!
Staff Credit
イラストレーション/SAITOE
こちらは2024年LEE10月号(9/6発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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