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橋口亮輔監督作品

映画『お母さんが一緒』三姉妹の小競り合いに抱腹絶倒、笑いとジワリ涙のホームドラマ

2024.07.12

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CINEMA

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イラスト 折田千鶴子さん

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折田千鶴子さん

映画ライター

高校生になった双子の息子は休みが異なるうえ、海外に行きたくもどこも高い。カレンダーとにらめっこ。

『お母さんが一緒』

『お母さんが一緒』
©2024松竹ブロードキャスティング

三姉妹の小競り合いに抱腹絶倒、笑いとジワリ涙のホームドラマ

姉妹がいる人なら、いや兄弟でも、いや誰もが家族の話として、“あるある!”と苦笑いしたり噴き出したり。そしていつしかジワリと泣けてくるに違いない。この愛すべきホームドラマ、やたらおもしろい。監督は前作『恋人たち』から9年。相変わらずの寡作だが、フィルモグラフィはすべて佳作ならぬ傑作。『ハッシュ!』『ぐるりのこと。』などの橋口亮輔が、またもカキ~ンと快音を響かせた。

三姉妹が親孝行をしようと、母親を一泊の温泉旅行に連れ出す。ところが旅館到着を目前に、迎えの車が泥にハマって押す羽目になったりと、雲行きが怪しい。気難しい母親を微妙に押しつけ合いつつ、三人の間で小競り合いが始まる。果たして、この小旅行の行方はどうなる?

まずもって三姉妹のキャラや関係性、さらに俳優陣が最高! 江口のりこ扮する長女は、美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを抱き、内田慈扮する次女は、優等生の姉をどこか恨み、古川琴音扮する三女は、そんな二人を冷めた目で眺めつつ、二人の緩衝材的な役割も担う。その三女はこの旅行中、結婚を考える彼氏を家族に紹介しようと目論んでいた。ところが、まだ呼ばれてもいないのに、彼氏が宿に現れたから、さぁ大変! 結婚問題にナーバスな長女、男好きするのに男運のない次女、ともにショックで半ばパニック状態に。それでもどうにかメインイベントの夕食まで行き着くが、母の“ある一言”で遂に長女がブチ切れ――。

外では絶対にしない言動・態度・表情を、家や家族内ではつい見せてしまうことって誰でも少なからずあるだろうが、それらが飛び出す瞬間、誇張ではなく声を立て何度も噴き出してしまうこと必至! 身に覚えがあるからこそ、余計に可笑しくてたまらない。とりわけエグいほど毒舌な長女・江口のりこの“さらしっぷり”は、もはや怪演級。次女のドヤ顔や口惜し涙、三女の気遣いと負けん気など、もう間といい表情といい、皆さすがの芸達者ぶり。“母親のようになりたくない”と言いつつ、みんな片鱗をうかがわせる一面にも我が身を見たり。一方、三女の能天気な彼氏を演じる「ネルソンズ」の青山フォール勝ちの絶妙な味にも驚嘆。不器用かつまっすぐな優しさで、なんと彼こそがジワリと観客の涙&キュンを誘う!

恨み言や文句など、むき出しの言葉をぶつけ合いながら、本当は互いの痛みや感情をすべて“自分事”として感じずにいられないのが家族。壮絶なバトルの果ての翌朝、3人がどうなっているのかも見逃せない。恥とか外聞とか関係ない、これぞ家族だ、と頬が緩む名シーンが待ち受ける。万国共通、一言も二言も多い“母親という生き物”にウンザリするけれど、どうしたってその影響下から逃れられない。やっぱり好きな自分がいる。ちなみに母親は1シーンも登場しないが、印象はすこぶる強烈。ペヤンヌマキによる同名舞台のドラマ化の、さらに映画化。誰かに話したくなる必見作です!

7月12日より新宿ピカデリーほか全国公開

公式サイト



『HOW TO HAVE SEX』

『HOW TO HAVE SEX』
©BALLOONHEAVEN, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THEBRITISH FILM INSTITUTE 2023

性に興味津々な女子の自我と揺れ、“もがき傷つく”青春感がリアル

卒業旅行で、仲よし女子3人組がギリシャのクレタ島へ。バージンのタラは、旅行中に初体験したいと少々焦りぎみ。そんな中、いい感じの男子と仲よくなるが――。友人のお節介や冷やかしに揉まれながら、本当は何がしたいのか、何が欲しいのかわからなくなる、若く青い衝動がイタくもなんかわかる。仲がいいハズなのに嫉妬やマウントで親友を貶める友人の姿にも、“いるいる”を覚えずにいられない。撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが、本作でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリ受賞。ヒリヒリした青春映画。

7月19日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

公式サイト

『密輸 1970』

『密輸 1970』
©2023 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & FILMMAKERS R&K. All Rights Reserved.

虐げられた海女たちの反撃! ハラハラのクライムアクション

’70年代の寂れた漁村。海の汚染で海女たちは失業の危機に。リーダーのジンクスは生活のため、海底から密輸品を引き上げる仕事を請け負う。だが税関に摘発されジンクスは逮捕、親友チュンジャは逃走。彼女の裏切りと噂される中、数年後に出所したジンクスは、舞い戻ってきたチュンジュに新たな儲け話を持ちかけられる。暴力や権力に対する海女たちの反撃に思わず熱くなる。洗練されていないパワフルな時代性、海中の美しい映像も魅力。ジンクスにドラマ『SKYキャッスル』のヨム・ジョンア、チュンジャに『国家が破産する日』のキム・ヘス、ほかにチョ・インソン。

7月12日より新宿ピカデリーほか全国公開

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『ウェンズデー』

『ウェンズデー』

シーズン2製作決定の異色ミステリー

映画『アダムス・ファミリー』でクリスティーナ・リッチが演じた娘ウェンズデーを主人公にした異色の学園ミステリー。弟をイジメた生徒に復讐し、またも退学になったウェンズデー(ジェナ・オルテガ)は、両親の母校で特殊能力を持つ生徒が集う学園に転入する。そこで奇妙な連続殺人事件に遭遇した彼女は、破格の頭脳と超能力で事件解決を試みるが。ティム・バートンが製作総指揮・監督を務めただけに、ゴスな世界観は完璧。ウェンズデーの毒舌や、人嫌いな彼女が個性豊かな友人と育む関係も心くすぐる!

Netflix シリーズ「ウェンズデー」シーズン1:独占配信中、シーズン2:近日独占配信

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


Staff Credit

イラストレーション/SAITOE
こちらは2024年LEE8・9月合併号(7/5発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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