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LIFE

CULTURE NAVI「CINEMA」

米アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作品

映画『ありふれた教室』熱心な若い教師がことごとく追い詰められていくスリラー

2024.05.17

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Culture Navi

CINEMA

今月の注目映画情報をお届け!

イラスト 折田千鶴子さん

Navigator

折田千鶴子さん

映画ライター

卒業式&入学式と行事続きで体調を崩しました。でも開花がズレたおかげでむしろ花見だワッショイ!

『ありふれた教室』

『ありふれた教室』
©ifProductions_JudithKaufmann ©if… Productions/ZDF/arte MMXXII

熱心な若い教師がことごとく追い詰められていくスリラー

このタイトルにして“サスペンススリラー”と聞くと、思わずドキリとさせられる。今年の米アカデミー賞国際長編映画賞にノミネート(日本の『PERFECT DAYS』とともに)されたこのドイツ映画は、教育現場がいつの時代も抱える“何か問題が起きたときの犯人捜しの是非”やその解決の難しさをあらためて思い起こさせつつ、現代ならではの状況を織り込んで懊悩を深くさせる。しかも描かれるのはたった数日。ひとつ対応を間違えると、もはや取り返しがつかなくなるスピード感の恐ろしさも、現代ならでは? 果たして主人公は、どこでどう間違えた!? 鼓動が速まり、もう目が離せない!

仕事熱心な若手教師カーラは、新たな赴任先の中学で1年生を担任。人種的なルーツが多様な同僚や生徒からの信頼も獲得しはじめていた。そんなある日、校内で相次ぐ盗難の犯人として、自分のクラスの子が疑われる。徹底的に調査する方針の校長のもと抜き打ち検査が行われ、大金を所持していた疑惑の生徒は両親を呼び出される。しかし両親は従兄弟へのプレゼント代として自分たちが渡したものだと証言、気まずい空気だけが残る。そんな強引なやり方に疑問を抱いたカーラは、早く真犯人を見つけるべく、財布を入れた上着を椅子に掛け、PCのカメラをオンにして席を離れる。ところがそこに映っていたのは、ベテラン事務員クーンの星柄ブラウスだった。しかも彼女の息子もまた自分のクラスの優秀な少年オスカーで……。カーラは直接クーンに尋ねるが、彼女はキレて全面否定。仕方なくカーラはすべてを校長に打ち明けるが――。

そこからの展開が一気! クーン犯人説や盗撮の噂は瞬く間に広がり、カーラが動けば動くほどドツボにハマっていく。オスカーをそしる生徒もいる中で、母親を信じるオスカーは友達を誘導して結束し、生徒は授業をボイコット。保護者会にもクーンが現れ、“盗撮教師”だとカーラを突き上げる。もはや四面楚歌状態。確かに盗み撮りはアウトかもしれないが、無駄にこれ以上生徒を疑いたくない気持ちからの行動だったのに……。ハラハラ固唾をのみながら、“じゃあ、どうすればいいの!? ほかに何ができた!?”と胸を掻きむしりたくなる。

観る者はカーラの立場のみならず、自分が保護者だったら、自分が生徒だったら、自分がほかの教師だったらと、たくさんの“もし”を頭に浮かべてシミュレーションせずにいられなくなる。それでも何が正しくて間違いかわからず、悶々としてしまう。なるほど監督の狙いどおり、これは“学校”という空間だから起きた特有の事態ではない。まさに現代社会の縮図であり、そこかしこで起こり得る“ありふれた現実”なのである。人は信じたいものを自ら率先して信じ、誰かを突き上げることで自分の正義を固くする。これまたイヤ~な現代の風潮を突くが、そのいかにもスリラー的な圧迫感から、“それを変えなきゃ”と実感し焦燥する意義は、きっと大きいと信じたい。

5月17日より新宿武蔵野館ほかで全国公開

公式サイト

『人間の境界』

『人間の境界』
©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture

言葉を失い、目を見開くしかない、両国政府が隠す〈不都合な真実〉

“ベラルーシ経由でポーランド国境を越えれば安全にヨーロッパに入れる”との情報を信じた幼子2人を含むシリア人家族らが、両国の警察/国境警備隊に翻弄される姿とその末路を描く。越境しては再び戻されるを繰り返す信じ難い現実、人間扱いされない対応、他方では支援団体の若者らが助けようと活動する様子に何度も血が逆流しそうに。“ウクライナ難民はすぐ200万人受け入れたのに”というエンドクレジットに、われわれだって同罪だと衝撃を受ける。監督は『ソハの地下水道』などのポーランドの巨匠アグニエシュカ・ホランド。ヴェネチア国際映画祭・審査員特別賞ほか多数受賞の必見作。

全国順次ロードショー中

公式サイト



『三日月とネコ』

『三日月とネコ』
© 2024映画「三日月とネコ」製作委員会 ©ウオズミアミ/集英社

ネコがつないだ奇妙で優しい関係、同居生活が教えてくれたもの

熊本地震が起きた晩、一緒に避難したネコがきっかけで言葉を交わした3人――40代の書店員(安達祐実)、30代の精神科医(倉科カナ)、20代のアパレル店員(渡邊圭祐)が意気投合し、共同生活することに。食卓を囲み日々の出来事や悩みを語り合い寄り添って暮らすが、新しい出会いや恋に少しずつ変化が生まれ……。日頃覚える違和感や拭いきれない孤独を一緒に共有し、励まされるように肩の力がフッと抜ける。ネコのいる暮らしの魅力も満載だが、単なる“癒し映画”に留まらず、時にジワッとさせつつ優しさが心の深いところに入り込んでくる。原作はウオズミアミによる同名コミック。

5月24日より全国ロードショー

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配信 CINEMA & DRAMA

『ブラックガールズトーク』

『ブラックガールズトーク』
©マキノマキ/小学館/「ブラックガールズトーク」製作委員会

思わず“いるいる!”と盛り上がり必至!

いつしか声を出して相槌を打っている、爆笑しながら共感せずにいられないワクワクの噂話傑作選、もとい傑作会話劇。仲よし3人組――商社のバリキャリOL、面倒見のいい保育士、少し控えめな平均的OLが、身の回りで出会ったヤバイ人たちから受けた“トンデモ”経験をワイワイ語り合う。三種三様の魅力を醸す朝日奈央、関水渚、石井杏奈の全体のバランスや声のトーンが絶妙で、ついクセになるほど楽しい。ストレス解消にもってこいの、何度も見たくなる深夜ドラマ。

現在U-NEXT・Leminoで全話配信中

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


Staff Credit

イラストレーション/SAITOE
こちらは2024年LEE6月号(5/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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