【白洲迅さんインタビュー】舞台『ハムレット』に挑戦!「シェイクスピア作品が初めての若い観客も共感できるような、現代の普通のリアリティを大事にしています」
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折田千鶴子
2024.04.27
演出(出演も)は、吉田鋼太郎さん!
“最近よくドラマで見かけるな”と思い始めた瞬間、一気に大ブレイクしていた白洲迅さん。もうここ数年は毎クール掛け持ち状態でドラマに出演し、まさに引っ張りだこの白洲さんですが、今年はさらに飛躍しそう。なんとシェイクスピア作品に、しかも最も有名&人気の『ハムレット』の舞台にいよいよ挑戦します!
白洲迅
1992年11月1日生まれ、東京都出身。2011年に舞台『ミュージカル テニスの王子様』でデビュー。『押忍!!ふんどし部!』(13)でドラマ初主演。主なドラマ出演作に、『刑事7人』第4シーズン以降(18~23)、『僕はまだ君を愛さないことができる』(19)、『リコカツ』(21)、大河ドラマ『どうする家康』(23)、『ゼイチョー~『払えない』にはワケがある』(23)、『君が心をくれたから』(24)など。映画『HiGH&LOW THE WORST』(19)、『向田理髪店』(22)など。舞台『花より男子 The Musical(16)、『シラノ・ド・ベルジュラック』(18)など。
白洲さんが出演されるのは、【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】の、記念すべき第1作です。初代芸術監督の蜷川幸雄さんから引き継ぎ、2代目芸術監督となったのは、みんな大好き『おっさんずラブ』などで知られる名優・吉田鋼太郎さんです。日本屈指のシェイクスピア俳優の吉田さんが、その情熱を注ぎ込む舞台『ハムレット』。
幕が開くのは5月7日(火)と近づいて来ましたが、お話をうかがったのは、まだお稽古が始まったばかりの頃。公演日までをカウントダウンしながら、まだ手探りでドキドキ状態のフレッシュな白洲さんの様子を感じつつ、みなさんも盛り上がって下さい!
まだ始まったばかりということですが、お稽古に入られた感想を教えてください。
「あっと言う間で、“ヤバい、もう一週間経っちゃった!!”という感じです。これまで蜷川さんが演出された『ハムレット』の映像を見せてもらったりしつつ、稽古を始めた段階なので、正直、感想を言えることが何もないのですが……。ただ、予想していたよりも(吉田)鋼太郎さんが、しっかりリアリティを持って表現されようとしている印象を受けました。シェイクスピア劇というと、独特の難しい言い回しのセリフが多いのは誰もが知るところですが、そういうセリフでも、ちゃんと嘘のない演出をしてくださるというか。なるほど、そういうアプローチでいいんだ、という感じです」
朗々と謡うようなセリフ回しというイメージが強いので、ちょっと意味を捉えにくいというか、セリフを覚えるだけでも大変じゃないですか?
「確かに、朗々と言う長いセリフが多いので難解だと思われがちですが、セリフを単に明瞭に大きな声で言うのではなく、今回はそこにしっかり嘘のないリアリティを持った表現を求められていると感じます。例えば、舞台だから当たり前ですが、ハムレットの独白が始まった瞬間、“ここは城の中だから、そんな大声で話すと他の人に聞こえちゃうよ!”とか(笑)、“そんな大きな声で言っちゃダメ!!”とか感じたりすることがあるじゃないですか。そういう当たり前のリアリティも、生かしてやろうとしているというか。もちろん、そこから大いに逸脱して壮大にやる場面もあると思いますが、現代の普通の方が見て感じるリアリティを大事にされていると思いますね」
今回の舞台『ハムレット』はーー
デンマーク王が逝去し、王の弟・クローディアス(吉田鋼太郎)が新王に即位する。先代の王妃ガートルード(高橋ひとみ)は、すぐさま彼と再婚。父が亡くなったばかりなのにと、王子ハムレット(柿澤勇人)は憤る。父の亡霊が現れると聞いたハムレットは会いに行き、亡き父からクローディアスに毒殺されたと知らされる。復讐を誓ったハムレットだったが、誤って侍従長ポローニアス(正名僕蔵)を殺してしまう。ポローニアスの娘でハムレットの恋人・オフィーリア(北香那)は正気を失い、川で溺死してしまう。一方、ポローニアスの息子レアティーズ(渡部豪太)は、父と妹の仇討ちを誓う。新王クローディアスはレアティーズに近づいて結託し、ハムレットを殺そうと画策するが――!
ステキな俳優さんたちが集まりましたね。
「今、全員がものすごい気持ちで挑んでいるという、気迫みたいなものを既に感じます。それもやっぱり鋼太郎さんが顔合わせの時の挨拶で、“命がけで”とおっしゃりながら『ハムレット』に対する愛と熱い思い入れを語られたことが大きいです。みんな、生半可な気持ちじゃ出来ないぞ、と覚悟を固くしたというか。そんな空気を鋼太郎さんが、最初にしっかり作ってくれました」
白洲さんが演じるのは、ハムレットの親友・ホレーシオです。
「単に親友だからハムレットに味方するとか、そういう風には見えたくないな、と。とにかくハムレットって色んなことに苦悩したり、心がコロコロ変わったりするんですよ。途中、とにかく色んなことがハムレットに起きる。ポローニアスを殺してしまったり、恋人のオフィーリアに尼寺へ行けと言ったり。その後、どんどん色んな負の感情が積み重なっていく、その変化を親友としてちゃんと感じ取ってあげられるホレーシオでありたいです。父を亡くし、最愛の母が叔父とすぐ結婚し、色んなことに心が苛まれていくハムレットを心配するホレーシオとして、ちゃんとそこに深みを持たせられたら、それを表現できたらと思っています。ハムレットの感情の起伏の激しさにも驚きたいし、ホレーシオにしか気づけないハムレットの変化を見つけたい、という気持ちで臨みたいです」
名ゼリフの多い戯曲でもありますが、言うのを楽しみにしているセリフ、または受けるのを楽しみにしているセリフはありますか?
「分かりやすいところで言えば、やっぱり“優しい王子様”というセリフでしょうか。最後、ハムレットが息絶えた後にかける言葉です。その一言は、2人の関係性をしっかり築けていないと、お客さんに伝わらないセリフだと思うので、プレッシャーもありますが……」
最後を飾る一言となると、そのセリフで観客の拍手の大きさも変わる可能性がありますね。
「緊張させないでくださいよ(笑)! でも大丈夫。もう一人、フォーティンブラスというノルウェーの王子が一緒に居て、厳密には最後のセリフは豊田裕大君が言うので、(彼こそ)ものすごい気持ちでいるかもしれないな(笑)。ただやはりホレーシオは物語の頭とラスト、始まりと終わりを締めるので、役を引き受ける段階から大役を担うプレッシャーは感じていました」
シェイクスピアって格調高いが、どこか“昼ドラ”的!?
シェイクスピア作品は難解と言われますし、もちろん格調高いですが、同時に物語は昼ドラみたくないですか!? この『ハムレット』にしても……。
「そうなんです、家庭内でドロドロですよね(笑)。もっとも日本の歴史を紐解くと、なんならもっとドロドロな一族内での殺し合いや権力争いがあったので、これもまたリアルな話じゃないかな。そういう“ドロドロの愛憎劇”という目線でライトに見ることも、共感することも出来ると思います」
「一方で本作が面白いのは、ハムレットがなかなか復讐をしない点にあるんです。そこにこそ、この物語の旨味がある。ハムレットはずっと葛藤している。“復讐する”と言いながら、先延ばしにする理由を見つけては長々と喋ったり(笑)、別のことで嬉しくなっちゃったり、すごい疑心暗鬼になったり。もう、こんな人間くさい人間っていないと思うんです。特に若い人たちって、僕もかつてそうでしたが、訳もわからず悩みまくる時期ってありますよね。そういう意味でも、若い観客にも共感してもらえるんじゃないかな」
現段階で、吉田鋼太郎さんを演出家として、どう感じますか? 舞台出身の方なので、常にお声を張ってらっしゃって、指導されると“怖いかも”と勝手に想像していますが。
「確かにいつも声は張られてますよね(笑)。加えて熱量もすごいので、それを“怖い”と感じる人もいるかもしれないけれど、ドラマで長いことご一緒させてもらってきた僕は、普通に“スゴイな”としか思わないですね。ただやはり鋼太郎さんの演出を受けるのは初めてなので、正直、演出家としてどういう立ち回りをされるのかは知りませんでした。頭ごなしに怒ることもなく、とても丁寧に愛を持って演出いただいています。もちろん愛を持った上での厳しさはちゃんとあって、読み合わせの段階から少しでも嘘があった時は、“もう一度、もう一度”と諦めることなく出来るまで、何度も何度も繰り返し練習します。だから逆に、役者に対する強い愛を感じていますね」
今回も吉田さんは、演者でもあるわけですものね。
「やっぱりシェイクスピアって、読んでも分かったような分からないような気がする…みたいな部分があるじゃないですか(笑)。そういうところも、あれだけ若い頃からシェイクスピア劇を演じられ、ずっと携わってきた鋼太郎さんだからこそ、今っぽい言い回しで解説してくれるんですよ。本当に頭がいいなと思いますが、そういう伝え方も本当に上手。それを含めて、やっぱり演出家として素晴らしいと感じます。演者として舞台に立つ人だからこそ、役者に寄り添った説明、演者の目線も持つ演出の仕方が出来るんだな、と感じますね」
俳優歴13年の現在地。吉田鋼太郎さんを目標に。
俳優歴13年となりましたが、今、自分として目指したいのはどんな俳優でしょう?
「このタイミングで答えると嘘くさく思われそうですが、前々から言ってきたのが、鋼太郎さんなんです。これだけの熱量を持ち、セリフ術もとにかくスゴイ。それでいてドラマなど映像作品に出ても違和感なくやれてしまうとは、どれだけ振り幅が広いのか、と。これだけ芝居できたら人生、楽しいだろうなってホント思います」
「今回も演出を受けながら、もしかしたら他のキャストの皆さんもそうだと思いますが、半分悔しい思いをしてるんじゃないかな。“例えばこんな風に”って鋼太郎さんが見本を見せてくれる時が結構あって、それがまた上手過ぎるんです。それを見せられてしまったら、とりあえずそれでやるしかないなと思わされる。まずは、そこに追いつくこと。鋼太郎さんの求めるものが出来るようになった上でこそ、別のアプローチをすることが出来ると思うので……。もちろん鋼太郎さんも見本どおりにやれとは微塵も思っていないハズなんですよ。でも、まずはそこに追いつかないと、別のアプローチがしようにも出来ない」
「つまり目指すのは、非常に高い演技スキルを持つと同時に、ちゃんとハートを動かしてお芝居ができる方。あれ……なんで俺は今日、こんなにも鋼太郎さんを褒めているんだろう(笑)!?」
最後に、30歳を超えられて何か変化はありましたか。最近、新たな自分を発見したということは?
「自分は元々、色んなことを“気にしぃ”な性格なんです。でも、最近よく“マイペースだね”と言われることが増えました。自分はちゃんと周りを見て、周りに気を遣ってるつもりなんですが、以前よりも“マイペースだね”と言われることが増えたな、と。自分では、むしろ自分のペースを崩さずにいられる人に対する憧れがあるんです。それなのに自分がそういう風に言われるので、少し意外でありつつ、でもちょっと嬉しい(笑)」
「ただ、思い返すと保育園の頃から保護者向けの日誌に、“今日も1日マイペースに一人で遊んでいました”と書かれていたみたいで。自分ではそう認めていなかったけれど、もしかしたら小さな頃からそうだったのかもしれないと気付いた、という変化がありました」
なるほど。まだ31歳ですから、身体的な変化は特に感じませんよね(笑)。
「いや、やっぱり30を超えて、お腹周りに(肉が)つくようになってきましたよ。ラーメンがめちゃくちゃ好きで、特に家系や二郎系が大好きなんですが、さすがに最近は自分を抑えるように努力しています!」
シェイクスピア作品、特に『ハムレット』に、ちょっと親しみを覚えていただけたら幸いです。舞台は観客にとっても、とっても心地よい疲労感と充実感を与えてくれるもの、ですよね!? 是非、GWで遊び疲れた心身を、舞台『ハムレット』の感動で整えてください!
舞台『ハムレット』
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1 『ハムレット』
2024年5月7日(火)〜26日(日) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
演出・上演台本 : 吉田鋼太郎
出演:柿澤勇人、北香那、白洲迅、渡部豪太、豊田裕大、正名僕蔵、高橋ひとみ、吉田鋼太郎 ほか
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写真: 山崎ユミ
ヘアメイク :松田陵(Y’s C) or Ryo Matsuda(Y’s C)
スタイリスト:持田洋輔
◆衣装 ジャケット¥187,000・Tシャツ¥17,600・パンツ¥52,800/コーチ/コーチ・カスタマーサービス・ジャパン(0121-556-936)靴¥35,200/アルフレッド・バニスター/アルフレッド・バニスター ルミネエスト新宿店(03-6380-0310)
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。