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LIFE

映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

【映画『あまろっく』江口のりこさんインタビュー】「好きな人を見つけて一緒に暮らしていくって、最高じゃないですか」

  • 折田千鶴子

2024.04.17

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脚本を読まずに出演を決めた理由は……

エキセントリックな役から等身大な役まで、独自の空気をまといながら飄々と演じ、その役を“個性豊かなキャラ”に押し上げては、観る人の目を釘付けにする江口のりこさん。ごくたまにバラエティー番組に出演された江口さんを見て、“素顔もユニーク”という印象を抱いている方も多いのではないでしょうか? そんな大きな興味と印象を抱いて、ずっとお会いしたかった江口さんにインタビューいたしました!

江口 のりこ 
1980年生まれ、兵庫県出身。2002年三池崇史監督『桃源郷の人々』で映画デビュー。映画『月とチェリー』(04)で初主演。ドラマ「時効警察」シリーズで、その個性が注目される。近年の代表作に、『愛がなんだ』(19)、『事故物件 恐い間取り』(20)、『波紋』(23)、『BAD LANDS バッド・ランズ』(22)、『アンダーカレント』(23)など。『もしも徳川家康が総理大臣になったら』と『愛に乱暴』が今夏、公開予定。主演ドラマ「ソロ活女子のススメ」も人気シリーズとなり、現在「4」が放映中。

お題は、主演映画『あまろっく』。なんと江口さんは脚本を読む前、かつ監督が誰かと知る前に出演を決めたそう。その理由を、探っていきたいと思います。

色んなお話をしてくれた江口さんは、奇をてらったわけではない普通の発言をされている時でも、やっぱりなぜだか面白い。なんだろう、この飄々とした楽しくなってしまう空気は……。何かまだあると掘りたくなるような掴めなさと、鋭く突っ込まれそうなハラハラ感というか。江口さんの口調と関西弁の掛け合わせのなせる技!? なんと本作は、キャスト&スタッフみな関西出身者が揃ったという、現場の裏側を聞いてみました。

映画『あまろっく』ってこんな映画

©︎2024 映画「 あまろっく」 製作委員会   4月19日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

いい加減そうな父親を反面教師にガシガシ勉強に励み、優秀な成績で大学に入り、卒業後は東京の大手企業でバリバリ働いてきた優子(江口のりこ)。しかしある日、厳し過ぎる周りへの冷徹な態度が災いし、理不尽なリストラにあって尼崎の実家に戻る羽目に……。39歳、独身の優子は失意のどん底に沈み込み、ニート状態でダラダラと毎日を過ごすように。そんなある日、父親(笑福亭鶴瓶)が再婚すると連れて来たのは、なんと20歳の早希(中条あやみ)だった!

39歳、実家暮らしのニート娘。その不機嫌そうな佇まいからして、江口さんが醸す雰囲気がやっぱり最高でした。ハマリ役だな、と。

「そうですか!? この役に似合っていると言われるのは、まぁ、そう思われるんだろうなとは納得はできますが、自分では特にそんな風に感じません。とにかく私は、(笑福亭)鶴瓶さんと(中条)あやみちゃんと一緒に仕事をできたのが、とにかく楽しかったので、それで大いに満足です。――あ、スミマセン、まとめちゃいました(笑)」

優秀な優子にとって、いきなりのリストラは相当な挫折ですよね。多分、曲がったことが出来ない性格で、自分が正しいと思う我が道を真っ直ぐに進んで来たんでしょうね。

「う~ん、というより誰とも関わることなく、ただ自分が決めたことを黙々とやるって、実は一番簡単なことじゃないですか。煩わしいことに関わらなくて済むわけですから。優子はずっとそうしてきた人ですよね。だから会社では協調性がなく、上司から“君はいらない”と言われちゃったわけですよ。それはショックだろうけれど、当然ですよ!」

「やっぱり会社って人と一緒に仕事するわけだから、そこで自分さえよければいいとか、自分が気持ちよく仕事できればいい、という態度や考えは間違っている。他の人たちが自分の思うように全然動かないから、一人でやって来たのが優子ですが、冷静に見たら、この人、やっぱ間違ってると思いますよ!」

なるほど。優子に厳しいですね(笑)。

「それで1人ぼっちになっちゃって、そこへ早希ちゃんという女の子が家にやって来るわけですが、それって一番煩(わずら)わしいですよね。同じ家に住むということは、関わらなきゃならないわけだから。つまり優子は、お父さんから課題を与えられたわけですよ。そこから優子が少しずつ成長するということに繋がっていく――。でもやっぱり、1人で黙々と何かをして来たのは優子の特性であり、良いところでもあり悪い部分でもあったんでしょうね」

意外なことが役作りに生きる!

そんな優子は等身大な人物でもあると思いましたが、役作りは今回何かされましたか?

「皆さん役作りって、どうされているんでしょうね!? 何をもってして役作りというのか。家に帰って、みんな何か役作りみたいなことをやっているのか、私は知らないので他の人と比べられずに良く分からないまま答えますが、ただ役に立ったと思うのは、ボートをひたすら漕ぐこと。優子がボートを漕ぐシーンがあるのですが(大学時代にボートの有望選手だった過去のシーンが挿入される)、その練習をさせてもらったことですね。ただ、ひたすらずっと漕ぐ。ボートって、1人で同じ動作をずっとやっているじゃないですか。その時に、“優子ってこういう人なのかな”と見えてくる感覚があったんです。ただただ真っ直ぐ――みたいな。もちろんボートを上手く乗るための練習という意味合いもありましたが、それ以上に漕いでいる時間が芝居をする上で、色んなことに役立った感覚がありました」

ということは、意外に優子という人物像を自分の中で掴むのは、ちょっと時間が必要だったということですか?

「難しかったですよ。というのも、この物語って、すごく分かりやすいんですよ。挫折してニートになって戻って来た娘が、お父さんが連れて来た20歳の再婚相手にビックリして、そうこうしてるうちにお父さんが……という。読み物としては(頭に)入ってきやすいですが、“こんなことがあって、こんなことになって、こうでしたとさ”という少々ファンタジー要素の強い物語を、いざ肉体を使って芝居をするのは、とても難しかった。尼崎に1ヶ月滞在して撮るわけですから、本当にその町に住んでいる地に足ついた人間として演じたかったので、そんな物語をどうリアルに繋げるかが難しいところでした」

役者3人で探って繋げた掛け合い

優子と父親と早希の3人、あるいは2人×3組が繰り広げる掛け合いが絶妙でしたが、どのように役者3人でリアルに繋げていったのですか。

「物語や人物が、どうしたらちゃんとした日常に見えるのかを探りながら3人でお芝居を作っていった感じです。もっとも、いわゆる言葉ではいちいち相談はしないですよ。でも、みんなお互いに分かっているので、芝居しながら調整していきました。今回、本当に共演者に恵まれた思いは強いですね。鶴瓶さんは本当に器の大きい方ですし、あやみちゃんも本当に周りをよく見ていて。私が少しでもクサクサしていると、関係のない話をポンとして心をほぐしてくれたり。私より精神年齢が何十歳も大人な感じがして、本当に救われました」

そこは、優子と早希という役にも、ちょっとリンクしていますね。

「そうですね。優子のような性格の人が、あそこまで真っ直ぐ正面から来るような早希じゃなかったら、とても心を開けませんからね。相手が早希じゃなかったら、いつになっても閉じたままだったと思います」

そうして今、もうすぐ公開される作品に対して、江口さんが気に入っているところ、大切にしたい部分はありますか。

「舞台となった尼崎という町です。実際にずっと尼崎で撮ったので、その町自体がしっかり映っていると思います。それまで行ったことがなかったのですが印象がガラリと変わって、公園も多くて綺麗で本当にいい町でした。尼崎の人たちが、自分たちの町が映ってると喜んでくれたら、すごく嬉しいです」

ちょっとくだらない“もしも話”ですが、もし自分が優子の立場で父親が20歳くらいの女性と再婚し、その人を「お母さん」と呼ぶ状況になったら、自分ならどうします?

「父がその人のことを本当に好きだったら、“良かったな”と思いますね。だって、好きな人を見つけて一緒に暮らしていくって、最高じゃないですか。ただ……父親の相手として20歳そこそこの子を信用できるかどうかは、少し時間が掛かる気はしますよね。“本当にお父さんのこと好きなの?”とか、“途中でお父さんを捨てたりしない?”みたいな心配をしてしまいそうではありますね」



女優・江口のりこの現在・過去・未来

江口さんご自身のことを聞かせてください。女優を目指して上京し、既に25年近く経ちましたが、今では東京が故郷のような感覚ですか?

「19の時に来ましたから、確かに25年くらい経ちますね。もちろん仕事をし、住んでもいるので生活する場は東京ですが、やっぱり関西に帰ると滅茶苦茶ホッとします。新幹線を降りた瞬間から空気が違うし、懐かしいし、周りも関西弁だし、やっぱり大好きだ~って思います。この映画も、脚本を読んだり監督が誰かを知る前に、1ヶ月も関西に滞在しながら撮れると聞いて、それだけで“やる”と決めましたから(笑)。ホッとできる特別な場所です。やっぱり子供時代を過ごしたのは大きいんでしょうね」

20年を超える芸歴の中で、岐路となった瞬間はありましたか?

「別にないですね。本当にアッという間で“20年以上も本当に経った?”という感じ。よく聞かれる“ターニングポイントになった作品”もなくて。19歳で劇団(東京乾電池)に入り、今も同じ劇団に所属しているので今も劇団員ですし、所属事務所もずっと変わらずで。劇団には当時から、ずっと今も変わらない怖い座長(柄本明さん)もいますしね(笑)。座長もずっと芝居をやっているので、環境も含めて何も変わってないんですよ。風呂なしから風呂付の部屋に変わった、だから風呂にちゃんと入るようになった、くらいの変化です(笑)。あとは車に乗れるようになったことくらい。もし結婚したり子供を産んでいたりしたら、考え方が変わることもあったかもしれないけれど、それも分からないまま今に至っています」

私が江口さんを意識し始めたのは、『月とチェリー』という映画でしたが、映画主演が一つ、岐路になったのかと勝手に思っていました。

「いえいえ、主演と言っても撮影期間5日ぐらいですから。朝まで撮影し、“お疲れ様でした。お車代です”って封筒を渡され社長に電話したら、“それもらっといていいよ。お前のギャラだから”って (笑)! でも確かに、おっしゃってくれるように周りの目が変わる、というのは何となくありますよね。ヒットしたドラマに出演し、世間の人に名前を覚えてもらって、制作者にも覚えてもらって次の仕事に繋がる、ということですから」

ただ世間に覚えられると、例えば“本作の優子がハマり役”と言いましたが、江口のりこは不機嫌そうな役が似合うとか、毒舌でクスッと笑わせるとか、そんな独特の空気感がたまらないなど、世間に持たれるイメージが逆に足枷になったりしたことはありますか?

「一度ある番組で発言したことが面白いと思ってくださったらしく、別の番組で、“同じ話をまたして下さい、同じことをまたやって下さい”と言われた時はビックリしました。そういうことは苦手だな、とは思いましたね」

役については、同じイメージを求められてイヤになったことはないですか?

「役を演じる上では、ないかな。役を引き受ける時、“あぁ、この間のアレを見て、あんな感じでお願いってことだろうな”ということは分かりますよね。でも、それを引き受けたなら、やるしかない。それを理由にお断りしたことはないですね。たとえ似たような役でも、共演者をはじめ誰と一緒にやるかで、少なくとも何か1つ変化は絶対にある。やってみると全然、違いますからね」

でも、同じものを求めてくれるなよ、みたいな気持ちにはなりますか?

「それを言ったらワガママですよ。この仕事は誰かに、“やってください”と言われて初めて仕事が出来るわけですから。ワガママばかり言ってると、自然と仕事が来なくなる。それは今の自分に対する評価なんだな、と思ってやるしかないですね」

“難しい”は同時に“面白い”

ここまでキャリアを積み、評価されると、誰かに怒られたり叱られたりすることって、ほとんどないと思うのですが、そういうことを逆に求めたりしたくなりませんか。

「確かに、“そうじゃない”と指摘されることはありますが、叱られることはないかな……。いや、うちの事務所の社長とか、劇団の座長は今も怖いですね。うん、やっぱり怒られたりしてますね(笑)」

劇団を出ようと思ったことはない?

「ないですね。別に、“あれに出ちゃダメ、これに出ちゃダメ”というルールもないですし。柄本さん(座長)からは芝居に対する姿勢や、どんな風にして芝居を面白がれるかや、そんなやり方があるのか、ということを教えていただいたんですよね。うん、だから考えたこともなかったな」

苦手意識のある役もあったと少し前のインタビューを読んだことがあります。

「それ、多分、貴族の娘の役だったかと思いますが、今も苦手意識のある役、ありますね。当時は演出家さんに色々と聞いてアドバイスをもらったりして、でも、そのアドバイスもちょっと良く分からなかったりもしたのですが(笑)、難しいと思いながら試行錯誤してやってみるのが、すごく楽しかったんですよね」

では最後に別のドラマに引っ掛けまして、江口さん自身は今どんなソロ活にいそしんでいますか?

「普通に映画を観に行くことくらいかな。お休みの日は大抵、映画館へ何か観に行ってますね。喫茶店に行くのも好きだし、散歩も好き。ドラマ「ソロ活」でやってるようなダイナミックなことはしていないですね」

映画館という場所が好き?

「やっぱり劇場で観るのが好きですし、幸せを感じます。昨日も劇場でリュック・ベッソンの『ドッグマン』を観ました。主役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが好きなんですよ。 “え、ここで終わり!?”という、まさかの終わり方でしたが、すごく面白かったですよ」

ちょうど舞台「リア王」の公演期間の真っ最中で、「今日も緊張しています。心に余裕がない」とおっしゃりながらも、江口節を要所に効かせてくれました。やっぱり、どうにも気になる役者さんです。

映画『あまろっく』の年齢が逆転した義母・娘の、ぶつかり合いながらも肩を寄せ合う優しい関係が、観る人の気持ちをフッと軽くさせてくれると思います。江口さんをはじめ、鶴瓶さん、中条さんの魅力(中条さんの気風の好い関西弁も必聴です!)を存分に味わえる作品を、是非、劇場で楽しんでください。

映画『あまろっく』

4月19日(金)新宿ピカデリー他 全国公開

©︎2024 映画「 あまろっく」 製作委員会
2024年/日本/119 分/ 配給:ハピネットファントム・スタジオ 

監督・原案・企画:中村和宏

出演:江口のりこ、中条あやみ、笑福亭鶴瓶ほか

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写真:菅原有希子

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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