マルチタスク世代の頭の中は忙しい!
私の脳内図
今回は作家の西加奈子さんが登場。作家として執筆を続ける一方で1児の母でもある彼女の頭の中は? その思考から、西さんらしさが垣間見えるはず。さらに、乳がん治療を経た今の心境の変化も聞きました。
西 加奈子さん〈作家〉
何をしていてもフックがあって「書くこと」につながる。「読むこと」も私を生かすものです
にし・かなこ●1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年にデビューし、’15年に『サラバ!』(小学館)で直木賞を受賞。昨年は乳がん治療を描いたノンフィクション『くもをさがす』(河出書房新社)と、5年ぶりの短編小説集『わたしに会いたい』(集英社)が話題に。1児の母。
公式サイト:http://www.nishikanako.com/index.html
最新作は、乳がんの治療期間中に書かれた作品も含む短編小説集。ドッペルゲンガーが会いにくる表題作、グラビアアイドルが乳がんのため乳房を全摘出する『あらわ』など、「わたし」の体と生きづらさを見つめる8編を収録。『わたしに会いたい』¥1540/集英社
西 加奈子さんの脳内図
「書く」と「読む」がほぼ同じ割合。きっぱり分けられず、暮らしも重なって。運動や真っ白になる時間も欠かせません
書くことと読むことが、ともに脳内の6〜7割。それらと重なり合うようにして、“家族や暮らし”が同居します。「子どもに関しては、授乳中は自分と一体化するような感覚がありましたが、“自分の子どもは自分ではない”ということは常に意識。普段頭がフル回転しているので、ピラティスや寝る前の深呼吸で、考えない時間も強制的に作るようしています」
作家として数々の独創的な作品を生み出し続ける西加奈子さん。この春小学生になる1児の母でもあり多忙な毎日ですが、頭の中は「昔に比べるとシンプルになった」と言います。
「自分が楽しむことにフォーカスするようになりました。前はもっといろいろなことが頭を占めていて、仕事も書くだけじゃなくて、テレビ、取材、対談などがあって、依頼があったときにスパッと断れなかったんです。『これは引き受けたほうがいいかな』とか『断ったら失礼かな』とか考えすぎてしまって。でも今は、自分がやりたいかどうかで決めて『ごめんなさい、無理です』と言えるようになりました。私はメールの返信も早いし、締切はちゃんと守るし、すごくまじめなんです(笑)。だからこそ、忙しくなりすぎると余裕がなくなって、以前は年に2回ぐらい倒れていたんですよ。
まじめであることは素晴らしいからそこは受け入れたうえで、糸をパンパンに張りすぎないよう、緩めるように自分で調整しています。そんな中でも、やっぱり“書くこと”は頭の中で6〜7割は占めていて、それもきれいに分かれるわけじゃなくてレイヤーになってるんですよね。100%遊んでいるつもりでも、頭と心のどこかにフックがあって、書くことにつながっている。この感覚は作家である以上、一生続くんだと覚悟しています。ただ、子どもができてからは、フレキシブルに書けるよう訓練を。めちゃくちゃ盛り上がっていても、子どもが帰宅したらパソコンをぱたんと閉じられるようになりましたね」
西さんにとって“書くこと”と同じぐらい欠かせないのが“読むこと”。特に、約3年前に当時の滞在先であるカナダで乳がんが見つかり、治療に取り組んだことで、読書の必要性をあらためて感じたのだそうです。
「病気になって、読むことは本当に私を生かすものなんだと痛感しました。ネガティブな感情を持ったとき、さまざまな作品内で登場人物が先にその感情を経験してくれていて、それに心から救われました。『なぜこの主人公は私の気持ちを知ってるんだろう』と震えるような感覚になったこともありました。病気を経験したことで、命はひとつで人生は1回しかないということを強く思ったし、そのおかげで込み入った問題でも俯瞰して考えられるように。間違いなく、今のシンプルな考え方に大きく影響していると思います」
張り詰めがちな毎日の中では、あえて“空白の時間”を取ることも意識しているそう。
「なるべく頭を真っ白にできる時間を作るようにしています。私は呼吸が浅いみたいで、一度大きく息を吐き切ってみたら胸がキリキリするほどだったので、寝る前に5分でも、しっかり深呼吸を。また、週1回ピラティスに通っているのですが、ピラティスは呼吸を意識するから、動きとしてはきついのに頭の中は寝ているみたいな状態になり、瞑想のようで心地よくて。この時間で頭を空っぽにすることもあれば、その日感じた自分のネガティブな感情と向き合うことも。
イライラしたことなどがあったら、同じシチュエーションを思い出してもう一度やり直してみるんです。どんどん掘り下げると『本当は怖かったんだ』『うらやましかっただけかな』などと自分の本心がわかる。自分のネガティブな感情に目をつむってしまうのが気持ち悪いんです。周りにはうまく言い繕ったとしても、自分にだけは正直でいたいなと思います」
また、カナダでお子さんと一緒に始めた柔術は、今でも週2回のレッスンを継続しているとか。その魅力は?
「自分に向いていないことをやり続けることも大切だと思って(笑)。もちろんそれ以上に好きだからなんですけど、年齢とか地位とか関係なく戦って、毎回丸腰で行ってボロボロで帰る。それが何だかめちゃくちゃ大切な時間で、日本に帰国してからもずっと続けているんです」
Staff Credit
撮影/須藤敬一 イラストレーション/オザキエミ 取材・原文/野々山 幸(TAPE)
こちらは2024年LEE5月号(4/6発売)「私の脳内図」に掲載の記事です。
※商品価格は消費税込みの総額表示(掲載当時)です。
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