米アカデミー賞作品賞・脚本賞ノミネート作品
映画『パスト ライブス/再会』切なさが止まらない! 初恋相手との再会の行方は――
2024.04.15
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折田千鶴子さん
映画ライター
そろそろベランダ飲み&食べが気持ちよい季節。昨年購入したオレンジ色のサンシェードの出番です。
『パスト ライブス/再会』
切なさが止まらない! 初恋相手との再会の行方は――
子ども時代に“ずっと一緒にいたい”と思い合った初恋相手と不可抗力で別れ、大人になって再会したら? もちろん互いにいくつか恋もしたし、考え方だって変わりもした。でも心のどこかに引っかかっていた、ずっと会いたかった人――。設定だけ聞けば“それ、知ってるかも”と既視感を覚えるし、目新しさはない。けれど、こんな複雑で切ない感慨にふけるなんて新鮮! 非常にパーソナルな物語ながら、派手な大作にはさまれて今年の賞レースを席巻(米アカデミー賞作品賞・脚本賞ノミネートほか)した本作は、誰しもに各々の“感極まる瞬間”をもたらすだろう。
ソウルで生まれ育った泣き虫少女ナヨンと、クラスメイトの少年ヘソン。2人はいつも一緒に過ごしてきたが、ナヨンの家族がトロントに移住することになり、12歳で離れ離れに。ナヨン改め英語名ノラは、やがて家族とも離れてNYに移住、劇作家として活躍。一方、大学を卒業し兵役も終え、就職したヘソンは彼女を忘れられず、遂にフェイスブックで探し当てる。ソウルとNYで12年ぶり、ビデオチャットで言葉を交わした2人は、瞬く間に意気投合。
移民として肩ひじ張って頑張ってきたノラも、力が抜ける居心地のよさを感じる。とはいえ物理的な距離+αがリアルに会うことを妨げ、2人の思いはそれぞれの日常に埋没されてゆく。それから12年、2人は36歳。ノラは作家アーサーと結婚7年目を迎え、ヘソンは恋人と別れたばかり。ヘソンはノラが既婚者と知りながら、遂にNYに会いに行くが――。
激情がほとばしるようなこともなく、それぞれの人生を自分なりにもがきながら歩んでいる姿が淡々と描かれる。それゆえ特にノラが“なんとなく流されて生きている”と感じる人もいるかもしれない。でも、それもまた等身大でリアル。移民として異国で生きる現実は、人生の選択に無関係ではないだろうし、見た目より葛藤も奮闘もずっと激しいだろう。もちろん夫のことも愛している。けれど自分の過去やアイデンティティと密接に結びついたヘソンの存在と居心地のよさも、できれば大切にしたい。果たしてノラの選択は――。
あれも欲しい、これも欲しいと無邪気にねだれる子どもだったら。情熱に身をゆだねて突っ走れる若者だったら。あるいは打算で動くことに何のためらいも感じずに、汚れちまった悲しみを丸めて捨てられたら。あぁ、大人になるってこんなにも切ないことなのか。観終えてしばし呆けたように考え込んでしまう。けれど同時に、“でも大人になるって悪くないな”とも思わされる。ノラが何度も口にする“イニョン(縁)”という響きも脳裏にこだまする。
何の変哲もないようで、会話の妙も場面構成も実に秀逸。私自身、評判ほどではないな、なんて思っていたら、いきなり……。誰かと“どこで感極まりポイント”がきたか、話したくなるはず。その際も、思わず思い出し泣きしないよう、ご注意を。監督は、自身の体験を元にした本作が長編初監督となるセリーヌ・ソン。
全国で公開中
『悪は存在しない』
ベネチア国際映画祭銀獅子賞(審査員大賞)を見事受賞!
『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督と、同作でタッグを組んだ音楽家・石橋英子氏の共同企画で誕生した人間ドラマ。自然豊かな長野県水挽町。代々この地で生きて来た巧が幼い娘と慎ましく暮らす家の近くに、グランピング場建設計画が持ち上がる。しかし、町の大切な水源に汚水を流す杜撰な計画だと発覚し、町に動揺が広がる。そんな中、巧の娘は一人で森をさまよい歩くことが多くなっていく。濱口監督作品らしい不穏な空気が充満し、その濃度が増していく中で予測できない事態がはたと現れる。人間と自然の関係、人間の不遜さ、不可解さ。衝撃のラストにただ動悸が速まる。
4月26日より全国順次公開
『No.10』
オランダの鬼才が放つ衝撃作! 不倫を巡る復讐の行方は――
舞台でW主演を務める女優と不倫中のギュンターは、老齢の共演者から女優の夫の演出家に告げ口される。演出家は監視の目を光らせながら、ギュンターをその俳優が演じる予定だった老人役に降格、交換。筋が通らないと皆も反対するが、舞台の幕があく。ギュンターは舞台上で密告した俳優に、とんでもない復讐を実行。そんな折、ギュンターの娘に、そして自分にも肺が一つしかないことが発覚し――。シリアス調なのに、胸の中でグフグフと笑いが込み上げる不可思議な作品。この発想や展開の自由さ、クセになる! アレックス・ファン・ヴァーメルダム監督の鬼才ぶりに喝采。
4月12日より全国順次公開
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配信 CINEMA & DRAMA
『三体』
世界的ベストセラー小説の実写ドラマ化
劉慈欣(リウ・ツーシン)による壮大なSF小説を『ゲーム・オブ・スローンズ』製作陣が実写化。1960年代、文化大革命で物理学教授の父を殺された天文物理学専攻の女子大生・文潔(ウェンジェ)は、その後科学秘密基地で働くことに。それから数十年後の現代、優秀な物理学者が次々と怪死する事件が起きる。イギリスの科学者たちが真相を探る中でVRゲーム「三体」に行き着くが。舞台や人物に変更を施しラブ要素を濃く翻案、異星文明の襲来に対峙する姿を描く。小説では難解だった現象を紐解く映像にも目をみはる!
Netflixで独占配信中
※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。
Staff Credit
イラストレーション/SAITOE
こちらは2024年LEE5月号(4/6発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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