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LIFE

津島千佳

ドラマ化で話題『嫌われる勇気』から学ぶ、アドラー的子育て術〔第2回〕

  • 津島千佳

2017.02.18

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現在放送中のTVドラマ『嫌われる勇気』(フジテレビ系列・毎週木曜22時〜)。その原案となった書籍には今の日本の常識とは逆に思えるアドラーの教えが描かれています。

そこで同書の共著者でアドラー心理学の研修者である岸見一郎先生へのアドラー的子育て術インタビューの第二弾。子供のためと思っての行動が、実は子供の自立を妨げている!? 自立を促す育児法を中心にご紹介します。

多くの親は子離れができていない

津島 アドラー心理学は過去の原因ではなく、未来の目的を重視しています。そんなアドラーの考えを子育てに応用するにはどうしたらいいでしょうか?

岸見 どんな風に育てたいのか、絶えず考えておくことです。考えておかないとその場限りの対応になります。泣いたら叱る、の繰り返しではなく、どんな風に育ってほしいか見据えていないと刹那的になります。

津島 どうなってほしいか、とは、もちろん職業的な意味ではないですよね。

岸見 精神的な面です。親の手を離れて生きていくため、自立するための援助をするのが子育ての目的。しかし多くの親は対応を間違え、自立を妨げています。

津島 どういう行為が自立を妨げますか?

岸見 子供が自分で解決しなければならない課題を親が肩代わりすることです。勉強をする・しないは子供の課題であって、親が「勉強をしなさい」というのは間違い。自分で解決しないといけません。ある年齢になったら自分でできるようになる。それなのに親はいつまでもできないと思って、手や口を出します。

大人が思うよりも早い時期に自分のことをできるようになります。「この子は何もできない」と思っていたら、できないふりをします。

津島 小さくてもそんな悪知恵が! それにしても子供のできる・できない、の見極めって難しいです。

岸見 多くの親は思春期になっても朝、起こしますが、起きないのは子供の課題。そもそも朝起きられないはずはありません。必要があれば親が起こさなくても、アラームをセットして一人で起きて出かけて行きますよ。

子供が小学校に入学する前夜に「あなたは明日から小学生だから、一人で起きてもいいですよ」と目覚まし時計を渡した知人がいました。時計の使い方を教えたら、それ以来、起こすことはありませんでした。またその話を聞いた別の知人は、4歳の子供に同じことをしたら一人で起きられるようになったそうです。

朝、起きられるようになる見極めは難しいですが、大人が思っているよりは早い時期に起きられるようになります。

津島 個人差はあると思いますけど、4〜5歳になれば一人で起きられるようになるんですね。

岸見 起きるだけに関わらず、親が思っているよりも子供の成長は早いと思っていた方がいいですね。

津島 子供の成長が早いといえば、うちは1歳半なのでまだ会話はできないのですが、こちらが言っていることはわかっているような気はします。

岸見 わかっていると思いますよ。完璧にわかっていると思って付き合ってください。わからないと思ってひどいことを言って、わかっていたら困りますよね。私の経験では、かなり早い時期に子供は理解していると思います。

感情よりも対話で気持ちを伝えることを教える

津島 アドラーの考えで個人的に一番納得できたのは「怒りはコントール可能な道具」という部分でした。

岸見 全ての感情は作り出すもの。喜びの感情は否定しませんが、それ以外の怒りや悲しみといった感情は目的があって作り出されたもの。目的は他者の操作です。

津島 他者の操作?

岸見 怒れば相手が自分の言うことを聞くと考える。悲しみもアドラーは『涙の力』と言っています。女性も涙を武器にする人がいますよね? これも人を操作する行動。感情よりも言葉の方がよく理解してもらえるし、それがわかったら怒りや悲しみの感情は使わなくなります。

スーパーで怒りながら泣いている子供がいますよね。「もう捨てて帰るから」と怒っても、親が自分を見捨てないことを知っていますから泣き続けます。そして世間体を気にして、結局親はほしいものを買ってしまいます。10〜15分粘って買うのなら、最初から買った方がいいでしょう。ただし、子供が泣いて怒ってから買うと「親は泣いたり、怒ったら言うことを聞いてくれる」と学びます。

息子が保育園の頃、スーパーに寄ったことがありました。スーパーで息子が泣いたので「そんなに泣かなくていいから、どうしてほしいか、言葉でお願いしてくれませんか」とお願いしました。子供は泣き止んで「あのお菓子を買ってくれたら、とってもうれしいんだけど」と言いました。子供は親の要求内容ではなく、要求の仕方が嫌なのです。「その言い方、嫌だな」と思うことは大人でもありますよね。でも子供は泣く、怒る以外の交渉の仕方を知らない。だから言葉での交渉を教えるのです。

津島 一方的に叱るのではなく、対話による交渉が大切。大人同士の付き合いなら当たり前のことが、対子供になるとできないんですよね。

岸見 叱りつけているから、子供が怒る。冷静に接していれば、子供は感情的にはなりません。問題行動をしている時でも命令形は絶対使わない。「●●してくれませんか?」とお願いにする。NOを言える余地を残す言い方にする。「早くしなさい」ではなく「早くしていただけませんか?」というふうに、です。

津島 敬語で話すんですか?

岸見 全てを敬語にする必要はありませんが、何かをしてほしい時には敬語にした方がいいですね。

子供に敬語を使う人は少ないですが、本当はそういう言葉を使った方がいいですね。自分の子供を尊敬すること。

津島 自分の子供を尊敬するって、考えたこともありませんでした。

岸見 もちろん、尊敬しなければなりません。対等な関係に立つとはそういうことです。

対等な関係に立つという点では、先にお話した勉強は子供の課題ということもそうです。放っておけば成績は下がって、それがいいわけではありません。もし困っている相手が友達だったら放置する気にはなりません。でもいきなり踏み込むのではなく、「何かあったの?」と前置きをしてから入るでしょう。

親が介入するのはいけませんが、親子の課題とすることはできます。これは一方的な関わりではありませんね。「最近、あまり勉強をしているようには見えませんが、そのことについて一度話し合いをさせてもらってもいいでしょうか?」と尋ねます。「ほうっておいてくれ」と返事をしたのであれば、「楽観的な状況には見えませんが、いつでも相談にはのります」と答えるにとどめておきます。求めてくれば、それに応じればいいのです。子供とはこれくらいの距離感がいいのです。でも他人ではないから共通の課題とすればいい。多くの親は子供の課題か自分の課題かがよくわからなくなっています

 

次回は、夫婦間で子育て方針が違う場合の対応などをうかがいます。

お話をうかがったのは、岸見一郎先生

哲学者、日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問

1956年京都府生まれ。高校生の頃から哲学を志し、京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学後、1989年よりアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆、講演活動、精神科医院などでのカウンセリングを行う。

嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え

岸見一郎、古賀史健/ダイヤモンド社 ¥1500

フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称されるアルフレッド・アドラーの思想(アドラー心理学)を、「青年と哲人の対話」という物語形式で紹介。欧米で絶大な支持を誇るアドラー心理学は、「どうすれば人は幸せに生きることができるか」という哲学的な問いに、きわめてシンプルかつ具体的な“答え”を提示します。

自分自身だけではなく、育児にも応用できる“答え”も数多く掲載。あなたが、あなたらしく生きるためのヒントを与えてくれます。

津島千佳 Tica Tsushima

ライター

1981年香川県生まれ。主にファッションやライフスタイル、インタビュー分野で活動中。夫婦揃って8月1日生まれ。‘15年生まれの息子は空気を読まず8月2日に誕生。

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