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大人の気だるさと幸せに“あるある!”となる小説

【今月おすすめの本】長嶋 有、ドリアン助川、桜木紫乃、川内有緒

2023.12.28

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『トゥデイズ』
長嶋 有 ¥1760/講談社

大人の気だるさと幸せに“あるある!”となる小説

『トゥデイズ』長嶋 有 ¥1760/講談社

忙しい毎日の中で、小さな幸せを再確認したくなる瞬間って誰にでもあるもの。今月の一冊は、私たちのリアルに、優しく寄り添ってくれる家族小説だ。主人公は美春と恵示、一組の夫婦。2人とも働きながら、5歳の息子の子育てに奮闘中。よい住環境を求めて、郊外にある築50年の大型マンションに住んでいる。そんなある日、美春はマンション内で飛び降り自殺に遭遇する。自分たちが住んでいる場所で人が亡くなったのは大きな出来事のはずながらも、美春と恵示が気にかけなくてはいけないのは、朝食に飲む牛乳の補充、息子の保育園への送迎、マンションの管理組合の仕事やご近所づきあい、家事の分担だった。ショッキングな事件は生活の片隅に押しやられ、季節は過ぎる――。

この小説の読みどころは、美春と恵示の2人が、自分たちの生活をちょっと俯瞰して見ているところ。「私たちは、いつの間にこんなに自然と“大人”や“親”として振る舞うようになったのだろう」と、ふとした瞬間に気恥ずかしさを感じている。その恥じらいをお互いにごまかすかのような、夫婦間のコミカルなやり取りもほほえましい。気がつけば“郊外で暮らすファミリー”という枠組みに入っている自分たちを不思議に思い、少し窮屈に感じ、でも家族3人の暮らしが続く健やかさ。

私たちにとっても、「わかるなあ~」と思える心の機微が丁寧に描かれ、励まされるような気持ちに。仕事、家事、子育てでバタバタしすぎているときにページを開くと、「とは言え、これが幸せなのかもしれないな」と、肩の力が抜けていきそう。

著者の長嶋有さんは、小説家として執筆を続ける一方、漫画評論家としても活躍し続けている。表題作のほかに収録されている『舟』は、コミカライズされている短編小説。こちらは高校生の女の子の淡い恋心と友情が主題。胸をキュンキュンさせてくれる青春もの。『トゥデイズ』の主人公たちからは同世代として共感を、そして『舟』のキャラクターには、思春期の頃の懐かしさをたっぷり味わえそう!

『動物哲学物語 確かなリスの不確かさ』
ドリアン助川 ¥2000/集英社インターナショナル

『動物哲学物語 確かなリスの不確かさ』ドリアン助川 ¥2000 集英社インターナショナル

小説『あん』が22言語に翻訳されるなど、世界中で読まれている著者の最新刊。リス、カピバラ、ニホンジカなど地球上に住む動物たちが主人公となり、自分や周りの存在について問いかけていく。生きものの生態と哲学のエッセンスが織り交ぜられたストーリーは示唆に富み、視野が広がる。一話10ページほどの短編小説で、子どもと読み、感想を話し合うのにもぴったり!



『彼女たち』
桜木紫乃(著) 中川正子(写真) ¥1650/KADOKAWA

『彼女たち』桜木紫乃(著) 中川正子(写真) ¥1650 KADOKAWA

直木賞作家の桜木さんと人気写真家・中川さんの、初のコラボレーション。自由を手にしているイチコ、家族の中で暮らすモネ、パートナーとの別れを経験したケイ。3人の女性たちの本音と、それぞれの心の底から浮かび上がってくる希望を描き出す。短い物語に呼応するような、中川さんの繊細な写真が魅力的。大切な人へのプレゼントにしても、喜ばれそうな一冊。

『自由の丘に、小屋をつくる』
川内有緒 ¥2420/新潮社

『自由の丘に、小屋をつくる』川内有緒 ¥2420 新潮社

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』で「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」を受賞した著者の最新作。著者は40代で出産。自らの手で何かを作ることが、娘が大きくなったときに生きる力として寄り添ってくれるのでは、と小屋づくりを始める。果たして、小屋を建てることはできるのか。何かを手作りしたいという思いが湧きたつドキュメント。


Staff Credit

取材・原文/石井絵里
こちらは2024年LEE1・2月合併号(12/7発売)『カルチャーナビ』に掲載の記事です。

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