肥大化していく、大人の承認欲求から目が離せない!
【今月おすすめの本】小川 哲『君が手にするはずだった黄金について』他3編
2023.11.27
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BOOKS
今月の注目情報をお届け!
『君が手にするはずだった黄金について』
小川 哲 ¥1760/新潮社
肥大化していく、大人の承認欲求から目が離せない!
SFやミステリの分野で高い評価を経て、2023年1月には、歴史×空想小説『地図と拳』で直木賞を受賞した小川哲さん。現在36歳の小説家で、今後も、幅広いジャンルで活躍が期待される存在だ。最新刊の『君が手にするはずだった黄金について』は、自身を思わせる小説家・小川という男が主人公の連作短編集。小川は、大学院在学中から小説を書き始め、30代になってからは、専業作家になった。そんな彼の前に現れる、一筋縄ではいかない人物たち。彼らの姿は、小川にさまざまな問いをもたらす――。
表題作は、小川の高校時代の同級生・片桐の生き方を追いかけていく。高校卒業後、付き合いの途絶えていた2人だったが、片桐からの突然の連絡で再会する。小説家になった小川をやたらと絶賛してくれた片桐だったが、後日、別の同級生たちから、彼が80億円を運用するトレーダーになり、その投資術を有料ブログで教えるカリスマになっていると知らされる。片桐の意外な能力や、SNSへ投稿された羽振りのいい生活に驚く小川。だが彼は、ブログの会員から、『掲載された情報は誰かのパクリで、投資の実績も、華やかな生活も嘘ではないか』と指摘され、返金を求められるように。
片桐の窮地を目撃し、人間の承認欲求の奥深さに思いを馳せる小川。しかし小説という“虚構”を作る自分が、投資情報をかき集め、ブログの読者に夢を与えていた、彼の行為を責められるのだろうか、との思いもわき上がる。
そのほかにも、千里眼を自称する占い師、偽ブランドの腕時計を巻いて人前に登場する漫画家など、真実と虚偽の間で生きる人々が登場する。「誰かに認めてほしい」「何者かになりたい」という感情は、心のどこかにあるもの。その思いがどうやって本人を動かし、さらに周りに影響を与えていくのか。キャラクターたちの言動と、小川の鋭い考察に、ハラハラしたり、思わぬ視点を与えてもらえたり……。謎解きのような要素も楽しみつつ、自分や他者の持つ、欲望や欲求に思いを馳せられずにはいられない一冊!
『逃げ道』
ナオミ・イシグロ(著) 竹内要江(訳) ¥2750/早川書房
ノーベル賞作家、カズオ・イシグロの娘の短編集。妻が買ってきたぬいぐるみがもとで、彼女との関係に戸惑いを覚える夫。宇宙飛行士に憧れる少年と、彼の夢を叶えようと奇妙な課題を出す青年との関係。現実とファンタジーが交錯する物語は、独特の味わいが。少し変わった短編が読みたい、というときにぜひ。
『中受離婚 夫婦を襲う中学受験クライシス』
おおたとしまさ ¥1760/集英社
私立中学への受験準備で夫婦関係に亀裂が入った3組の家庭を、夫、妻、子の視点で追ったセミ・フィクション。夫婦それぞれの教育や人生観への違い、追い詰められた状況での相手への対応がリアル。著者の、心理学的な解説も参考になる。中学受験は夫婦にとっても大きな試練。この現実と、お互いにとっても生き方を見直せる機会であることを、教えてくれる。
『体が硬い人のための腰痛リセット術』
とも先生 ¥1430/Gakken
’23年LEE10月号「その不調『バナナ腰』が原因かも!?」でLEE世代の腰からくる不調の改善を手助けしてくれた、ストレッチ整体師とも先生の新著。すでに腰の不調を感じている人から、腰痛を予防したい人まで、レベル別にわかりやすくストレッチを解説。現代人の生活は腰の負担になる習慣や生活スタイルが多いからこそ、まずこの1冊から腰痛の改善&予防を始めてみては。
Staff Credit
取材・原文/石井絵里
こちらは2023年LEE12月号(11/7発売)『カルチャーナビ』に掲載の記事です。
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