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CULTURE NAVI「CINEMA」

ヒロインの心の軌跡をたどる家族の物語

映画『愛にイナズマ』凸凹家族+KY彼氏が繰り広げる愛と感動の大暴走

2023.10.18

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『愛にイナズマ』

『愛にイナズマ』
©2023「愛にイナズマ」製作委員会

凸凹家族+KY彼氏が繰り広げる愛と感動の大暴走

観ている間、何度か景色が変わり、そのたびに小さな驚きと感動が生まれ、それが膨らんでいく。“あるある”と共感で始まる仕事の現場から一転、ヒロインの心の軌跡をたどる家族の物語は、心の襞にどんどん分け入ってくる。

ようやく悲願の映画監督デビューを控えた花子(松岡茉優)は、口先だけのプロデューサー(MEGUMI)と、完全に花子を見下し否定しまくる助監督(三浦貴大)に裏切られ、企画だけを奪われる。失意のどん底の花子を救ったのは、偶然出会った空気の読めない正夫(窪田正孝)の「もう諦めるの?」という言葉。花子は映画の題材でもあった“消えた母親”の真実を突き止めるべく、長らく音信不通にしてきた家族を訪ね、カメラを向ける――。

花子と正夫の奇妙にも心温まる不器用な交流と恋にソワソワしていると、いつしか濃い家族ドラマへ。彼らの個性豊かなキャラが、とにかく最高! 母に愛想を尽かされたいい加減な父(佐藤浩市)、いかにも羽振りがよさげな口八丁の長男(池松壮亮)、まじめすぎてストレスをため込む神父の次男(若葉竜也)が、花子に乞われるままカメラの前に座り、神妙な顔で“家族ドラマ”を演じる(ドキュメンタリーなのに)姿に、思わず噴いてしまう。いきなりキャラ変して家族に毒舌を吐きまくる花子、間に入って必死でとりなす正夫、文句を言いつつ娘・妹の言いなりになる父と兄らが、嵐の晩を経てぶつかり合いながら少しずつ本音と真実を漏らしていく。

そしてすべての真実が明らかになった瞬間、驚きとともに各人の思いや優しさが胸にしみて、涙が止まらなくなる。しかも笑い泣き! 『舟を編む』『ぼくたちの家族』などの石井裕也が、またも放った新たな傑作。これだけの俳優が揃って絶妙な掛け合いを繰り広げる贅沢なお楽しみ、コロナ禍を経てトゲトゲしさを増す世間をチクリと刺しながら、泥臭くも温かい家族の愛に包まれる。その幸せを、ぜひあなたも! 仲野太賀、趣里、高良健吾ら俳優陣がみな最高です。

10月27日より全国ロードショー

公式サイト

私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?

『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』
©2022 le Bureau Films – Heimatfilm GmbH + CO KG – France 2 Cinéma

なんと衝撃の実話! 震えが止まらない社会派サスペンス

仏原子力企業の労働組合代表であるモーリーンが、中国とリスキーな技術移転計画を結ぼうとする上層部の極秘計画に気づき、告発。脅され、性暴力にあうが、なんと自作自演だと逆に訴えられる。利権に群がる権力者がこぞって潰しにかかる中、打ちのめされた彼女がいかに無罪を勝ち取るか、6年の闘いを描く。心臓爆打ち一気見必至のうえ、告発どおりの現状に背すじが凍る。家族愛にも思わず涙。信念の女優、イザベル・ユペール主演。

10月20日よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開

公式サイト

『シック・オブ・マイセルフ』

『シック・オブ・マイセルフ』
© Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Väst 2022

自分が大好きすぎる承認欲求モンスター、嫌悪と共感が錯綜!

『わたしは最悪。』の北欧からまた、ダメっぷりをさらに上げたヒロインが大暴れ! 同棲中の彼氏がアーティストとして脚光を浴びるや、動揺したシグネは嫉妬と焦燥を募らせていく。自分も注目を集めようと口をついて出る嘘の数々に、噴き出すやら呆れるやら。しかも、どんどんエスカレートしていく様に嫌悪感が湧き上がる。イヤだけどちょっとわかる、絶妙なくすぐり具合。現代的とも言える承認欲求の向かう先を、最後まで見届けてほしい一作。

10月13日より新宿武蔵野館ほか全国公開

公式サイト

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


Staff Credit

取材・原文/折田千鶴子

こちらは2023年LEE11月号(10/6発売)『カルチャーナビ』に掲載の記事です。

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