韓国のイラストエッセイ『あなたを応援する誰か』(ソン・ミファ著、桑畑優香訳/&books)は、元東方神起のジェジュンとBTSのリーダーRMが読んだことで話題の一冊です。発売から10年経過していますが今でも韓国で売れ続け、版を重ねています。日本での発売を記念して、著者でイラストレーター兼エッセイスト、LEE世代のソン・ミファさんにインタビュー!
まずは自分を愛することで心に余裕が生まれ、他人を愛することもできる
——ジェジュンさんが『あなたを応援する誰か』に掲載された「利己的でも大丈夫」というエッセイをSNSでシェアしたことが、ヒットのきっかけと言っても差し支えないと思います。ジェジュンさんの件を知ったとき、どんな気持ちでしたか?
ソン・ミファさん(以下ミファ):すごく驚きました……本当にありがたいです。私のイラストと文章がジェジュンさんの癒しになったのであれば、とても嬉しいです。
——「利己的でも大丈夫」に書かれていた「もう少しわがままになっていい」という言葉が印象的でした。何か書くきっかけとなった出来事があったのでしょうか?
ミファ:当時の私は30歳前後で、やりたいこと、やらなければならないことがいっぱいで、前だけを向いて必死に走り続けていました。周囲の人間関係にも気を遣い、「わがまま」とは真逆の日々過ごしていました。でも一生懸命やっても上手くいかないこともあるし、人間関係で傷つくこともある。他人のSNSを見ては「あの人は幸せそうなのに、それに引き換え私はどうして……」と、常に自分と誰かを比較し、自分を責めてばかりいました。でも、一見幸せそうに見えても実際のところはどうかわかりませんし、生き方はみんな違って当然なんですけどね。ちなみに今でもたまに他人のSNS投稿を見て、モヤモヤすることがたまにあります(笑)。
そのうち、自分を愛する方法について深く考えるようになりました。「利己的でも大丈夫」というのは、言葉通り「利己的」という意味ではありません。まず自分を愛してこそ心に余裕が生まれ、それから誰かを心から愛することができる。そのことに気づいてから、「私は自分を愛する方法を知らなかったんだ、だから上手くいかなかったんだな。これからは少しずつ努力して、自分を大事にする方法を学んでいこう」と思うようになりました。
一歩踏み出すときはいつも怖い。でもいざやってみると、乗り越えられることが多い
——『あなたを応援する誰か』の中で、ご自身が一番好きな箇所は?
ミファ:「最初」というタイトルのエッセイの、以下の箇所です。
ありもしない未来をおそれる必要はない。
明るい夢を抱けば、何かが生まれるはずだから。
それに、もし何かが起きても、
きっと乗り越えられるはずだから。
(『あなたを応援する誰か』より抜粋)
ミファ:これは実は、自分自身にかけた言葉でした。わたしはすごく怖がりで、何かを始める時はいつも「どうしよう」と心配して、友達に相談したり。このインタビューの前もハラハラ、ドキドキしていました(笑)。でもいざやってみると、乗り越えられることが多いんですけどね。昔も、今も。だから何かを始める前は「きっと乗り越えられるはず、大丈夫」と自分に言い聞かせています。何かを始める時、なかなか一歩を踏み出せない人を周りでもたくさん見てきました。だから、この言葉が誰かにとって応援の言葉になるんじゃないかな?と思って書きました。
——日本でも、暖かで優しい色合いのイラストが好評です。絵を描くときに心がけていることはありますか?
ミファ:自然豊かな山のふもとに住んでいて、散歩のときに努めて自然を観察するようにしています。家の上にあるリンゴ畑を歩きながら、リンゴを一生懸命育てている農家のおじいさんの姿を観察しながら、インスピレーションを得ています。心に浮かんだ言葉を、手帳かスマホに書き留めるよう心がけてもいます。旅に出る時は、いつも小さなスケッチブックと絵具を持って行きます。旅先で書いたイラストをその場で出会った外国の方や旅行者の方にプレゼントして、お返しにジュースをいただいたこともありました(笑)。
「読者を応援したい」と本を出したのに、わたしのほうが読者に応援してもらっていた
——読者から届いた感想の中で、嬉しかったのはどんな言葉でしたか?
ミファ:地下鉄で移動中に受信したメッセージは、今でも鮮明に覚えています。その方はとても落ち込んでいて、病院に相談に行った帰りにたまたま目についた書店で『あなたを応援する誰か』を見つけ、一気読みされたそうです。「心がとても穏やかになって、すごく良かった。とてもありがたかったので、ブログを探してお礼を言いたかった」というメッセージを読んだ瞬間、泣きそうになりました。
出版社にメールを送ってくれた男性の方も印象に残っています。会社が辛くて体調を崩してしまい、一方で小さな子どもがいる家長として、先行き不透明で悩んでいたそうです。そんな中『あなたを応援する誰か』を読んで救われた、と。SNSにメッセージを下さる方もいます。「読者を応援したい」と思って本を出したのに、わたしのほうが皆さんからのメッセージに応援してもらっていました。きっと皆さん、勇気を振り絞って、メッセージを送ってくださったんじゃないかな? こういったメッセージをいただくためにも、もっと良い作品を作りたいと思います。
益田ミリ、ジブリ、岩井俊二、是枝裕和、「逃げ恥」、そして『SLAM DUNK』が好き!
——好きな日本のイラストレーターや作家はいますか? 日本の文学や映画などに影響を受けたことはありますか?
ミファ:幼い頃から日本のカルチャーが好きで、影響を多く受けている自覚があります。漫画家の益田ミリさんが大好きで、著書をコンプリートして繰り返し読んでいます。『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『風の谷のナウシカ』等、スタジオジブリのDVDもたくさん持っていますし、何度も観ています。毎年冬になると、岩井俊二監督の映画『ラブレター』を必ず観ます。是枝裕和監督の映画も好きで『海街diary』ロケ地の鎌倉を訪れたこともありますよ。ドラマも好きです、「逃げるは恥だか役に立つ」は新垣結衣さんの美しい笑顔がとても印象的でした。日本には独特の色合いがあると思います。清潔感があり、原色ではなく、すごく温かい。冷たいかもしれないけれど、温かい。抽象的な表現しかできず、うまく伝わるかわかりませんが……そんな日本の色合いが大好きなんです。
——日本に来たことは?
ミファ:何回かあります。日本で最初に訪れたのが鎌倉で、一人旅で1週間滞在しました。『海風 diary』の舞台になったお店でシラス丼を食べたり、自転車に乗って海辺を走ったり、『SLAM DUNK』で度々描かれていた江ノ電の線路を見て不思議な気持ちになったり。TVアニメ版『SLAM DUNK』のオープニングに登場する鎌倉高校前駅を実際に訪れたときは、とても感激しました! 駅のベンチに座って絵を描いていたら、同じように絵を描いている日本人がいたので、一緒に絵を描いたのも良い思い出です。『SLAM DUNK』は学生時代に韓国で大流行していたんです。イラストを描くときのポジティブな姿勢も、もしかすると『SLAM DUNK』の影響を受けているかも? 登場人物で、例えライバルであっても、悪い人がいませんしね(笑)。
『あなたを応援する誰か』
ジェジュン、BTSのVも読んだ。共感の声続々! 2013年に韓国で刊行後、27刷のロングセラータイトル待望の翻訳。
『あなたを応援してくれる誰か』購入はこちらから取材・訳/桑畑優香
この記事へのコメント( 0 )
※ コメントにはメンバー登録が必要です。