【子連れで世界一周中!】仕事しかしてこなかった人気スタイリストJOEさんが「すべてを捨てる覚悟」で、妻&5歳の娘と旅に出た理由とは?
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城リユア
2023.06.27
「コロナ禍で価値観が180度変わった」
20年以上最前線で活躍してきた人気スタイリストのキャリアを捨て、仕事を後輩に譲り、妻と5歳の娘とともに1年間、世界一周に挑戦中の猛者(もさ)がいるーー。
ある日、LEEwebの畑江前編集長からそんな話を聞きつけた旅好きの筆者。気づけばオンライン・インタビューを申し込んでいました……!
猛者の名は、JOEこと城正博さん。約10年間スタイリングを担当してきた郷ひろみさんからは、最終勤務日となった「NHK紅白歌合戦」(2022年)の現場で花束を渡され、感極まって大号泣。「いつ休んだか記憶にない」ほどワーカホリックだった彼の旅立ちを知った仕事仲間たちは、その変貌ぶりに「余命わずかで最期の思い出づくりをしているのでは?」と噂するほどだったといいます。
そんなJOEさんが一体なぜ世界一周することに? 子連れの旅って正直どんな感じ? 仕事は、お金は……大丈夫なの!? どうしよう、聞きたいことが山ほどある!
「すべてを捨て去る覚悟で、世界一周に飛び込みました。いまのところマイナス要素は一つもなくて。不安だったこともすべてがプラスに変わってきています。旅に出てよかった」
PC画面越しに取材を受けてくれたJOEさんは、そう言って笑いました。誰もが一度は憧れる「家族みんなで世界一周」。その足あとを、全3回連載で追いかけます!
娘の小学校入学前の1年間。とことん一緒に遊ぶ決断
――そもそも仕事一筋だったJOEさんが、なぜ旅へ?
コロナ禍で価値観が180度変わったことがきっかけです。フリーのスタイリストである僕は「忙しい方がカッコいい」という業界の風潮・価値観にどっぷりつかって生きてきました。
妻もファッションデザイナーとして自身のアパレルブランド(※編集部注:DOMENICO+SAVIO)運営のためにずっと慌ただしく働いてきた。それが、ロックダウンにより休まざるを得なくなり……人生で初めて“仕事を休む大切さ”が身に染みて理解できたんです。
スタイリストはとにかく周囲の方々をお待ちする時間が長い職業。この20年間、休みをとった記憶はほとんどありません。それだけ人さまのために時間を使ってきたのだから、一度くらい家族や自分のためにとことん使ってもいいんじゃない? そう素直に思いました。国内旅行だとついつい仕事をしてしまうかもしれないから、海外に出ようと決断しました。
――コロナ禍で生き方・働き方を見直した人は多いですよね。JOEさんの答えは「世界一周」だったんですね。
はい。5歳の娘が来年小学校に入学する、というタイミングも大きかったです。保育園の年長さんの1年間を思い切り一緒に遊ぼう、世界一周するなら今しかないぞ、と。
「帰国後のキャリアはめっちゃ不安。でも何とかなる」
――最初に奥様に相談した日を覚えていますか?
今年の1月31日に出発したのですが、去年の5月中旬に初めて提案しました。「最高だね。でも一度きちんと考えさせて」という反応で。でもその2週間後に妻が「私もいろいろ考えたんだけど……いいかもしれない。ここを逃すと後悔するかも」と言ってくれたんです。
彼女も自身のブランドの運営を10年やりきった達成感、手応えがあったようで、一度ブランドを畳んでも後悔はないという想いに至ったようでした。
――仕事を二人とも休止することになり、帰国後の仕事は心配になりませんでしたか?
正直、めっちゃ不安でした。でもまぁ、なんとかなるかなという感覚も同時にあった。「戻ってきたらまたゼロからやり直すのもいいよね」なんて妻と話して。二人ともこれまでしっかりキャリアを築いてきたからこそ、そう思えたのかも。もっと若い頃だったら、ここまで思い切れなかったかもしれません。
一人30万円台の「世界一周旅行航空券」を購入
――半信半疑で奥様に相談したらまさかのYESで、慌てて具体的な世界一周方法を調べ始めた?
その通りですね(笑)。ヘアメイクの友人から「世界一周旅行航空券」の存在を教えてもらい、リサーチしてみると複数の団体が発売しているなかで、日本航空、アメリカン航空、カンタス航空などの大手航空会社が加盟する「oneworld(ワンワールド)アライアンス」の四大陸移動チケットならば、エコノミークラスで一人30万円台(出国税、空港施設利用料・保険料等は別途)で世界一周できると知りました。「あれ? これなら本当に行けるかも!」と、一気に現実化していった感じです。
――そんなにお得に世界一周って、できるものなんですね!
驚きですよね。僕が購入したそのチケットは四大陸上を16回乗り継ぐことができます。気になる方はぜひ公式サイトで詳細をチェックしてみてください。そのほか近距離移動はLCC(格安航空会社)や列車を使い、さまざまな国を巡っています。
――最初から細かくプランを決めていましたか?
事前にルートと旅先だけは決めましたが、細部はほぼノープランでした。行程をざっくりお伝えすると、オーストラリア、バリ島、イタリア、マルタ島を訪れ、いま(取材日)はスペインのバルセロナにいます。
EUを巡ったあとは、シェンゲン協定(加盟国内の査証免除滞在は原則として180日間のうちの最長90日間まで)に従って、一旦加盟国以外のモロッコ(アフリカ大陸)へ行きます。その後ロンドンに3ヶ月間滞在。再びEU、北欧3ヶ国を訪れ、そこからアメリカ大陸へ渡りアメリカ、クリスマスはカナダ、オーロラも楽しむ予定です。最後はハワイに立ち寄ってから帰国したいですね。
ーーめちゃくちゃ羨ましい! 南米はルートから外したんですね?
子連れ旅ということもあり、安全第一を最優先にしました。冒険よりも“暮らすように旅する”が僕たちの旅のテーマです。
円安の逆風のなか…宿泊費の予算は1日1万円から
――いま円安真っ只中ですが、旅費の節約の必要性を感じていますか?
ホントに、旅行者のお財布にとってはかなり厳しいご時世です……。旅費を切り詰めるために、宿泊先は基本的にAirbnbを利用しています。国にもよりますが、宿泊費は1日1万円〜1万5000円くらい。都心から離れないと安い部屋が見つからず、部屋探しはいつも苦戦していますよ。
節約のため外食は時折にして、毎朝地元のスーパーで食材を買い自炊しています。日中は全員でお出かけし、夜には冷蔵庫の中の食材でまた自炊の日々です。
アクティビティやエンタメの費用も必要ですが「教会の入場料が30ユーロ……やめておこうか」と思う日も珍しくありません。ある程度の金額を蓄えてから旅にでることをオススメしたいです。
娘さんのポジティブな変化と、イギリスに3ヶ月も滞在する理由
――旅を通じて、娘さんに何か変化はありましたか?
最初のうちは、保育園のお友だちに会えないことを娘は悲しんでいて、親として一緒に全力で遊んでもカバーしきれない部分があるのが心苦しかったです。しかし、オーストラリアで図書館のワークショップに参加し現地の子どもたちと一緒に絵本を読んだり、マルタ島で先生が遊び方を教えてくれるアクティビティに参加したりするなかで……少しずつ娘にポジティブな変化が見られ始めました。
彼女は元々知らない子に自分から声をかけるタイプではありませんでした。でも「日本語でも大丈夫だから、どんどん話しかけてみようよ」と背中を押していたら、いまでは同じ年頃の子どもたちに積極的に声をかけて遊べるようになりました。
1日30分、オンライン英会話も毎日続けています。彼女がこれから生きていくのは、いまよりずっとグローバルな時代でしょう。言葉の習得以上に「異文化や国籍を越えたコミュニケーションに対するハードルを少しでも低くしてあげられるのでは?」と期待しています。
一緒に世界を見て、さまざまな言語が飛び交う環境に身を置く経験が、きっと何物にも代えがたい宝物となって、彼女の未来を明るく照らしてくれればと祈っています。「子どもと一緒に旅したいという親のエゴに付き合わせてしまっているのか」と自問自答する日もありますが、「きっと娘さんは大きくなったとき、親に感謝してくれると思うよ」と言ってくれる友人たちの言葉を信じて、楽しみながら旅を続けていこうと思います。
――LEEはJOEファミリーを応援していますよ! ところでさっきサラッと流してしまいましたが、ロンドンだけ長くて3ヶ月間も滞在するんですね !
英語圏なので、娘を現地のサマースクールに入学させてみようと考えているんです。異文化への順応性や、学んできた英会話がアウトプットとして出てくるタイミングが……旅して約7ヶ月目となるロンドンになるのでは?と予想しています。
「旅を通じ、ファッションの定義が変わった」
ーーところでJOEさんは、YouTubeで旅の様子を発信中ですよね?
僕らは、裏方スタッフが情報発信することに抵抗感のある世代なのかもしれません。でもいまのネット時代は、そんな枠にとらわれず挑戦せねばという想いもずっとあって、自分的には一大決心してYouTubeを始めてみました。初心者なので、動画のクオリティは低いですが、お許しいただければ幸いです(笑)
主に旅の「記録」として更新していますが、稀に視聴者の方からコメントをいただけると、僕らの旅が少しでも誰かの役に立てているのかと、やっぱりうれしくなります。
ーーYouTubeの動画概要欄には、「スタイリストとデザイナーの視点で世界を切り取ります」と書かれていますね。
いまのところ(取材時点で)ファッションがさかんな街をあまり訪れていないので、正直全然切り取れてはいませんね。ただ先日、イタリアのミラノで久々にファションの風を感じ、「自分たちの気持ちが追いついていかない」という、予想外の体験をしました。
――ファッション一筋のJOEさんご夫妻にとっては、興味深い変化ですね!
妻とも話したんですけど、旅を通じて“ファッションの定義”みたいなものが、僕たちの中で少しずつ変わってきたように感じています。
これまでも自分たちの好きなことをして、好きな服を着てきたつもりですが、ファションビジネスから離れて客観的になったとき、もっと自分の着たいものを素直に着てみようと思えた。それはもちろん古着だっていい。若い頃、服を好きになったあの時の感覚を取り戻し、ファションに対して一つ突き抜けられた。そんな感じです。
「幸せへの理解度が上がった」「休んでもいいんだよ」
ーー世界一周の旅に出て、幸福度は上がりましたか?
「何が幸福なのか?」という問いに対する理解が深まりましたね。仕事で忙しい方がカッコいいと疑わず生きてきましたが、いまは、家族とともに過ごす時間こそが”本当の幸せ”なのだと深く感じています。
帰国後も、仕事一辺倒の生活に戻るのではなく、もう少し「休み」にフォーカスし深堀りしてライフスタイルを構築していきたいねと、妻とはよく話しているんです。
ーー旅のあとに、新しい世界が見えてくる予感はありますか?
ちょっとおこがましい話になりますが、旅を終えたあと、「僕たち自身」よりも、「僕たちの旅を見てくれていた仕事仲間や同業者の方々」の価値観が変わるのでは?という予感があります。
「あれだけ忙しくしてきた人(=JOE)が休んだんだ、俺も、私も休んでみようかな……?」って。
みんなもっと休んだっていいし、休んだ方が世界が広がって新しいことをクリエイトできるかもしれない。僕たちの世界一周を通じてそんな“気づきや発見”をちょっとでも届けられたなら、とてもうれしく思います。
城 正博
スタイリスト。 1976年和歌山県出身、46歳。メンズ誌を中心に活躍し、広告やタレントのスタイリングも数多く手掛ける。2023年1月31日から妻と5歳の娘とともに世界一周中。YouTubeチャンネル「SOLA旅」で旅の記録を発信している。Instagram
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城リユア Riyua Joe
編集者・ライター
大分県生まれ。情報誌編集部を経て独立。旅、エンタメ系インタビュー、ビジネスなど幅広く執筆。ニュースメディアでのノンフィクション取材や旅メディアでの動画制作も。