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【安藤サクラさんインタビュー】生きとし生けるものが愛しく抱きしめたくなりました

2023.06.12

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『万引き家族』の是枝裕和監督と安藤サクラさんが、『怪物』で再びタッグを組んだ。さらに『花束みたいな恋をした』の坂元裕二さんが脚本、坂本龍一さんが音楽という座組みを聞いて心躍らない人はいないだろう。そのとおり、完成した映画は期待を軽く超え、観る者の胸に突き刺さる。

生きとし生けるものが愛しく抱きしめたくなりました
────安藤サクラさん

【安藤サクラさんインタビュー】生きとし生けるものが愛しく抱きしめたくなりました

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「腰が抜けました! 最初、今までの是枝監督の映画をイメージし、坂元さんの作品で感じたリズムで脚本を読んだのですが、そこに自分が入るのが怖かったんです。でも是枝作品でも観たことのない人の映り方、坂元作品で観たことのない時間が流れていて、想像していたものすべてが別次元で……。少年2人の輝きに心が震え、涙が止まりませんでした」

安藤さんが演じたのは、11歳の息子・湊を育てるシングルマザーの早織。息子の異変を心配した早織は学校に訴え出るが、学校側は完全に逃げ腰。担任の保利は謝罪を棒読みし、校長はのらりくらりとやり過ごす。

「撮影初日は校長室のシーンから。ちょっとしたことが後の物語に影響してくるので、テイクを重ねて監督が求めているものをいろいろと探っていって。体力はいりましたが、それがとにかく楽しかったですね。深刻な場面ですが、段取り(本番前に動きを確認する)のときは、涙を流して笑っていましたよ(笑)。だって保利がいきなりアメを食べ始めたり、私が(校長役の田中)裕子さんの鼻を触ってみたりと、役を探る中でのさまざまな演技が普通に考えたらおかしくて。先生役の皆さんが、もう最高でした!」

実際のシーンを観ると教師たちの無責任な言動に怒りを覚えつつ、その熟練俳優たちの裏側でのやり取りを聞くと、つい噴き出してしまう。果たして湊の異変の原因は? そこに担任の保利はどうかかわっているのか。もう一人の少年を加え、われわれの想像や思い込みは物語が進むにつれてどんどん裏切られていく。

「最初は怒りやわが子を心配する気持ちがあふれましたが、終盤に“だまされた!”という展開がある。でも早織を演じるうえでは、最初の感覚を残しておかなければと、脚本の中盤以降は薄目で読みました(笑)。私は姉妹で育ったので、小学生の男の子とママの関係がわからない。“子どもを触る”という行為ひとつとっても、監督に確認しながらやっていきました。とはいえ今回の課題は、役柄としても役者としても、主軸となる少年2人の魅力をどううまく引き出し、どう支えられるかでした」

そうして迎えるラスト、それぞれでとらえ方は違っても、誰もが言葉を失い、物語を反すうするはずだ。

「生きとし生けるものすべてが愛しく、“しゃーないやん、人間なんだもの”と抱きしめたくなりましたね。命を愛でることができました」

さて現在、5歳の娘さんの子育てをする安藤さんに、日々感じていることを伺ってみた。

「私は職業柄いろんな視点で見てしまうので、“こうしたら?”と言いながら、“いや、一概には言えないんだけど”と思ってしまう。母子としてではなく、“人と人”として接しています。だから子育てをしているというより、自分もともに育っている感覚が大きいですね。親にも子にも、向き不向きや得意不得意があるからこそ、自分たちに合った関係性や心地よい距離を見つけるのがいいなと。それが子どもにもストレスのない環境につながると思っています」

Profile

1986年2月18日、東京都生まれ。’07年に『風の外側』でデビュー。『百円の恋』(’14年)、またカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『万引き家族』(’18年)で、2度の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。高い評価を得続けている。近作に、映画『ある男』(’22年)、ドラマ『まんぷく』(’18年)、『ブラッシュアップライフ』(’23年)など。
Instagram:sakuraando
Twitter:sakura_ando
公式サイト:http://www.humanite.co.jp/actor.html?id=16

『怪物』

『怪物』

©2023「怪物」製作委員会

大きな湖のある郊外の町。シングルマザーの早織(安藤サクラ)は夫を事故で亡くして以来、11歳の息子・湊(黒川想矢)と2人暮らし。最近、湊の様子がおかしく、早織は担任の保利先生(永山瑛太)からモラハラや暴力を受けているのではと疑いを持つ。そこで校長(田中裕子)に訴えるが、教頭(角田晃広)を含め、学校側の不誠実な対応に不信を募らせる。(全国公開中)


撮影/木村 敦 ヘア/AMANO メイク/星野加奈子 スタイリスト/坂上真一(白山事務所) 取材・文/折田千鶴子
こちらは2023年LEE7月号(6/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
※商品価格は消費税込みの総額表示(掲載当時)です。

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