『パリタクシー』
小さな出会いと意外な展開に笑い泣き必至の感動作
母国で大ヒットした後ハリウッドでリメイクされた『最強のふたり』や、『エール!』(『コーダ あいのうた』のオリジナル版)など、質だけでなく量(万人受け)も満たすフランス映画が数年ごとに現れるが、本作もそんな1作になるかも!? もう、温かな感動のジワジワが止まらない。
貧乏暇なし、さらに免停寸前になり家族に会わせる顔がないタクシー運転手のシャルルは、パリの反対側まで行ってくれという面倒な依頼にブチ切れ寸前。乗り込んできた92歳のマドレーヌは、そんなことはお構いなしに、「ちょっと寄り道してくれない?」と言い出す。シャルルは不機嫌を濃くしながらも、マドレーヌの話に耳を傾けるうち、次第に彼女の人生に興味を引かれ、大きく心を動かされていく。
車中や寄り道先での2人の会話と、若きマドレーヌのドラマが、交互に映し出されていく。その人生の、あまりに波瀾万丈なこと!! 立ち寄る先々に刻印された彼女の壮絶な経験に何度も言葉を失いながら、それを飄々と語る口調、彼女の強靭さや度量の大きさ、達観した人生観に尊敬の念を覚えずにいられない。同時に、苦虫を噛み潰すような顔をしていたシャルルの変化や、マドレーヌとの間に共感や敬意や労わりが生まれ、どんどん情が深まっていく様子にも魅せられる。
また、若きマドレーヌが過ごした’50年代の社会風潮や女性の置かれていた立場には、あらためて愕然とさせられる。とりわけ検事も弁護士も裁判官もみな男性という中で裁かれた、マドレーヌの“ある罪と罰”には憤りが込み上げ熱くなる!
生き生きと演じるのは、大人気コメディアンのダニー・ブーン、国民的シャンソン歌手のリーヌ・ルノー。横断するパリ各所の風景も、今昔が織り交ざるだけに一層見逃せない。たった1日ながら2人の人生が交差し、深いところで触れ合った、別れ難い情感がじわじわ胸に広がる。ほんの小さな出会いがもたらした奇跡の感動と贈り物を、私たちも享受させてもらえたような気分!
・新宿ピカデリーほか全国公開中
・公式サイト
『ザ・ホエール』
米アカデミー主演男優賞受賞! 異色の室内心理劇
恋人アラン亡き後、過食を繰り返し体重272キロに膨れたチャーリー(ブレンダン・フレイザー)は、持病が悪化するも入院せず、アランの妹に看護を頼っている。余命わずかと悟った彼は、疎遠にしてきた17歳の娘と関係修復を試みるが――。ほぼ室内のみにして、ただならぬ緊迫感にズッポリ! 人の心のままならなさ、愛と赦しと相互理解、宗教2世というモチーフも入り、濃密な人間ドラマに鼓動が速まり、心が震える。
・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
・公式サイト
『ヴィレッジ』
『新聞記者』の監督・藤井道人×横浜流星の再タッグ
薪能の伝統が残る自然豊かな村の山には、似合わぬ巨大ごみ処分場がそびえたつ。父が起こした事件で村から出ていけない優(横浜流星)は、絶望の中そこで不法労働を強いられる。しかし幼なじみ(黒木華)が村に戻ったことを機に、再び人生に希望を見いだしかけるが……。一度堕ちたら抜け出せない負の連鎖にハマった優の苦闘、汚職と癒着、村社会の同調圧力は、まるで現代日本の縮図のよう。息詰まるヒューマン・サスペンス。
・4月21日より全国ロードショー
・公式サイト
※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。
取材・原文/折田千鶴子
こちらは2023年LEE5月号(4/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です
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